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『ねえ、どうしてあのおじさんは服を着ていないの?』

むかし、あるところに、自分の体裁が何よりも大切で、流行り廃りに敏感で、街で一番の仕立て屋に高い金を払っては、鏡の前でうっとりと時間を過ごす男がおりました。

男はある日、街一番の腕利きと評判の仕立て屋を呼び寄せ、こう言いつけました。
「誰からも文句を言われず、誰からも賞賛され、どんな多様な価値観にも完璧にフィットする、究極の一着を仕立ててくれ。ただし、それによって少しでも誰かを不快にさせることがあってはならん」

仕立て屋は、極めて重大な顔をして答えました。
「旦那様、それは難題です。
今の時代、お客様が今お召しのその『自信』は、少しばかり攻撃的でございます。
その『誇り』も、特定の感性をお持ちの方々には少々刺激が強すぎる。
昨今のトレンドで言えば、もっとも角が立たず、誰の心にも引っかからない『透明な素材』が一番でございます」

男はすぐに納得いたしました。
彼は、自分の個性を構成していた要素を一つずつ剥ぎ取っていきました。
自信を、誇りを、男らしさを、あるいは人としての主張を。
それらはすべて、「誰かの居場所を奪うもの」として排除されました。

最後の一枚を脱ぎ捨てたとき、男は全裸になりました。
しかし、仕立て屋は手を叩いて絶賛いたしました。
「お見事でございます! これぞ、誰にも不快感を与えない、完璧なる透明な装いでございます!」

街の人々も、行列に並ぶ者たちも、口を揃えて叫びました。
「なんと素晴らしい服でしょう! これならどんな立場の人も傷つきません!」

男は、自分の輪郭が完全に消え去り、何も着ていないことなどすっかり忘れて、自信満々に大通りを闊歩いたしました。
周囲の拍手は、雨音のように街に響き渡りました。誰もがその「透明な服」を称賛せねばならないという、奇妙な強迫観念に支配されておりました。

そのとき、路地裏の片隅で、たまたま通りかかった子供が、無邪気に指をさして言いました。

「ねえ、どうしてあのおじさんは服を着ていないの?」

広場は、瞬時に静まり返りました。祭囃子のような賞賛の拍手は、まるで魔法が解けたかのように消え失せました。
沈黙のあと、人々は一斉に子供を睨みつけ、それから男の裸体を指さして、今度は別の言葉を吐き捨てました。

「なんて不適切な!」
「恥を知れ! 公衆の面前でその姿は猥褻だ!」
「大人がそんな剥き出しで歩くなんて、社会的な教養を疑うわ!」

さっきまで「最先端の透明さ」を褒め称えていた口が、今度は「猥褻な裸」を罵る口に変わりました。

男はパニックに陥りました。彼は裸であることそのものよりも、「裸であると言われたこと」に対する世間の激しい憤りに、ただただ恐怖しました。彼は仕立て屋に泣きつきました。
「どうにかしてくれ! 何かを着せろ! この視線から自分を隠すための、何でもいい、とにかく重厚な装備をくれ!」

仕立て屋は冷ややかに微笑み、今度は「絶対に誰も文句を言わせないための、過剰な重装備」を持ち出しました。
それは、ありとあらゆる属性のラベル、無意味な注釈、過剰なコンプライアンスの規定書を、男の皮膚に直接縫い付けるような作業でした。
男は、自分を隠すために、ありとあらゆる「社会的な記号」を、雪だるまのように幾重にも、幾重にも、身に纏いました。

それはもはや服ではなく、巨大な鎧、いや、牢獄でございました。
あちこちから垂れ下がる無数の属性のラベルは、風に吹かれるたびにカサカサと耳障りな音を立て、男の動きを奪いました。
かつてそこにいたはずの人間は、幾重にも塗り固められた「正しさの記号」の下で、完全に押しつぶされておりました。

数時間後、広場に立っていたのは、もう男ではございません。
性別も、年齢も、それが人間であるのか、それとも単なるコンプライアンスの彫像なのか、誰にも判別がつかない「何か」が、そこに佇んでおりました。

人々はそれを見て、ようやく満足げに頷きました。
「ああ、これでようやく適切になった。これならもう、誰の目にも触れることはない」

ボクは、その「何か」の横を、何事もなかったかのように通り過ぎました。振り返りながら、もう一度だけ指をさして、今度はこう尋ねてみました。

「ねえ、あの人、さっきまで裸だったのに。今は何を着ているの?」

誰も、答えませんでした。答えられる者が、もういなかったのかもしれません。

ボクはただ、路地裏からその静かになった広場を眺めております。明日もまた、街のどこかで、誰かが何かを脱ぎ捨て、あるいは何かを過剰に身に纏うことでしょう。そのたびにボクは同じ問いを、少しずつ形を変えて呟くのでございます。

「ねえ、あの人、歩けるの?」


Peter Andersen, at the Alley