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映画感想文『ぐるりのこと。』 人間模様の天井画。いま観ると豪華キャスト

監督:橋口亮輔/2008年 日

バブル崩壊から21世紀にかけて社会が激変した時代を背景に、実際に起こった犯罪・事件を織り込みながら、ある夫婦が辿る希望と再生の10年間を描く。

映画.comより

※ごく個人的な感想です。ネタバレあったらごめんなさい。


年齢と時代で見える景色が変わる

2008年の公開時に劇場で鑑賞して以来の再鑑賞。

公開時は、ウチのヨメのツボにハマったようで、映画半ばで嗚咽を漏らし始め、その後約1時間、劇中の木村多江並みに泣き続けて、映画が終わったらグッタリしていました。
彼女が生涯で一番泣いた映画なんじゃないかな。

でも、今回17年振りに鑑賞したら、ケロッとしていましてね。
自分でも「何であんなに泣いたんだろう?」と不思議がっていました。

それはおそらく、観る側の年齢の問題だと思うんです(時期もあるけど)。
アラフォーと50代後半の今では見える世界が違う。
おそらく絵に描いたら、同じ被写体でも別の絵になると思うのです。
絵は描けませんけどね。

最近、この手の「年齢と時代で見える景色が変わった」という感想が多くなってていけないな。古い映画ばっかり観てるから。新しい映画観ろよ。

木村多江は監督の分身

橋口亮輔作品は結構観ています。
最近でも、『ハッシュ!』(2001年)の再鑑賞とか、新作『お母さんが一緒』(24年)とか。

本作は、『ハッシュ!』以来7年振りの作品でしたが、この間、橋口監督は鬱を経験されたそうです。
それが如実に映画に現れていると思うんです。
なんなら、劇中の木村多江は橋口亮輔そのものじゃないかな。

劇中、子供を失う、あるいは堕胎するというエピソードが出てきます。
ゲイであることを公言している橋口亮輔は、『ハッシュ!』でも子供を持てないことの痛み(とでも言うのかな?)的なことを描いていますが、本作の子供エピソードも同じ意味合いだと思います。
女性に置き換えたけれども、ゲイの監督自身の投影。いや、むしろ分身。

先に結論を言ってしまいますが、木村多江は回復して天井画を描くに至ります。
そう考えると、この『ぐるりのこと。』自体が、監督が回復を経て描ききった天井画なのです。

リリーさんの見た世界は監督を苦しめた世界

映画の主な舞台は1990年代後半。
バブル崩壊、阪神淡路大震災など社会の激変を背景に描きつつ、メインで取り上げるのは、地下鉄サリン事件、池田小学校事件(実際は2001年だったけど)など、「人」が起こした「事件」です。

先に子供の話を書きましたが、裁判所で扱われる事件に「子供殺害」が多い。「虐待された児童の絵を描いてこい」なんてエピソードもある。
「子供」というキーワードに何を見い出すのが正解なのかわかりませんが、少なくとも「未来へつながる絆」を「人」が断っている…というように見えます(個人の感想です)。

さらに「逃げる」というキーワードも出てきます。
リリーさんの父、木村多江の父、加害者家族の自殺、被害者家族の自殺未遂、とんかつ屋……。
「逃げちゃダメだ!」と碇シンジ君が言ったのは1995年でしたが、90年代後半は「逃げる」ということが一つのキーワードだったのかな?
自分のリアルタイムなんだけど、よく解りません。
でも監督は「逃げないこと」を描きたかったようには思うんです。

いま思い返すと、やっぱりあの頃は「世紀末」だったんですよね。
社会とか価値観とか、地殻変動が起きていた気がするんです。
人々も事あるごとに「お前も蝋人形にしてやろうか!」って口にしてましたしね(<嘘です)。

絵を描くということ

本作のリリー・木村多江夫婦は共に絵を描きます。
でも、その性質が全然違うのが面白い。

リリーさんは、法廷画家として(仕事として)「社会の暗部」を描くんです。
一方、木村多江は、自分のために「美しい物」だけを描く。
これは「陰と陽」、「鬱と躁」、「死と生」という対比なのでしょう。

世の中って、その両方で成り立っているんですよ。
50代後半のイケオジ(自称)になると、それがよく解ります。
いかに若い頃の自分が物事の一面しか見えていなかったことか。
橋口亮輔は、自身の病という経験を経て、「陰と陽」の混沌と調和を見たのでしょう。
実に多面的で、広く深い映画です。

今やオールスター映画

改めて観ると豪華俳優陣なんですよ。
当時でも「田中要次と佐藤二朗が鍋囲んでエロ話してるよ。最高だな」と書いていましたから、売れていたとは思うんですけどね。
でも、どちらかというと、当時はまだ邦画や日本のドラマのファン(というかマニア)受けする「バイプレイヤー」キャストだったと思うんです。
今やお茶の間でも有名な役者さんばかりですよ。いちいち挙げませんけどね。そういやこの頃は、まだ安藤玉恵を認識してなかった気がするな。

一つ言うとしたら、倍賞美津子。
先日、山田洋次『家族』(1970年)で姉・千恵子について熱く語りましたが、ここは妹・美津子。
木村多江の母親役なんですけど、女と逃げた夫のエピソードが出てくるんです。まるで神代辰巳『恋文』(1985年)。
本作で夫の愛人のことを「いい女なんだね」って言うんですよ。あの倍賞美津子が。いやいや、あんたがいい女だったから!
燃えろいい女。ミ・ツ・コ。

(2025.12.07 北千住シネマブルースタジオにて再鑑賞 ★★★★★)

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