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なぜ優秀な人ほど判断を誤るのか

組織の失敗というと、私たちはついこう考えます。

  • 情報が足りなかった

  • 市場予測が外れた

  • 分析が甘かった

  • 能力が不足していた

つまり、

「知識の問題」

として理解しがちです。

しかし今回紹介する研究は、違う見方を提示しています。

Midtgård, K., & Selart, M. (2025). Cognitive biases in strategic decision-making. Administrative Sciences, 15(6), 227.

失敗の原因は、情報不足ではなく認知バイアスかもしれないというものです。

興味深いことに、そのバイアスは、

  • 経験豊富な管理職

  • 専門家

  • リーダー

にも普通に起こります。

むしろ、優秀な人ほど陥りやすい場合すらあるのです。


この論文は何を調べたのか

著者は、組織変革に関する実際の意思決定を分析し、認知バイアスがどのように戦略判断へ影響したのかを検討しました。

企業は今、

  • DX

  • AI導入

  • 働き方改革

  • 組織再編

など常に変化を求められています。

しかし現実には、多くの変革が期待通りの成果を出せません。

著者は、戦略そのものではなく、「戦略を考える人間の認知」に注目しています。

問題は「考える力」ではない

私たちは通常、賢い人ほど良い判断をすると考えます。

しかし心理学は長年、少し違うことを示してきました。

人間は、どれだけ知能が高くても、どれだけ経験が豊富でも、思考のショートカットを使います。

それが認知バイアスです。

バイアス①:確証バイアス

もっとも有名なのが、確証バイアスです。

人は無意識に、

自分の考えを支持する情報

を集めます。

例えば、AI導入を進めたい経営者がいるとします。
その経営者は

  • AI成功事例

  • AI導入企業の記事

  • AI活用のメリット

ばかり目に入ります。

逆に、失敗事例は軽視されます。

バイアス②:サンクコスト効果

日本語では、

「引くに引けなくなる現象」

と言えます。

例えば、

あるプロジェクトに

  • 予算

  • 時間

  • 人材

を大量投入しましたが、成果が出ません。

合理的に考えると、プロジェクトを撤退すべきです。

ところが人は、「ここまで投資したのだから」と考えて続行してしまいます。

バイアス③:過信

優秀な人ほど、「自分は客観的に見られている」と思いやすいです。
しかし実際には、専門家も予測を外します。
しかも問題なのは、間違った予測そのものではありません。

問題は、

「自分は間違わない」

と思うことです。

すると、異論が入らなくなります。

なぜ組織でバイアスが強くなるのか

認知バイアスは、個人だけの問題ではありません。

組織には、認知バイアスを増幅する仕組みがあります。

例えば、上司が強い意見を持っているとします。
すると部下は、無意識に同調する可能性があり、反対意見は出にくくなります。
結果として、グループ全体が同じ方向へ偏ります。

これは

Groupthink(集団浅慮)

として知られています。

面白いのは「合理的な人ほど危ない」こと

私たちは、感情的な人が間違うと思いがちです。
しかし実際には、知能が高い人ほど、自分の信念を守るための高度な論理を作れてしまうことがあります。

つまり、賢さが

「真実を探す能力」

ではなく、

「自分を正当化する能力」

になってしまうのです。

AI時代の危険性

最近は、意思決定支援としてAIが使われ始めています。
一見すると、バイアスは減りそうです。
しかし実際には、新しい問題があります。

例えば、経営者が最初に結論を持っているとします。
さらにAIに、その結論を支持する情報だけを探させます。
すると、確証バイアスが発生しやすくなる可能性があります。

この論文の本質

この研究の本質は、戦略の失敗を

「能力不足」

だけで説明しないことです。

むしろ重要なのは、「人間はどう考えるのか」です。

優秀な人でも、経験豊富な人でも、認知バイアスから逃れられません。

だから必要なのは、完璧な判断者になることではありません。

むしろ、「自分も偏る」と理解することです。

組織変革の失敗は、しばしば戦略の問題として語られます。
しかし本当に難しいのは、戦略そのものではなく、その戦略を考える人間の認知かもしれません。

自分自身は客観的だと思っているかもしれませんが、その確信こそが、最大のバイアスなのかもしれません。

認知バイアス研究が教えてくれるのは、「人は間違える」という当たり前の事実ではありません。むしろ、「自分だけは間違えないと思う時が、最も危険である」ということなのだと思います。

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