【残唐五代史演義伝】第四十八回 契丹、兵を遣わし石敬瑭を救う
この時、史建唐は陣中で療養していたが、石敬瑭の軍勢が激しく攻め寄せ、多くの武将を討ち取ったと聞くや、急ぎ甲冑を着けて馬にまたがった。
すると、一隊の契丹兵が現れ、その先頭には契丹の主将・伽離陀がいた。その姿は世にも珍しい奇観であった。
金盔雉尾紫纓飄 鳳翅双分插鳳毫
(金の兜には雉の尾が飾られ、紫の房飾りが揺れ、左右には鳳の羽が差し込まれている)
甲掛龍鱗金鎖甲 袍披紅艶艶紅袍
(鎧は龍の鱗を模した金の鎖かたびら、その上には鮮やかな紅の戦袍を羽織っている)
帯束獅蠻絲繍帯 虎筋筋打虎筋縧
(腰には獅子や異民族の文様を織り込んだ帯を締め、虎の筋で編んだ紐を結んでいる)
戦靴靴踏描金凳 銷金鋪上繍金銷
(戦靴は金で飾られた足台を踏み、金箔の刺繍がまばゆいほどに輝いている)
赤發發辺生乱發 黄毛毛内長黄毛
(赤い髪は逆立ち乱れ、黄色い毛は奥まで長く伸びている)
怪眼円睜睜怪眼 眉如鉄線鉄眉毛
(目はぎょろりと見開かれ、眉は鉄線のように太く力強い)
古怪中間真古怪 蹊蹺裡面更蹊蹺
(見るからに異様な風体であり、その奇怪さは群を抜いていた)
伽離陀は手に鉄骨朶を振りかざし、腕には彫り込みのある弓を掛け、背後には数千の契丹兵を従えていた。髪は乱れ、裸足で大刀を提げ、その威容は見る者を震え上がらせた。
史建唐は契丹軍の勢いがあまりに大きいのを見て、戦わずに逃げようとした。しかし伽離陀の放った矢が首筋を射抜き、血が流れ続けた。彼は夜陰に紛れて黒沙場まで逃げ延びたが、ついに力尽きて命を落とした。
後世の人はこれを詩に詠んだ。
五代英雄史建唐 曾破梁王戦場強
(五代の英傑・史建唐は、かつて梁王を打ち破り、戦場では並ぶ者のない強者であった)
天運循環帰晋土 惜哉名将矢中亡
(しかし天の巡り合わせにより、結局は晋の地に帰し、惜しくも名将は矢に倒れて命を落とした)
石敬瑭は契丹の援軍を得て、大いに勝利を収め、唐軍は潰乱し、兵は各々命からがら逃げ散った。契丹の主は兵を率いて虎北口に帰還し、そこに陣地を構えて駐屯した。
石敬瑭は唐の降兵二千余人を捕らえた。これに対し、劉知遠は石敬瑭に勧めて言った。
「彼らは旧敵の兵、全て殺してしまうのがよろしいかと存じます」
その夜、石敬瑭は契丹の主に謁見し、礼を尽くした。石敬瑭は言った。
「このたびは大人の御軍馬の御助力により、大いに勝利を得ました。まことに感謝に堪えず、この御恩、必ずや報い申し上げます」
契丹の主は答えた。
「当然ながら助け合い、ともにこの大事を成し遂げるべきであろう!」
かくて石敬瑭は辞して自陣へ帰還した。
翌日、石敬瑭は命令を伝え、劉知遠に軍を催させ、まっすぐ洛陽城下へ進軍した。城の四方をぐるりと包囲し、水も漏らさぬ備えとした。
洛陽城内の軍民はみな心胆を寒からしめ、誰ひとりとして出陣して敵を迎え撃つ者もなかった。
城中の百姓は昼夜驚き恐れ、天地に響くばかりに号泣した。
一方、廃帝は文武百官を集めて議を図った。
そのとき、馮道が進み出て奏した。
「陛下が当初、張皇后の言葉を軽々しく信じられたことこそが、この禍の発端にございます。今や永寧公主はすでに敵陣に帰され、朝廷の中に石敬瑭に敵する者など一人もおりませぬ。
この上は、陛下が和を求め、多くの金帛をお与えになり、高い官爵を授けて懐柔し、この災禍を解くほか策はございませぬ」
馮道の奏上が終わらぬうちに、石敬瑭の軍はすでに洛陽城下に到り、戦いを求めていた。
これを当番の官が急ぎ奏聞すると、廃帝は甚だ慌てふためき、やむを得ず馮道の進言に従い、吏部尚書・李安祥を派遣し、勅書一通と、金銀十車、彩緞十車を持たせ、城を出させて石敬瑭の陣営の外で伺わせた。
石敬瑭のもとに朝廷より使者がきたとの報告があった。石敬瑭はこれを許し、李安祥を陣中に召し入れた。
李安祥は拝礼を終えると、石敬瑭に着座を勧められたが、立ったまま言った。
「陛下は駙馬殿の軍が到着したと聞き、特に拙者を遣わし、勅命一通を賜り、貴公に河東一帯の地方の官爵を封じ、また労軍のため金帛三十車を贈り、講和を申し入れ、戦を避けて万民を安んじられんとされております」
これに対し、石敬瑭は厳しく言った。
「陛下は骨肉の情を顧みず、我が妻である永寧公主を囚え、張后皇后の言を信じた。われに兵を止めさせ、馬を返させたくば、まず張后皇后を引き渡し、その罪を正し明らかにせよ。
もし従わぬならば、ただちに兵を進めて城内に攻め入り、草も残さず掃滅するのみ!」
李安祥は石敬瑭の言葉を聞くと、それ以上何も言えず、すぐに辞去して持参した金帛をそのまま持ち帰り、城に戻った。
そして朝廷に参内し、廃帝に拝謁して、石敬瑭の言葉の一部始終を奏聞した。
これを聞いた廃帝は顔色を失い、文武百官とともに謀議して言った。
「石敬瑭は兵を退かぬと申す。さて、これよりどうすべきか」
言葉が終わらぬうちに、ひとりの者がさっと進み出て叩頭し、奏した。
「臣、願わくは兵を率いて出陣し、石敬瑭を生け捕りにしてまいります!」
その者は誰かと見ると、これは国舅・張龍であった。
廃帝は言った。
「もし汝が石敬瑭を捕えたならば、ただちに河東の地を与えよう。
また御林軍十万を与え、さらに李竣・常継忠の両名将を副えて遣わそう。心して事にあたるのだ」
張龍は鎧をまとい馬に乗り、兵を率いて城を出て、陣を構えた。
石敬瑭はただ一騎で先陣に立ち、大声で叫んだ。
「出てきたのは何者だ!」
張龍は答えた。
「俺は国舅の張龍だ!石敬瑭よ、早く馬から降りて降伏するがいい。俺の刀を血で汚させるわけにはいかんからな!」
これを聞いた石敬瑭は怒り、槍を手に突進した。張龍も急いで応戦したが、三合ほど打ち合ったところで力及ばず、馬を返して逃げ出した。
石敬瑭は追いすがり、背後から槍を突き立てて張龍を馬下に突き落とし、そのまま討ち取った。
副将の李竣・常継忠はそれぞれ武器を手に取り、戦いを挑んだが、劉知遠が突然駆け出し、李竣を馬上で一刀のもとに斬り伏せた。
常継忠は応戦する間もなく、石敬瑭が猿のように長い腕を伸ばして馬上に引き寄せ、そのまま生け捕りにした。
石敬瑭の軍はその勢いで駆け抜け、敵兵の半数以上を斬り伏せた。
石敬瑭は軍営に戻り、帳中に入って命じた。
「常継忠を轅門で斬首し、その首を晒せ」
さらに轅門に号令を発し、三軍に命を伝えた。
「ただちに攻城せよ!」
その夜、城下には雷のような太鼓の音が鳴り響き、天地を揺るがすほどの鬨の声が満ち溢れた。
これが朝廷に伝えられると、廃帝は慌てふためき、問いただした。
「国舅の戦いの様子はどうだったか?」
当番官が奏した。
「張龍様は二将を率いて出陣しましたが、皆石敬瑭に討ち取られ、兵の半分を失いました。
今や石敬瑭の軍勢は城を激しく攻め立て、張皇后を差し出せと求めております」
これを聞いた廃帝は動揺し、なすすべもなかった。
このとき、丞相・馮道は病を理由に参内しなかった。
廃帝は言った。
「誰か石敬瑭に立ち向かえる者があれば、その者には官位を加え、俸禄を倍にしよう!」
しかし文武の群臣は皆うつむいたまま黙し、誰ひとり名乗り出る者はいなかった。
廃帝は涙を流しながら後宮に戻り、張皇后に語った。
「朕が一時の不明で公主を幽閉したことが、この大禍を招いてしまった。今や国舅も石敬瑭に討たれ、城は危機に瀕している。石敬瑭はお前を討つとまで言っている。どうすればよいのか……」
張皇后は答えた。
「陛下、ご心配には及びませぬ。妾に一計ございます。長安の城郭は堅固で、容易に落ちるものではありません。明日、陛下が文武百官を率いて城楼に登り、石敬瑭と対面なさればよろしいのです。そしてこうおっしゃってください。
『皇后は最近、一人の公主を出産したばかりで、まだ三日の乳飲子ゆえ、七日を経たのちに必ず献上する』と。
その間に使者を諸郡へ遣わして急報を伝えれば、義に応じて勤王に参じる者が必ず出てまいりましょう。幾日か時を稼ぎ、兵が集まったのちに陛下自ら軍を率いて内外から呼応して決戦を挑めば、石敬瑭を捕らえることも夢ではございません」
廃帝は大いに喜び、言った。
「愛おしい妻よ!その策こそ妙案だ!」
翌日、廃帝は文武百官を率いて東門の城楼に登り、石敬瑭を呼び出して対話を求めた。
石敬瑭はちょうど将兵を督戦していたが、召しを受けて軍を率いて東門の城下に至り、仰ぎ見た。
廃帝は楼上から声をかけた。
「石駙馬よ、朕はこれまでお前に恨みを抱かせたことはない。なぜこのように朕を追い詰めるのだ?」
石敬瑭は答えた。
「臣もまた陛下を恨むつもりはございません。ただ張皇后を引き渡し、罪を正されれば、ただちに兵を退きましょう」
廃帝は言った。
「張皇后はつい先日、公主を産んだばかりで、まだ七日も経っていない。もしお前が本当に張皇后を求めて戦をやめるつもりなら、ひとまず兵を四十里ほど退かせよ。七日後には必ず張皇后を差し出そう」
石敬瑭は承諾し、軍を四十里退かせて陣を構えた。
これを見た廃帝はひそかに喜び、言った。
「石敬瑭め、皇后の計にまんまとかかったわ!」
文武百官とともに朝廷に戻ったのち、廃帝は後宮に退き、|張皇后に、石敬瑭が兵を退いたことを語った。
張皇后は言った。
「事を遅らせてはなりませぬ。陛下、すぐに各地へ急報を発し、救援をお求めくださいませ!」
廃帝はただちに十数通の告急の勅書を草し、使者に持たせて諸郡へ派遣した。
この先どうなるか、続きは次回にて。
明代の学者・李卓吾は語る。
永寧公主は張皇后に対して礼を欠いたとはいえ、廃帝が芸妓の讒言を軽々しく信じたため、ついに禍を招いたのだ。
金帛を運び、土地を割いて臣下と和を結ぼうとするに至ったのは、その情もまた憐れむべきである。
張皇后の退兵の策は一見奇抜であるが、結局は国が滅び、自らの身を失うことを免れまい。
