爆死の魔術師 8話『仲間探し』
本編
(さて、本当にどうしたものかな)
放課後、ユウトはバッグへ教材を詰め込みながら嘆息する。
仲間探しを諦めて1人で魔術戦争に出場する、なんてことは不可能だ。そもそも勝率が低いし、出場しようとしても教師たちから無理やり止められるだろう。
(とはいえ俺と組める人なんてそう居ないだろうし)
幸いにも見つけたところで、次に問題となるのは”爆死”と組めるか、だ。例えエリーと戦い勝利したとはいえ、その殆どがそれを信じていない。
『アレを説明するわけには行かないのですか?』
指輪の宝石が煌めいてアリナが問いかけるが、ユウトは首を横に振った。
(難しいね。アレは俺たちの切り札だし、話すこと自体がリスクだよ。説明したとして、信じてもらえるとは思えないし)
改めて難しい状況であることを思い知らされる。ため息を吐いたユウトはバッグを肩に担ぎ――
「――よう、ユウト。ちょっと良いか?」
幼馴染であり、クラスメイトのリョウヤに声をかけられた。突然話しかけられて少し驚いた表情のユウトに、リョウヤは人当たりの良い笑みを浮かべる。
「お前って魔術戦争は出るんだろ?」
「あぁ、うん。そのつもりだよ」
首肯するユウトに、ズイッとリョウヤが顔を近づけた。
「メンツは?」
「まだ転校初日だよ。決まってるわけないでしょ」
「ならよ――」
そのままリョウヤはユウトの背後に回り込むと、唇に弧を描いて肩に手を回す。
「お手頃な人材が、ここで絶賛発売中だぜ?」
「え?」
想定外の申し出に、思わずユウトは目を丸くさせた。
「リョウヤってチーム組んでなかったの?」
「おうよ」
2年生の殆どは│魔術戦争《マギ》へ出場するため、すでにチームを組んでいる。だがリョウヤは組んでいない……つまり、
「まさかリョウヤって、去年の魔術戦争に出場してない?」
「へへ、大当たり」
「なッ……!?」
衝撃の事実に、ユウトは目を見開いた。
魔術学園に通う生徒たちにとって、│魔術戦争《マギ》は自らの力を示せる格好の機会である。それをみすみす見逃すということは、この学園に通う意味を放棄しているのと同義だ。
「どうして? リョウヤの実力なら引く手数多だっただろう?」
出場しなかった理由が思い至らず、ユウトは眉をひそめてリョウヤへ問いかける。
「どうしてって、お前を待ってたからに決まってるだろ」
さも当然のように言い切られて、思わずユウトは愕然とした表情を見せた。
「俺を待ってたからって……あの時の約束を守ってたわけ?」
「おうとも」
すんなりと信じられないことを首肯するリョウヤに、もうユウトは呆れるほかない
まだユウトたちが幼い頃、そしてユウトが”神童”と呼ばれていた頃。確かにリョウヤとそんな話をしていた記憶があった。
『俺たちが魔術学園に通ったら、一緒に魔術戦争に出ようぜ!』
(まぁ、一方的にリョウヤが言い切っただけだけど)
心のなかでそう言って苦笑したユウトは、未だ肩を組んでくるリョウヤから離れた。そうしてリョウヤの前へと立つと、スッと手を差し出す。
「それじゃあ、その昔の約束に甘えようかな。一緒にチームを組むこと、お願いしても良い?」
「あったりまえよ。こっちから売り出してんだぜ?」
リョウヤは整った顔で楽しげに笑うと、差し出された手を勢いよく握った。
「よろしく、リョウヤ」
「こちらこそよろしくな、ユウト」
◇
チームを組むことになったユウトとリョウヤは、その後2人で自修館へと訪れていた。
<自修館>とは、その名の通り生徒たちが自主的に修練を修める建物のことだ。ただ建物と言っても、実際は校舎の地下に存在する巨大な施設なのだが。
自修館の中には1〜3人程度の利用を想定しているため、小部屋が所狭しと並んでいる。その1室にユウトたちは居た。
「というわけで『ユウトと愉快な仲間たち』のうち、1人が見つかったわけか」
「その脳天気な名前はどうかと思うけど……。そうだね、魔術戦争へ参加するためにあと1人見つけなきゃいけない」
床や壁一面が白いタイルで覆われた自修館の一室――自修室の中で、ユウトとリョウヤは最後の1人をどうするか話し合っていた。
「という訳で、リョウヤの知り合いに良さげな人が居たら紹介してほしいんだ」
「良さげな人……ねぇ」
リョウヤは思案するように天井を見上げると、不意に「そういや」と呟く。
「あの”白騎士”ちゃんは駄目なのか? かなりユウトにお熱みたいだったし、頼みゃ引き受けてくれるんじゃねぇの?」
「エリーか……」
”白騎士”の魔術師、エリー・レンホルム。”Sランク”精霊と契約した彼女をチームに誘えれば、百人力どころの話ではない。
しかし、ユウトは首を横に振った。
「なして駄目なんだ? あの子と組めりゃあ、かなり楽になるぜ?」
「だからこそ、だよ」
断られると思わなかったのか、意外そうに目をパチクリと瞬かせるリョウヤに、ユウトは言葉を続けた。
「俺の夢を叶えるために、もう一度エリーと戦わなきゃいけないんだ。大会の場で戦って、勝って、そこでようやく一歩近づくんだよ。……”最強”っていう俺の夢に」
全国大会優勝を目指すならば、エリーと組むのが最も近道だろう。だが、それで行き着くのは”日本最強”だ。ユウトが目指すのはそこではない。
――彼が見据えるのは、文字通り世界の頂なのだから。
「は、ははは! ははははッ!」
気づけば、リョウヤは込み上げる衝動に任せて大きな声で笑っていた。
「な、なに?」
驚いた様子で若干引き気味のユウトに、リョウヤは笑いすぎて浮かび上がった涙を指で拭きながら、心の底からの笑みを見せる。
「わりぃわりぃ。いや、お前は変わらねぇなと思ってさ」
「……子供っぽいってこと?」
自分の夢を語って笑われたのが不満だったのか、眉をひそめてユウトは抗議する。と、そこで身に着けている指輪が赤く瞬いた。
『”最強になりたい”というのは十分に子供っぽいのでは? このお子ちゃまマスター』
「うっ……!」
突き刺さる正論に、思わずユウトは胸を抑えて呻く。
『……まぁ、その子供っぽい夢に乗っかっている私も同じですが』
――続くアリナの蚊の鳴くような声で呟かれた言葉は、痛いところを突かれて藻掻くユウトに届くことなく消えた。
「そ、そういう訳でエリーを誘うつもりはないよ。だからリョウヤの知り合いに居ないかな?」
顔色が忙しなく変わるユウトを見て、精霊と何かを話していたのだと把握したリョウヤは、込み上げた笑いを抑えつつ腕を組む。
「んー……良さそうなやつはとっくの前にチームを組んでるからなぁ」
「まぁ、そうだよね」
殆ど神頼みに近しい感覚で聞いてみただけなので、ユウトは特に気にした様子もなく話を続けようとして――唐突にリョウヤが「あっ」と声を漏らした。
「ひとり、心当たり居たわ」
「え、本当に?」
思わず前のめりになったユウトへ、リョウヤは力強く頷いた。
「確か、結構ランク高い精霊と契約してたはずだ。ただまぁ、ちょいと問題があるが……」
「問題?」
不穏な単語に眉を潜めつつも、すぐにユウトは首を振って思い直す。こうしている間にも、どんどんフリーの生徒は減っていくのだ。焦れている余裕はない。
「いや、どちらにせよ取り敢えず会ってみたい。リョウヤ、連絡取れる?」
「おうよ。任せとけ」
少し不安要素があるものの、何とかメンバーが集まりそうで安堵の息を漏らしたユウトだった。
