90年代アンダーグラウンド・パンク/ハードコアを巡る【第4回/終】
00年代以降、シーンの分岐と持続性
シーン構造の変化
2000年代に入ると、パンク/ハードコアに限らず、日本のアンダーグランドシーンは急速に変容していきます。インターネットの普及により情報流通の中心がフィジカルからデジタルへ移行し、ライブハウスやフィジカルリリースに依存しない活動スタイルが広がっていきました。地方と都市の間の情報格差も縮小し、地理的な「中心」と「周縁」という概念そのものが緩やかに崩れていきます。パンク/ハードコアもシーンが一元的なものではなく、多様な小規模ネットワークの集合体へと移行していきました。
継続─活動を守り続けた90年代組
90年代後半に確立されたスタイルを大きく崩さず、活動を継続したバンドも存在します。
Hi-STANDARDは、長い活動休止を経て復活、DIY精神とメロディックパンクという軸を貫いています。しかし恒岡章氏の逝去に伴って、バンドの今後については慎重な動きが続いています。
BRAHMANは、ハードコアを基盤に叙情性を加えた独自の音楽性を堅持しつつ、社会活動にも積極的に関与し続けています。
envyは、幾度かのメンバー交代を経ながらも、激情系ハードコアの基軸を守り、国内外での活動を継続。
eastern youthは、日本語詞の叙情性とオルタナティブ・パンク的感性を深化させながら、一貫した歩みを続けています。
これらのバンドは、単に活動年数を重ねただけでなく、初期に持っていたスタンスや美学を更新しながら維持してきた点に特徴があります。
拡大─00年代以降にピークを迎えた中核バンドたち
90年代末から2000年代初頭に結成・台頭したバンドのなかには、ジャンルを広げつつも、地下文化の延長線上にあるスタンスを保った存在もあります。
10-FEETは、ミクスチャーを基盤にしながら、京都を拠点とした自主運営を維持し、フェス主催(京都大作戦)などでも独自の影響力を発揮しています。
Hawaiian6は、東京を中心に活動を続け、メロディックパンクに叙情性を加えたスタイルで、固定ファン層を維持し続けています。
MONOは、90年代末結成のインストゥルメンタル・ポストロックバンドで、国内外のレーベルからリリースを重ね、海外ツアーも積極的に展開。
heaven in her armsは、激情ハードコアを起点にポストメタルへと深化しながらも、DIY的な活動スタイルと激情的なライブパフォーマンスを堅持しています。
downyは、ポストハードコア/ポストロック/エレクトロニカを融合し、都市型叙情性を強く打ち出した存在として、2000年代のシーンに独自の重層性を与えました。
これらのバンドは、ジャンル的には細分化を進めつつも、活動姿勢としては90年代的な自律精神を色濃く引き継いでいる点が共通しています。
細分化─2000年代以降に登場した新鋭バンド群
00年代には、さらに音楽性の幅が広がった新鋭たちが登場しました。
SUSPENDED GIRLS:メロディックパンクの流れを汲みつつ、DIY精神に根ざした活動。
THE ACT WE ACT:エモ/オルタナティブ文脈、静と動のダイナミクスを強調。
killie:激情ハードコアの枠組みを深化、内省的・文学的アプローチ。
endzweck:メタリックハードコア〜激情を横断、海外展開も積極的。
AKUTAGAWA:叙情性とスケール感を併せ持つポストロック〜エモ的アプローチで独自性を確立。
Climb The Mind:名古屋拠点、緻密なバンドアンサンブルと叙情的メロディで国内外から高評価。
これらのバンドたちは、音楽性の細分化だけでなく、小規模な自主流通ネットワークとDIY的な活動形態によって、都市圏だけでなく地方都市や地域単位でも独自の動きを生み出しました。
また、90年代のSnuffy Smileなどに端を発するDIYディストリビューション文化は、2000年代以降もWaterslide RecordsやSENSELESS RECORDSなどによって引き継がれ、、柔軟な形で維持・発展していきました。これにより、細分化したバンドたちが孤立することなく、緩やかなネットワークの中で共鳴し合う基盤が保たれていたのです。
独立展開─スタイルを変えながら地下精神を持続した系譜
一方で、音楽性を大きく変えながらも、出自や運営姿勢に地下文化の影響を感じさせるバンドも存在します。
toeは、激情ハードコア/ポストハードコアの感覚を引き継ぎつつ、インストゥルメンタル主体のポストロックへと展開。
mouse on the keysは、Nine Days Wonderのメンバーを含み、ジャズ・ポストロック・エレクトロニカを融合させた独自の音楽性で活動。
また、バンド単位ではなく、個人単位でジャンルを越えた活動を展開した例も見られます。
上田剛士(ex:The Mad Capsule Markets)は、AA=としての活動でインダストリアル/デジタルハードコアを深化させたのち、幅広いプロデュースワークにも着手。
サイトウジュン(JxJx)(ex:FRUITY)は、YOUR SONG IS GOODを経た後、オルタナティブな音楽活動からプロデュースワークやイベント企画、DJ活動へと活動の幅を広げました。
彼らは、音楽スタイルこそ大きく変化したものの、自己運営・独立精神という点では90年代地下文化の延長線上に位置する存在だと言えるでしょう。
現在への接続点
現在のインディペンデント音楽シーンは、明確な「地下/メジャー」の二項対立では捉えにくいものになっています。しかし、自主運営、自己決定、ローカル重視といった価値観は、形を変えながらも根強く受け継がれています。
レーベル運営、イベント企画、自己発信型の活動など、かつて地下文化が担っていた「自分たちで場を作る」という意識は、今もなお、さまざまなスタイルの中に息づいています。
なお、本稿で紹介したバンドや動向はあくまで一例であり、他にも言及すべきバンドや動きは数多く存在します。シーンの全貌はさらに広範かつ多様であり、ここに挙げた事例はそのごく一部にすぎないことを付記しておきます。
終わりに
ポスト2000年代以降の日本のパンク/ハードコア・シーンは、スタイルや場所を大きく変えながらも、その根底にある「自分たちの意志でやる」という精神を失ってはいません。90年代に問われた「どこに立ち、どう続けるか」という問いかけは、今日の音楽文化の多層的な地層にも、確かに生き続けていると、私は感じています。(終)
