求:モンブラン 譲:ガトーショコラ
私は、妻が今後食べるはずの全てのモンブランをもらう権利を有している。代わりに、私はこれから出会うガトーショコラを妻に差し出す義務がある。
時は妻との結婚前、もっというと交際前にさかのぼる。
このぱーしゅりの書くエッセイを読んでいただいている熱心な読者様ならすでにお気づきかもしれないが、私と妻は食への熱量がとんでもなく高い。私が書いてきたエッセイのうち、タイトルに食べ物が入っている作品を集めれば、いい感じのビュッフェが完成するんじゃないかというほどにいろんな種類の食べ物が頻度高く登場している。
ビュッフェにはデザートが欠かせない。ジェラートの記事も書いたが、ビュッフェのデザートといえばアイスだけではなくケーキの類も不可欠だろう。ということで、今日の主役はモンブランとガトーショコラだ。
三度目のデートのことである。
三回目ともなるとすっかり打ち解けていた私たちは、食べ物の話に始まりさまざまなトピックについて話に話しまくっていた。(念の為、食べ物の話ばかりしていたという誤解をされるのもどうかと思うので、真面目な話もしていたことを補足しておく)
どういう話の流れだったか忘れてしまったが、私はモンブランが好きで、妻はガトーショコラが好きという話になった。
あ、思い出した。当時モンブランをプリンの上に乗せたモンブランプリンという小学生が考えた最強のスイーツ!みたいなコンビニスイーツに私がハマっており、それを妻に教えたところこの話になったのだった。
小学生が考えたと揶揄したが、「磯野〜野球しようぜ〜!」くらいのノリで「モンブランプリンって知ってるか〜!」と私も言っていた。つまり、同類だったということだ。
一方で妻は無類のチョコレート好きだ。昔はカカオアレルギーだったらしいが、チョコレートが食べたくて無理やり克服したらしい。私もエビが好きだがエビアレルギーなので、食べまくれば克服できるのかな?と一縷の望みをそこに見出しているが、妻に毎回止められるので仮説を検証できないでいる。
妻のチョコ好きはどれくらいかというと、ホワイトデーの時にチョコ以外のお返しという選択肢など最初から存在しない、くらいだ。チョコ以外を検討する必要がないという楽さはある一方で、そんなチョコマイスターの妻を満足させるチョコを調達するというミッションが年一で課せられるのはなかなかにチャレンジングだ。
話を戻すと、そんな私たちは三度目のデートで、モンブランとガトーショコラについて話していたわけだ。
その会話の中で、私は何の気なしに「これから出会うモンブラン、全部俺にちょうだい!代わりにガトーショコラを全部あげるからさ」と言った。
…なんだか改めて文字にするとバカっぽい。小学生の発言みたい。だが本当なので仕方がない。
小学生が考えたようなどストレートな交渉に、妻はあっさり乗ってきた。なんと交渉成立。かくして私は今後ガトーショコラを食べる回数が激減する代わりに、モンブランを他人の二倍食べる人生が決定したのだ。
ちなみに私はガトーショコラも人並みに好きなので、いざ交渉が成立してしまうとそれはそれで少し寂しい気持ちもある。妻も同じ気持ちならいいのだが、おそらく同じではない。彼女のモンブランとガトーショコラへの気持ちの差は私のそれより遥かに大きそうだ。
先ほどの交渉が成立した後、私はあることに気づいた。
「あれ、これってこれからずっと一緒にいることを前提にした約束じゃん!何なのこの人、まだ付き合ってもないのに急に踏み込んでくるし図々しすぎて無理、とか思われてたら困る!やばい!」
そう思って彼女の方に改めて目をやると、なんだかとてもニコニコしている。これはどっちだ?「今後も一緒にいたいって思ってくれてるのね、嬉しい!という脈アリパターンなのか?それとも今後のガトーショコラの摂取量が爆増することにニヤニヤが止まらないのか?」
私は前者であると自分に言い聞かせて、その後ほどなくして付き合うことができ、無事結婚にまで至ったのだが、この前ついにその答え合わせができた。
結論から言うと、どうやら後者だったようだ。ガトーショコラがいっぱい食べられるようになることで頭がいっぱいだったらしい。というか、ずっと一緒にいる前提の約束であることに気づいていなかったらしい。チョコレートは冷静な思考さえも奪い取ってしまう。恐ろしい食べ物である。
私たちの間には、いわゆる恋愛的な「駆け引き」はなく、代わりにあったのはお互いの生涯のスイーツに関する「取引」だったのだ。
