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爆死の魔術師 1話『晩春の転校生』


あらすじ

魔術学園に転校した黒井悠隼は、最弱の”Fランク”精霊と契約した魔術師である。転校初日に、彼は最強の”Sランク”精霊と契約するエリー・レンホルムに突如として決闘を申し込まれ――それに勝利する。
なぜなら悠隼は精霊と契約する前、最強に最も近いと謳われた”神童”の1人だったからだ。
「世界に見せつけてやろう、アリナ。俺たちが、爆死とFランクが、頂に立つところを」
これは世界に証明する物語。――それでも、オレは天才なのだと。


本編

 天才と凡人。人間を2種類に分けるのならば、その少年は間違いなく天才だった。

「――はじめまして、私の名はアリナ」

 魔法陣から光が溢れて、『機械人形』のような少女が現れる。

 光沢のある無機質な黒い肌に、それを覆う純白のフォーマルドレス。顔の上半分がヘッドセットゴーグルで覆われており、表情を読み取ることができない。ただ、丸みを帯びた体と白いシスターベールにより、女性であることが伺えた。

「――――」

 彼女を呼び出した天才少年は、ただ呆然と『機械人形』を眺める。

 信じられないと逃げて。嘘であってくれと祈って。これは夢だと願って。……どこか、腑に落ちた。

 そんな少年の様子に気付かない『機械人形』は、恭しく一礼すると機械音声のような声で告げる。

「貴方と契約を交わした、精霊です」

 ――その日、この世界から”神童”が消えた。

     ◇

 温かな陽の光に、桜の絨毯が敷かれている。4月も半ばが過ぎており、学生たちはすでに出会いと別れを済ませている頃。

光来コウライ魔術学園前~。光来魔術学園前~。お降りのお客様は、足元にご注意ください~』

 アナウンスを背に電車から出た少年――黒井クロイ悠隼ユウトは学園へと降り立った。

 彼を表現するなら『黒』だろう。今どき珍しい黒髪黒目に、黒い軍服のような学生服。整えられたマッシュの髪と下がり気味の目尻から、彼が柔和な人物であることを伺えた。

「ん〜っ、ようやく着いた」

 大きく伸びをして体の凝りをほぐしながら、ユウトは独りごちる。ガランとする駅構内にもかかわらず、そんな独り言に反応する声があった。

『人工島にあるのは知っていましたが、まさか京都から一晩かかるとは思いませんでした』

 感情の起伏を感じられない、機械音声のような女性の声がユウトの脳内に響く。

「夜行バスと鈍行電車を使ったんだから当然だよ。新幹線に乗ってお金を浪費するわけにいかないしね」

 その声に対してユウトは苦笑しつつ、右手人差し指の指輪――それに嵌め込まれた赤い宝石へ視線を送った。

「アリナは疲れてない? ……っていうのは愚問か」

 問いに答えるように、赤い宝石から強い光が溢れ出す。それは徐々に人型を象っていくと、1人の少女となってユウトの前に着地した。

「えぇ。<精霊>である私は疲れませんから」

 『機械人形』の少女――アリナの言葉に、ユウトは頷く。

「なら行こうか。駅の出入口で担任の先生が待っているはずだからね」

「はい」

 ガラガラとスーツケースを転がしながらユウトたちは改札口を抜ける。周りに人はおらず、駅から出ればすぐに目的の人物を見つけられた。向こうもすぐにユウトたちを見つけらしく、軽く手を挙げる。

「――はじめまして、とその精霊」

 駅の出入口の中心で待ち構えていたのは、『キャリアウーマン』風な女性だった。

 ポニーテールの黒髪にしっかりとアイロン掛けされたスーツ。極めつきは濃度が高くて真っ黒のサングラスと、いっそ清々しいまでの徹底ぶりだ。

 完成度が高すぎて威圧感のある女性へ近寄り、ユウトは深々と頭を下げる。

「はじめまして。確か――水月ミナヅキ先生でよろしいですか?」

「そういうお前は黒井クロイ悠隼ユウトだな?」

 水月の問いかけにユウトは首肯した。

「はい、その通りです」

「なるほど」

 そう言いながら、チラリと水月の視線がユウトから一歩下がった位置にいるアリナへ向く。

「噂通り、機械的な容姿の精霊か」

「お初にお目にかかります」

 丁寧に頭を下げるアリナを尻目に、水月は「さて」と踵を返した。

「授業は明日からだ。まずは寮に荷物を置いて、それから学園長のところへ挨拶しに行く。しっかり付いてくるように」

「分かりました」

 首肯したユウトは先を歩く水月の背中を追いつつ、少し先に見える大きな学門へと目を向ける。

 ――日本国立光来コウライ魔術学園。全国でも4校しか存在しない、魔術師ウィザードの育成機関が1校。

 季節外れの4月半ば。黒井クロイ悠隼ユウトはこの学園の2年生として転入する。

     ◇

 学園長室へと続く廊下を歩いているユウトは、本日5度目のため息をつきそうになった。

「あれが例の……」

「本当に精霊の容姿が機械なのね……」

 その原因はヒソヒソと聞こえてくる生徒たちの噂話と、無遠慮に向けられる憐憫や同情、慢侮まんぶの視線たち。

 先導する水月もその声や視線に気づいているらしく、前を歩きながら小さく口を開けた。

「気にするなとは言わんが、奇異の目で見られることには慣れておくことだな」

「……はい」

 水月の言葉に頷きつつ、ユウトは周りを見渡してみる。周囲に映るのは、同じ黒い学生服を纏う少年少女たちと――彼らの横に立つ精霊の姿だった。

 彼らの精霊は様々な姿をしており、パッと見ただけで少年、少女、青年、老人……果てには鳥や猫など。何より特徴的なのは、すべて創作物から飛び出してきたかのような、美しい造形をしていることだ。

(生徒の大半が”Bランク”の精霊。たまに”Aランク”や”Cランク”がいる感じかな)

 軽く見回した後、ユウトは最後に1歩下がった位置で続くアリナをチラリと見る。数多くいる精霊たちの中でも、無機質な容姿の精霊はアリナ以外に存在しなかった。

(当然か。なにせアリナは――)

「――っと、水月先生?」

 不意に、先導していた水月が立ち止まる。それに驚きつつ止まったユウトは、水月の視線が向く先を肩越しに覗き、

「――――え?」

 目を見開いた。

「キミが噂の転入生だね?」

 ユウトたちの前に立ちはだかっていたのは『女騎士』。

 日本人ではないとひと目でわかる彫りの深さ。その上で顔のバランスは高いレベルで整っており、立ち姿もどこか気品を感じられる。しかしながら男性用の制服を身に纏っていたり、髪を後頭部で団子にして纏めるその外見は、騎士や王子様という言葉がよく似合っていた。

「キミは……!」

「ユウト、彼女をご存知なのですか?」

 明らかに誰かを知っている様子のユウトに、アリナがそっと近づいて問いかける。だがそれに答えたのは、ユウトではなく水月だった。

「”白騎士”の魔術師ウィザード、エリー・レンホルム。光来学園1年生にして北部ヨーロッパからの留学生であり――、”Sランク”精霊の契約者だ」

「――――ッ!」

 息を鋭く吸い込んだアリナを尻目に、ユウトは水月を追い越すと改めて女騎士――エリーと向き合った。

「初めまして。エリー・レンホルムさん」

「――――。あぁ。初めまして、ユウト」

 ユウトの言葉に一瞬の空白を作るエリーだったが、すぐさま人当たりの良い笑みを浮かべて答える。一瞬の空白にユウトも気付いていたものの、それよりも別の点が疑問として浮かび上がった。

「……どうして、俺の名を?」

「今、この学園でキミを知らない生徒はいないさ」

 様になる仕草で肩をすくめたエリーは、周囲を示すように両手を広げる。

「ここは世界で活躍する魔術師ウィザードを育てるための施設……魔術学園。だからここに通う生徒たちは皆、高ランクの精霊と契約した魔術師ウィザードだ」

 「でも」とエリーは続けた。

「キミの契約した精霊は低ランク特有の特徴……無機質な容姿を持つ。ここまでなのは、最低の”Eランク”でもそう居ない」

 ユウトは何も言わない。まるで彼女の言葉を促すように、ただ静かにエリーを見つめている。刹那の空白、エリーは決定的な一言を言い放った。

「つまり、”Fランク”だ」

「…………」

「最低評価の”Eランク”を下回る、。その契約者がこの学園に転入するなんて、噂にならない訳がない」

 挑発的な笑みを浮かべて、エリーはユウトを見やる。美しい金の瞳が、スッと細められた。

「そうだろう? ――”爆死”の魔術師ウィザード黒井クロイ悠隼ユウト

「”爆死”、か」

 もう聞き慣れてしまったその蔑称に、ユウトは小さく笑みを浮かべて反芻する。

 魔術師ウィザードにおいて最も重要なのは、契約する精霊の強さ。だからこそ魔術師ウィザードを目指す者は、契約する精霊ができるだけ高ランクであることを祈るしかない。

 ――そう、のだ。

「エリー・レンホルムさん。ならば私を無能と知る貴方が、私よりも遥かに才能を持つ貴方が、一体何の御用でしょうか」

 ユウトの1歩後ろで控えていたアリナが、スッと前に出て問いかける。エリーは精霊とは思えない容姿のアリナに視線を向けて、「簡単なことだよ」と言い切った。

「諦めていた夢を叶えに来たのさ。ねぇ、ユウト?」

「――――」

 瞬間、悟る。

 まるで煽るように……否、明らかにユウトを煽るこの視線は、噂だけで知った者のそれではない。

(……彼女は”オレ”を知っているんだ)

 ならば、ユウトが聞くことはただ1つだけだった。

「キミの夢を叶えさせるには、どうすれば良いのかな?」

「ふはっ」

 思わずといった風に笑い声を吹き出したエリーは、金色の瞳に爛々とした輝きを秘め始める。

 その輝きの名は、期待。

「キミに望むことなんてないよ」

 一見、エリーの言葉は容赦のない断りの言葉に聞こえた。

 否。

「――キミに夢を見るだけさ」

 だから、

「この目で確かめるよ。が、まだ憧れのままなんだってことを」

 パサリ。

 エリーが黒い布切れを放り、軽い音と共にユウトの胸にぶつかる。地面に落ちた布切れを見れば、それは彼女の付けていた手袋だった。

「あぁ、なるほど」

 彼女が夢見ていたものに合点がいき、思わずユウトは口元を緩めた。嵌めていた手袋を他者へ投げつける。その行為が示すものは、ただ1つ。

「エリー・レンホルムの名において。ユウト、キミに――魔術戦争マギを申し込む」

 紛れもない決闘の宣告だった。


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