【残唐五代史演義伝】第七回 程敬思、詔を奉じて晋王に宣する
程敬思は、金銀財宝と勅書を携え、五百名の官軍を率いて北へと進発した。
その道中の情景を詩に詠むならば、このようである。
風颯颯 草萋萋 雲惨淡 雨淋漓
(風は颯々と吹き、草は青々と茂り、空はどんより曇り、雨がしとしとと降る)
沙鳥飛低岸 孤雁落平堤
(砂浜では水鳥が岸すれすれに飛び、孤独な雁が静かに土手に降り立つ)
霜跡板橋千古道 月明茅店一声鶏
(霜の残る木の橋は、古の旅路を物語り、月明かりに照らされた宿から鶏の鳴き声が響く)
程敬思は道中、飢えれば食べ、渇けば飲み、夜は宿を取り、朝には馬を進めた。
ついに大潼城に到着した。馬を止めて感慨にふけり、一首の詩を吟じた。
持鞭勒馬立芳洲 客路那堪満目秋
(鞭を手に、馬を止めて芳洲に立つ。旅の道すがら、秋の景色に胸が締めつけられる)
万畳蒼山雲惨惨 半泓野水緑悠悠
(幾重にも重なる青い山には沈んだ雲が垂れ、野の水は静かに緑にたゆたう)
西風征雁添郷思 寒樹帰鴉起暮愁
(西風に乗る雁が故郷への想いをかきたて、枯れ木にとまる鴉が夕暮れの寂しさを誘う)
一点忠心思報国 何時恢復旧神州
(胸にあるのはただ一つ、忠義の心。いつの日か神州を取り戻すことができるだろうか)
詩を吟じ終えた程敬思は、大潼城を後にし、さらに北へ進んだ。
数日後、ついに野狐嶺に到達した。
そのとき、突然、一隊の兵士が道を塞いだ。
中でも、一人の武将が馬を駆り、前に躍り出て、荒々しく怒鳴った。
「何者だ!ここを通るなら、金銀財宝を置いていけ!」
程敬思は馬を進め、一歩も退かずに堂々と答えた。
「我こそは大唐の通使、程敬思だ!
朝廷の勅書を携え、直北へ李克用を召し出す使命を帯びている!
金銀財宝を賊徒に渡すためではない!」
この言葉に、黄巾の男は激怒し、軍旗を大きく振った。
すると、山々や野原から無数の兵が現れ、あっという間に程敬思の五百名を包囲した。
金宝や勅書の積まれた荷車はすべて奪われ、賊たちは松林の奥へと逃げ去っていった。
取り残されたのは、たった一人の程敬思と、その愛馬のみ。
彼は荒野に立ち尽くし、声を上げて泣いた。
しばらく嘆き悲しんだ後、程敬思は絶望し、馬を降り、韁を解いた。
そして、林の中へ向かい、首を吊ろうとした。
だがその時、松林の奥から鼓の音が鳴り響いた。
驚いた程敬思が音の方を見やると、黒い鷹の紋を掲げた軍旗が翻り、一隊の騎兵が姿を現した。
隊の中心には、一人の若き異民族の武将がいた。
彼の姿は、まさに非凡だった。
身長は九尺(約210cm)、年は二十歳ほど。
顔は煙に燻された棗のように黒く、体つきは狼のようにしなやかで力強い。
頭には銀鼠の毛皮の帽子、身には錦貂の裘を羽織り、腰には獅蠻帯と呼ばれる獣革の帯を締め、背中には狼牙の矢で満たした矢筒を差していた。
彼の乗る馬は「青靛追風馬」と呼ばれる青黒い名馬。
手には鋭い光を放つ方天戟を握り、堂々とした風格を漂わせていた。
この若者こそ、後に名を馳せる李嗣源である。
李嗣源は槍を手にして馬を駆り、松林へと直行した。
すると、黒い顔の男が二百余りの部下を引き連れて現れ、地面にひれ伏した。
李嗣源が鋭く問いただす。
「貴様は何者だ?」
男は頭を下げて答えた。
「私は薛鉄山と申します。
生業は山賊で、ここに三百余人の部下がおります。
先ほど配下の謝応達が、林外を見回っていた際、誤って金宝を持ち去りました。
その後、大唐の使者のものであると知り、謝応達を処刑し、金宝を返還いたします。
さらに、我らすべて大唐に降伏し、貴軍に加わりたいと願います!」
李嗣源はこれを受け入れ、軍勢を一つにまとめると、
程敬思と並んで馬を駆り、金蓮川へと向かった。
李嗣源は先に使者を送り、父・李克用へ程敬思の到着を報せた。
これを聞いた李克用は、一万の兵を率い、直北より百里の地点まで出迎えに向かった。
そこに立つ李克用の姿は、まさに真の英雄豪傑だった。
頂上金盔双鳳翅 身披凱甲累金裝
(頭には金の兜、両側には鳳凰の羽が優雅に舞う。身には凱旋の鎧をまとい、全身が黄金の装いに輝く)
袋内弓彎生挺硬 壺中箭插点唇鋼
(背中には強く引き絞れる弓を背負い、矢筒には鋭く磨かれた鋼の矢が並ぶ)
刀懸偃月除奸黨 剣掛青虹草賊亡
(腰に下げた偃月刀は奸臣をなぎ倒し、帯びた青虹の剣は草賊を滅ぼすためのもの)
自幼曾観三略法 老年出陣気昂昂
(幼いころから『三略』の兵法に親しみ、年を重ねても出陣すればその気迫は堂々として衰えない)
李克用は程敬思を迎え、程敬思は深く拝礼した。
李克用はすぐに応じ、言葉をかけた。
「長らくお慕いしておりましたが、お会いする機会がありませんでした。
今こうしてお会いできたこと、誠に喜ばしい限りです」
程敬思も応えた。
「大唐の天下は今や黄巣に奪われ、京城も陥落。
陛下は西祁州へ避難されました。
大王の軍勢は勇猛果敢、皇室への忠誠は疑う余地もありません。
臣は万里の道を越え、詔勅と金宝を奉じて参りました。
どうかご救援をお願い申し上げます。
これこそが国家と生民にとって最大の幸いとなりましょう!」
李克用は深く頷き、言った。
「聖旨を賜った以上、香案を整え、謹んで拝読しよう」
かくして、詔勅が読み上げられた。
詔勅
『朕は天と地が開かれ、大いなる兵が世に広がることを聞く。
日と月が昇り沈むのは、天下を照らす徳のためである。
朕の高祖以来、一系十七代にわたり、天下を継承してきた。
朕は上祖ほどの才なく、ただ文武の輔佐を頼みとするのみ。
今、曹州冤句県の黄巣なる逆賊は、王仙芝の残党を率い、百万の軍を集め、朕の天下を侵した。
関外の百五十余州をことごとく占領し、朕はやむを得ず西蜀に遷都、成都の行宮に身を寄せる。
だが巣賊の野心は尽きず、日夜軍を募り、さらに隴を手中にし、蜀までも狙っている。
朕は大唐を復興し、国家を守り抜かんと欲するが、内に賢臣なく、外に勇将を欠く。
ここに、皇兄を忻代石嵐破巣兵馬大元帥、雁門都招討に封じ、
さらに龍衣一套、玉帯一条、金宝十車、金銀牌五百面、空白詔五百道を賜る。
天下の官軍は、すべてこれに従い、朕の命を裏切ることなかれ。
一日も早く軍を興し、巣賊を討つべし。
中和二年十月上旬』
詔書を読み終えると、李克用は天子の方角へ深く拝礼した。
程敬思は玉帯や詔勅の品々を献上し、
李克用は沖天冠を戴き、兗龍袍をまとった。
さらに淡黄色の衣を重ね着し、腰帯を締め直した。
間を置かず、李克用は十二太保と五百家将を集め、みな揃って詔勅への謝意を表した。
この様子を詠った詩も残る。
丹詔來宣帝室親 龍衣玉帯拜珠珍
(天子の赤き詔が皇室の血を引く者へ届けられた。龍の衣と玉の帯をまとい、貴き宝を拝受する)
斡旋天地加高爵 恢復山河召総兵
(天地を揺るがす重任を受け、爵位は高められた。祖国の山河を取り戻すべく、総兵を召集する)
急拯生民離水火 早誅強暴滅煙塵
(民を救わんと水火の苦しみから解き放ち。暴徒を早く討ち滅ぼし、戦乱を鎮める)
鄭畋不解童謠数 鴉谷黄巣未易平
(だが鄭畋は童謡に込められた予言の意味を読み解けなかった 鴉の谷に潜む黄巣は、たやすくは平定できない)
