【残唐五代史演義伝】第四回 黄巣、蔵梅寺に起つ
黄巣は山の頂上にそびえる寺を見つめた。
石碑には「蔵梅禅寺」の四文字が刻まれ、その景観はまさに絶景であった。
詩がその美しさを物語っている。
金光万道衝雲漢 紫霧千条鎖翠峰
(無数の金の光が空を突き抜け、雲と天の川を貫いてゆく。千筋の紫の霧が、緑の峰を包み込むようにたなびいている)
景物非凡観不尽 原来却是梵王宮
(ただならぬ景色に目を奪われ、いくら見ても飽きることがない。なるほど、ここはまさしく仏の王の宮殿だったのだ)
黄巣が景色を楽しんでいると、寺の僧侶が彼を見つけ、驚いて長老に報告した。
「山門の外に、一人の異様な男が立っています。もしかすると、あの黄巣かもしれません!」
長老はこの報告を聞くと、すぐに僧たちに命じた。
「敷物を敷き、香を焚き、一歩ごとに拝礼して、黄巣様をお迎えせよ!」
こうして僧たちは厳かな儀式で黄巣を長老の部屋へ案内した。
長老は深く頭を下げ、恭しく言った。
「主公をお迎えするのが遅れました。どうか拙僧の非礼をお許しください」
黄巣は怒って叫んだ。
「ふざけるな!誰が主公だと?」
すると長老は、かつてこの寺で起こった不思議な出来事について語り始めた。
黄巣は心の中で考えた。
(もし本当に天命があるなら、この寺の僧たちには一人も手をかけまい)
そう決意すると、長老が用意した酒宴を受け入れ、そのまま寺に身を隠すこととなった。
ある日、黄巣は寺の後花園を散策していた。
庭を歩いていると、一脚の机の上に一張の琴が置かれていた。
黄巣は琴を手に取り、一曲奏でた。
すると突然、東南の風が吹き、東南の地に雲が湧き上がった。
風が吹き抜けると、その中から一人の仙女が現れ、黄巣の前に立った。
仙女は静かに告げた。
「私は天からの命を受け、ここへ降りてきました。この宝剣をあなたに授けます。この剣は、八百万の命を奪い、三千里にわたって血の河を流すでしょう」
黄巣は剣を受け取ると、頭を垂れて拝んだ。
仙女は東南の方角を指し、
「ほら、あそこに仙長が来ています」
と告げた。
黄巣が振り向いた瞬間、仙女はすでに霧とともに消えていた。しかし、その手には剣が握られていた。
黄巣はこの剣を長老のもとへ持ち帰り、興奮して語った。
「これはただの剣ではない。天の意志を宿した剣だ!」
長老はこれを見て深くため息をついた。
「拙僧が言ったことに偽りはなかったのだ……」
時は庚子年、五月十四日のことであった。
黄巣は長老に告げた。
「私はこの剣を試す。日を定めた。庚子年壬申月甲申日庚午時——すなわち、明日五月十五日!
この時、私は剣を振るう! 寺の僧たちは全員、寺から退避せよ!」
ちょうどその時、行者が駆け込んできた。
「山の向こうに住む豪族、王十万家から招待がありました。明日、寺の僧たち全員を食事に招きたいとのことです」
長老は命じた。
「皆、明日その食事会に向かえ。私は寺に残り、主公のお世話をする」
こうして翌朝、寺の僧たちは全員が招待先へ向かい、長老は黄巣のために朝食を用意した。
黄巣は長老に告げた。
「今日の午時三刻(正午過ぎ)、ついに剣を試す。お前は身を隠しておけ」
長老は礼を言い、寺を出て身を潜めた。
道端には年老いて空洞になった大樹が立っていた。
「ここなら安全だろう……」
長老はその樹の中に身を潜め、じっと息を殺した。
時が過ぎ、ついに午時三刻。
黄巣は剣を手に寺を出た。
天を仰ぎ、祝詞を唱える。
「私は本来、唐の臣であり、ただの書生に過ぎなかった。
だが、今の朝廷は無道にして、奸臣を寵愛し、賢才を見捨てている。
皇帝はただ人の容姿を見て官職を与え、豪傑を見抜く目を持たぬ。
だからこそ私は誓う——権奸を倒し、天下を清め、王座を奪い取ると!
ましてや、天より授かりしこの宝剣がある。
これぞ天意、これぞ天命。
この良き日に、いざ剣を振るい、大志を成す!」
黄巣は誓いを終え、剣を見つめながら静かに呟いた。
「私はすでに誓った。この寺の僧には、誰一人手をかけぬと」
そう言い、周囲に人影がないことを確認し、目の前の大樹に向かって剣を振り下ろした。
ザクリッ!
剣が大樹を裂いた瞬間、鮮血が噴き出し、ゴロリと何かが転がった。
人の首だった。
驚いた黄巣は叫んだ。
「まさか、この樹の中に人がいたのか!?」
中を覗くと、そこにいたのは——法明長老だった。
黄巣は呆然とつぶやいた。
「私はそなたを殺すつもりはなかった……だが、天命からは逃れられなかったのだ」
この出来事を詩に詠む。
不肯参禅苦自修 法明長老命該休
(禅に入ることなく苦行に励んだ法明長老だが、その命もついに尽きた)
身蔵大樹無人見 誰識鋼刀不肯留
(大樹に身を隠したが、鋼の剣はそれを許さなかった)
黄巣大樹試鋼刀 只道蔵梅僧盡逃
(黄巣はただ試し斬りしたつもりだったが、僧たちは皆逃げたと思っていた)
非是法明蔵不密 奈縁天数莫能饒
(法明の隠れ方が悪かったのではない。ただ天命が彼を許さなかったのだ)
こうして、黄巣の最初の一太刀が、「血流三千里」と呼ばれる大乱の幕を開けた。
明代の学者・李卓吾は語る。
僖宗は顔だけで人を評価し、黄巣を退けた。
そのため、ついに黄巣は反乱を決意し、八百万の命が奪われ、血が三千里に及ぶこととなった。
かつての唐の天下は、こうして五代の戦乱へと引き裂かれていった。
そして、黄巣の最初の一刀が法明を斬る運命だったことも、すでに天の帳簿に記されていたのである。
いかに法明があがこうとも、その運命から逃れることはできなかったのだ。
