二次元の地平線 壱
急に目覚めたように意識がはっきりしてきた。どういうわけか叩きつけるような土砂降りの雨の中、私は立ち尽くしていた。見覚えのない河川敷の草むらで目の前には誰かがうつぶせに倒れていてピクリとも動かない。白い衣服の背面は赤くにじんでいた。
そして私は右手に何か握っていることに気付いた。
刃物だということがわかった瞬間、反射的に手を離し、両腕に鳥肌が立つのを感じた。雨で洗い流されているが、返り血を浴びたように衣服や露出した肌は薄められた血液のようにこびりついていた。
こんな状況で冷静でいられる人間がいるのだろうか。
周りを見渡しながら誰もいないことを確認すると逃げるように駆けだした。
火事場のクソ力ととでも言ったらいいのか、気が付けばずいぶん遠くに見えていた橋の袂まで走っていた。もう走れない。汚れることも気にならずその場に横たわった。
頭上を駆け抜けていく電車音よりも激しく心臓は悲鳴をあげているのを感じ、呼吸が落ち着き始めた頃、記憶の断片を捜索した。
見つからない、何も…
なぜあの場所で刃物を持って立っていたのか。
倒れている人は私が刺したのだろうか。
それよりも私は誰なんだろうか。
自分の名前が思い出せない。
起き上がり、Gパンのポケットをまさぐったが何もなかった。
1時間くらい経っただろうか。弱まりつつあった雨は上がり、天使の梯子が見えてきた。ずっと考えていたが、一向に何も思い出せない。
私の記憶の断片は約1時間前の記憶しかないことに愕然とするだけだった。
考えたところで手掛かりは、あの河川敷にしかない。そう思った私は元の場所に戻ることにした。あらためて周囲を見渡してみても見覚えのある景色ではない。混乱していた頭の中を鎮めながらもと居た場所に戻ってきた。
倒れていた人も落としたはずの刃物も忽然と姿を消していた。
何度も周囲を確認したが間違いない、この場所のはずなのに…
手がかりを失った私はどこからともなく湧いてくる不安に押しつぶされそうになりながら焦点の合わない視界の先をぼんやりと眺めていた。

では 素敵な1日を✨
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