【残唐五代史演義伝】第十七回 李存孝、四将軍を討ち取る
李嗣源と耿彪は激しく三合ほど撃ち合った。耿彪は怒りを抑えきれず、手に鉄鞭を取ると、李嗣源の画戟を強引に払いのけ、大声で叫んだ。
「逃がすものか!覚悟せよ!」
李嗣源はかわそうとしたが間に合わず、鉄鞭の一撃を受けて血を吐き、馬を返してそのまま逃走した。
耿彪は勝ち誇って陣営に戻り、葛従周に報告した。
「小官が出陣したところ、李嗣源と遭遇し、一鞭を加えたところ吐血し、逃げ去りました!」
葛従周は大いに喜び、
「これこそ、そなたの第一の功績だ」
と称えた。しかし、耿彪は冷静に言い放った。
「これしきの功など百件あろうが、大したものではありません。
真に第一の功績と言えるのは、李存孝を生け捕りにすることです」
一方、敗走した李嗣源は自陣へ戻ると、すぐに父である晋王のもとへ駆け込み、跪いて報告した。
「父上、存孝は裏切ってはいません!
鄧天王という賊将が仕掛けた犯将計でございます!」
周徳威も進み出て言った。
「私も李存孝殿を忠臣と見ております。彼を釈放すべきです」
晋王はこれを聞き、命じた。
「すぐに存孝を釈放せよ!」
李存孝は解放されると、父王の前に跪いて叩頭した。
晋王は李存孝を優しく諭した。
「これはお前の過ちではない。巣賊の鄧天王がこの計略を立てたのだ。
危うく英雄であるお前を屈辱的な死に追いやるところだった」
李存孝は深く頭を下げて言った。
「父王、私が鄧天王を捕らえて参ります。それにより私が潔白であることを証明いたします!」
そう言って辞去すると、再び黄河を渡り、鄧天王を討つため戦場へ向かった。
さて、安休休ら四将が李存孝を出迎え、これまでの出来事を聞いて確認した。
翌日、李存孝は兵を率いて巣軍の陣営へ向かい、再び戦いを求めた。これを聞いた葛従周は部下に問いかけた。「誰か出陣する者はいるか?」
すると、再び耿彪が進み出て言った。
「小官が出陣いたします!」
耿彪は甲冑を身につけて馬を駆り、陣前へ向かった。そこで李存孝を見た耿彪は、彼の外見を見て再び軽んじた。
「身の丈七尺(約百六十センチ)にも満たず、痩せ細り、まるで病人のようではないか!」
そう言うや否や、耿彪は馬を駆って、刀を振り下ろし、李存孝に斬りかかった。しかし、李存孝は瞬時に刀を払いのけ、腕を伸ばし猿のような力強い腕で耿彪を捕らえた。
右手で耿彪の首を掴み、左手で足を掴むと、そのまま馬上で背骨ごと身体をへし折り、地面に叩きつけた。
李存孝はそのまま次の敵を求めて戦い続けた。
巣軍の兵士がこれを報告すると、葛従周は驚愕し、 声を上げた。
「耿彪が李存孝に捕らえられ、二つにへし折られた!?」
そして、再び部下たちに問いかける。
「誰が次に出陣するのか!?」
すると、張龍と李虎という二将が進み出て言った。
「我ら二将が参ります!」
張龍と李虎は兵を率いて出陣し、馬を駆って刀を振りかざし、李存孝に向かって突進した。
張龍が刀を振り下ろした瞬間、李存孝は畢燕檛を高く振り上げて反撃し、張龍の身体を真っ二つにした。
それを見た李虎は怒り、槍を構えて李存孝を突き刺そうとしたが、李存孝はそれをかわし、渾鉄槊を振り下ろし、李虎を打ち殺してしまった。
李存孝は再び大声で挑戦を叫んだ。
これを聞いた葛従周は恐れおののき、声を上げた。
「このままではどうなるというのだ!?」
そのとき、もう一人の将崔受が進み出て言った。
「小官が李存孝と戦いましょう!」
崔受は兵を率いて陣を出ると、馬を躍らせながら李存孝の前に進み、叫んだ。
「李存孝!我を知らぬとは言わせぬぞ!
我こそ大将・崔受である!」
そのまま馬を駆って槍を構え、一気に突き刺そうとしたが、李存孝は槍を払いのけ、大喝した。
「賊将、どこにも逃がさんぞ!」
次の瞬間、李存孝は再び猿のような怪力を見せ、崔受を馬上から引きずり下ろし、片手でつかむと地面に力任せに叩きつけた。崔受の体は挽き肉と化し、即座に絶命した。
その後も李存孝は敵兵を次々と討ち、大半を殺して追い散らし、残兵は四方に逃げ去った。
李存孝は馬を返して陣営に戻ると、四将が迎え出て尋ねた。
「勝敗はいかがでしたか?」
李存孝は笑って答えた。
「今日の戦いで、崔受を挽き肉にし、耿彪を真っ二つに折り、張龍を斬り、李虎を打ち倒した。
兵は敗れ、将は喪い、逃げ散るばかりだったぞ!」
四将はこれを聞いて大喜びし、酒席を整え、李存孝の功績を盛大に祝った。
その一方で、使者を黄河の向こうへ派遣し、晋王へこの勝利の知らせを伝えることにした。
晋王は帳中で周徳威とともに李存孝の様子を案じ、こう語り合っていた。
「存孝は黄河を渡り、鄧天王を討つために向かったが、勝敗の行方はどうだろうか?」
ちょうどそのとき、一人の小校が李存孝からの急報を持って駆け込んできた。
晋王は小校を呼び寄せて尋ねた。
「存孝はすでに出陣したのか?」
小校は答えた。
「将軍は出陣し、次々と敵将を討ち取りました。まず四将を討ち倒した後、敵陣からは誰一人として出陣する者がなくなり、李存孝様はそのまま兵を引き上げ、陣に戻りました」
晋王はさらに尋ねた。
「討ち取った四将の名は誰か?」
小校はそれぞれの名前を順に説明した。
「耿彪、崔受、張龍、李虎でございます」
これを聞いた晋王は大いに喜び、感嘆した。
「我が子はまことに英雄である!」
周徳威もこれを称賛した。
「この四将を討ち取ったことで李存孝殿の手腕は十分に示されました。
黄巣を破る日はまさに李存孝殿の力にかかっております」
さらに周徳威は続けて提案した。
「この功績をたたえ、褒賞を与えて李存孝殿とその将兵を慰労するべきです。これにより、さらなる士気を高め、巣賊を一気に破る準備が整います」
晋王もこれに賛同し、使者を派遣して李存孝に褒賞を届け、軍士たちを慰労するように命じた。
また、自ら陣を離れて黄河を渡り戦況を監督することは避け、引き続き軍の指揮を李存孝に任せることにした。
小校は褒賞を持って李存孝の陣営に戻り、報告した。
「大王は李存孝将軍の武勇を大いに喜び、褒賞を贈られました。使者が現在、陣外でお待ちしております」
李存孝はすぐに褒賞を受け取り、それを軍士たちに分け与えた。
「これは我が軍の働きに対する大王の恩賜だ。皆、これを励みにさらに奮励努力せよ!」
その後、使者を再び黄河を渡らせ、晋王に無事報告させた。李存孝は四将とともに兵士を訓練し、戦の準備を整えていた。
一方、葛従周の陣営では、崔受が李存孝に捕らえられ挽き肉にされたとの報告が届き、陣中は恐怖に包まれた。
軍士たちはまさに『魂が天外に飛び、魂が冥府に落ちる』ほど震え上がった。
そのとき、一人の将が進み出た。張権である。張権は自信たっぷりに言った。
「小官に一計がございます。それをお聞きいただきたく存じます」
葛従周は興味を示した。
「どんな計略だ?」
張権は得意げに語った。
「この計は『停兵計』です。まず、総管が一通の書状を認め、李存孝に三日間の停戦を申し入れます。彼が停戦に応じた隙に、次の準備を整えます。
四日目に我が軍は『長蛇陣』を敷き、李存孝がそれを突破しようとした瞬間、総管は四十八万の大軍を率い、黄河西岸から魏南三県と華陰県に陣を張り、潼関まで布陣します。
そこに『七十二座連珠陣』を配置し、李存孝をおびき寄せて包囲するのです。
どれだけ武勇に優れていようと、李存孝一人が七十二陣を突破するなど不可能です。必ず捕らえ、この羊飼いを生け捕りにし、四肢を裂いて粉々にしてやりましょう!」
これを聞いた葛従周は喜び、称賛した。
「この計こそ大功を成すものだ!」
すぐに書状を認め、二人の軍士に持たせて李存孝の陣営へと送らせた。
李存孝は帳中で四将とともに酒宴を楽しんでいる最中、哨兵が急報を伝えた。
「賊将が使者を差し、書状を届けに参りました」
李存孝は軍士に命じた。
「使者を中に通せ」
二人の使者が李存孝の前に進み出て、恭しく言った。
「我らは葛総営の命を受け、この書状を届けに参りました」
李存孝は安休休に命じて書状を開き、読み上げさせた。安休休は声を張り上げて内容を読み始めた。
『大斉総兵官・葛従周、大唐飛虎将軍麾下に謹んで書を奉る。
拙者、かねてより勝敗は兵家の常と承知しております。
両軍が戦えば、常に完全な勝利を得るとは限らぬものです。
このたび将軍は、 崔受を沙場に摔《す》て、耿彪を馬下に抾《くつがえ》し、張龍・李虎を次々と討ち取りました。
その勇名は士卒の間にも轟きわたり、誰もが恐怖に震え、喪胆しております。
しかしながら、現在黄河左右に兵を屯しての戦は、両軍ともに陣を構えるのに不便です。
ここでお願い申し上げます。
将軍は天下の英雄にして蓋世無双の武勇をお持ちであるゆえ、三日間の停戦をお願いしたく存じます。
四日目に陣を布き、もし将軍がその陣を破ることができれば、我らは長安を献上し、末卒として貴軍に従います。
もしこの拙文にご寛恕を賜り、速やかにお返事を頂けましたら、将軍の寛大なる御懐は、まことに計り知れぬものと存じます。
金統四年三月初旬
葛従周拝す』
安休休が書状を読み終えると、李存孝に進言した。
「葛従周の書状は傲慢不遜なものです。返書を作り、こちらの威厳を示しましょう」
しかし、李存孝は冷笑しながら言った。
「戦場で勝敗を決するのは武力であり、文章で語り合うものではない。返書など不要だ。書の末尾に『允《ゆるす》』と一文字書き添えれば十分だ」
安休休はこれに深く頷き、賛同した。
「太保のお考えはまことに正しい」
李存孝は使者を呼び寄せ、尋ねた。
「お前たちの陣営には、将は何百人、兵は何万人いるのだ?」
使者は答えた。
「我が陣営には将が四百余名、兵は四十八万おります」
李存孝は嘲笑しながら言った。
「そうか、その程度の軍勢では俺を相手にするには全く足りないな!
葛従周に伝えろ。
『その四十八万の軍では俺に勝つことはできまい。長安に戻り、さらに四十八万の軍を連れて来い。それでも皆殺しにして、一人たりとも帰さぬ。そうするまで俺は男を名乗らぬ!』とな!」
使者は命を受け、葛従周のもとへ戻り、書状を差し出すとともに李存孝の言葉を詳しく伝えた。
葛従周はこれを聞き、驚きと不安が入り混じった表情で張権に向かって言った。
「もし計略が成功しなければ、いっそ長安へ逃げ戻るべきではないか?」
しかし張権は自信たっぷりに笑い、
「李存孝はただの匹夫で、陣法など理解しておりません。必ず捕らえられましょう」
葛従周は張権の言葉を信じ、このまま計略を実行することに決めた。
翌日、葛従周は兵を率いて陣を出し、三日かけて一字長蛇陣を完成させた。
一方、李存孝は四将とともにその様子を注視し、決戦の日を待っていた。偵察兵が飛び込んできて報告する。
「敵軍の布陣が完了しました!」
五日目、李存孝は四将とともに甲冑を身にまとい、馬にまたがって兵を率き、陣前まで進んだ。
彼が目にしたのは、槍・刀・戈・戟の林立する堅固な陣形であった。旗幡は風になびき、金鼓が鳴り響き、まるで鉄桶のように隙のない布陣が敷かれていた。
李存孝はしばらく観察し、四将に尋ねた。
「お前たちはこの陣を知っているか?
この陣は布陣の理にかなっている。中央が蛇頭、南側が蛇腰、北側が蛇尾に配置されている。これこそ『一字長蛇陣』、別名『兔守三穴陣』というものだ」
四将は驚いて尋ねた。
「太保、何ゆえこれを『兔守三穴陣』と呼ぶのですか?」
李存孝は冷静に説明した。
「もし中央の蛇頭を攻撃すれば、南の蛇腰と北の蛇尾が応じて迎撃してくる。
もし蛇腰を攻撃すれば、蛇頭と蛇尾が応じる。蛇尾を攻撃しても同様だ。
つまり、三か所を同時に攻撃しなければ、この陣は破れないのだ」
そして続けて指示を与えた。
「俺が一千の兵を率いて蛇頭を攻撃する。お前たち四将は二人ずつ組んで、それぞれ一千の兵を率い、蛇腰と蛇尾を攻撃せよ。
三隊が互いに援護しながら、息を合わせて同時に攻撃するのだ!必ず勝利を掴むぞ!」
四将は李存孝の指示を受け、決戦の準備を整えた。
命令を下し終えると、李存孝は軍を率いて、まっすぐ敵陣の正面を突いた。
まず一騎、李存孝の前に立ちはだかった。
李存孝は尋ねた。
「名を名乗れ!」
相手は答えた。
「我こそは大将・張権である。
そなたこそ何者だ!」
李存孝は答えた。
「大唐の飛虎将軍・李存孝!その名を知らぬか!」
張権は大いに怒り、馬を駆って斧を振りかざし斬りかかったが、一合も持たずに李存孝の一撃を受け、頭蓋は粉々に砕け、馬から転げ落ちた。
敵陣の四十八人の将は、張権が討たれるのを見ると、一斉に大音声を上げ、馬を駆って李存孝に殺到し、周囲を取り囲んだ。
しかし、李存孝は少しも怯まず、左へ右へと突き進み、一突きごとに一人を仕留め、ついには四十八人をすべて討ち果たした。
薛鉄山、賀黒虎、薛鴉灘、安休休の四将は、陣形が崩れ、賊兵が潰乱するのを見て、ただちに両軍をまとめて一団とし、まっすぐ敵の本営へとなだれ込んだ。
賊軍は不意を突かれて備えもなく、葛従周は慌てて馬に飛び乗り逃げ去った。
残った兵も十のうち八、九は傷つき倒れ、生き延びたわずかな者たちも、各自命からがら逃げ延び、葛従周とともに長安へと敗走した。
この一戦で、李存孝は猛将五十余名を斬り、精兵四十余万を潰走させ、屍は野に満ち、血は川のように流れた。
その両軍が長蛇の陣に殺到するさまは、どう形容すべきか。
ただ、このように語られるのみである。
李存孝は戦場で、大将を人馬もろとも打ち倒し、小卒たちを追撃しては甲冑を捨てさせ、槍を投げ捨てさせた。
鞭を振るえば金の兜ごと敵の頭蓋を打ち砕き、鉄の鎧すら棒で叩き割って、毛も骨も肉も四散した。
彼が渾鉄槊を振るえば、まるで水中から現れる蛟龍の爪のようであり、畢燕檛を振り上げれば、猛虎が羊をかき集めるような凄まじさだった。
戦場には愁いの雲が立ちこめ、屍体が野に横たわり、怨みの気がもうもうと立ちのぼり、血が一面を染め上げた。
もとはただ、長蛇陣の一戦だった。だが、これがきっかけで国の中枢にまで大きな禍を呼び込んでしまう。
まさに李存孝が長安へ殺到することを止める者は誰一人おらず、天は巣賊を一気に滅ぼそうとしているのである。
李存孝はその勢いで魏南三県を奪い、華州華陰を制圧し、さらに潼関まで進軍した。
しかし、ふと後ろを振り返ると、共に戦っていたはずの三軍の姿はすでに消えていた。
李存孝は驚き、四将に問うた。
「我が軍勢はあとどれだけ残っているのだ?」
四将は寂しそうに答えた。
「残っているのは十三名の兵士のみです。我ら四将を加えても合計十八騎です」
これを聞いた李存孝は感慨深く言った。
「この十三名の兵卒も、まるで我が兄弟のような忠勇な者たちだ!こうなれば、共に潼関を越え、さらに先を目指そう。
まずは霸陵川まで突き進むぞ!」
七日七夜にわたって戦いながら進軍し、李存孝たちは巣軍の陣営に突入し、糧食を奪って飢えをしのいだ。彼らはそのまま敵兵を追撃し、馬を止めることなく、ついに霸陵川を越えた。
葛従周はこれを聞いて激怒し、
「全ては張権の愚かな計略がこの大禍を招いたのだ!」
と恨みの言葉を口にした。
葛従周の大軍はそのまま長安へ戻り、軍士たちに命じた。
「急いで長安城に入れ!城門を閉じよ!」
しかし、その直後、李存孝達もまた長安城に突入してきた。
李存孝達はそこが長安であることに全く気づいていなかった。
もしそれが長安の都城であると知っていれば、いくら命知らずの勇将・李存孝が、趙雲に劣らぬ胆力を持っていても決して城内に進軍することはなかったであろう。
張権詭計縦尋常 存孝英雄不可当
(張権の計略は平凡なる詭計だった。だが李存孝の英雄ぶりは止められない。
一字長蛇衝破了 佇看焼燬永豊倉
(一字長蛇陣はことごとく破られ、次は永豊倉が焼き尽くされるを見ることとなる)
明代の学者・李卓吾は語る。
李存孝は一日にして耿彪、崔受、張龍、李虎の四将を討ち取り、さらに長蛇陣を破り、猛将五十余名、精兵四十万余を撃破した。
その後も単騎で追撃を続け、ついには長安城へ突入するとは、まさに無敵の勇者である!
