ニュー・ハイブリッド
この世界には、男性として生まれたけど女性として暮らしている人たちがいることを知ったのは、小学校低学年の頃。
今みたいにインターネットからなんでも情報が取れる時代じゃなかったけど、テレビを見てたら私と同じ人がこの世の中にいるんだってことに気づいたの。生まれつき男の体に違和感があったから、そういう情報に目ざとかったんだと思う。
昔の関西のテレビ番組って土曜のお昼どきになると、今ではコンプラ的に完全アウトな下世話な情報番組を放映していたよね。
記憶違いかもしれないけれど、『ノックは無用』っていう横山ノックと上岡龍太郎が司会してた番組なんて、真っ昼間から出演者がカメラの前で胸を出してた気がする。
たぶんそういう番組の中で、ニューハーフとかMr. レディという言葉を知ったんだと思う。
『不適切にも程がある』ってドラマにもあったけど、あの当時ってリアルでああいうノリで、14インチのブラウン管のテレビに映るニューハーフのお姉さま方が『キワモノ』として面白おかしく扱われてた。
『昭和の本音丸出しの世界観 vs. 令和のコンプラまみれの世界観』 みたいな話をするつもりなんてないの。だけど、自分と似た境遇の人たちがああいう扱いを世間から受けてるのを見て、子供だった私は複雑な心境に立たされたわ。
憧れ半分、恐怖が半分……
私、地味な性格だし、親は子供の “しつけ” に厳しい人だったから、絶対あんな風にはなれないって思ってた。ニューハーフになりたいなんて、うっかり口を滑らせでもしたら、母から人格否定された挙句、出血するまで何度もビンタされるに決まってた。だから、恐ろしすぎて本当の気持ちを隠して生きてた。
本当の自分を隠して生きるのって、心を壊す猛毒を啜りながら生きてるようなものよ。自分自身に対していつも不満でいっぱいだから、人に対して攻撃的にになっちゃう。
「私はこんなに我慢して生きてるのに、なんであの人はあんなに自由なの!」
って、嫉妬心と卑屈さとが混じった真っ黒いヘドロがピューって音を立てて心から吹き出してたから、もう臭いったらありゃしない! そんな汚いものをかけられる方はたまったもんじゃないから、みんなから距離を取られ、嫌われてきた。
アラフォーくらいになって初めて、一生こんな生き方してたら心が壊れるって思ったから自分を変えようとしたの。最初は親が悪いとか環境が悪いとか何かのせいにしようとしてた。だけど、元を辿れば生まれつき男の体に違和感があることを認められずに自分に嘘をついてきたこと。そういうことを隠して生きてきたことが大元の原因だった。
実際、親も環境も酷かったけどさ、自分の人生なんだから自分でケリをつけなきゃって気がついたの。
だから私、親につけられていた首輪と鎖を外して、自由に生きてみることにした。
それまで40年間、男性としての人生を歩んできた私は、今さらニューハーフデビューなんて遅すぎるって思った。かと言って、トランスジェンダーとして生きるのも自分っぽくないって思ってた。だって、もし女性として生まれていても辿ってきた人生はそこまで変わってないと思うから。
男でも女でも、海外の大学で学び、現地で仕事して、国際結婚して…… って道のりは同じだったはず。
だからさ、性別を丸ごと変えてしまうトランスジェンダーよりも、私は『男と女の間で生きる人』って意味の、ニューハーフとかMr. レディって呼ばれてる人たちの生き方にすごく共感するの。
だけど、こういう言葉って令和コンプラ的にはきっとアウトよね!
だったら『ニュー・ハイブリット』なんてどうかしら?
ハイブリット車ってさ、ガソリン車と電気自動車のいいとこ取りじゃない? 男と女のいいとこ取りしてる私は、ニュー・ハイブリットって呼んでほしい。普通、男の車体に女性ホルモンのエンジンオイル入れたら壊れるけど、私はスイスイ気持ちよく風を切って走るようになったから、ニューハイブリッドで間違ってないと思うんだよね。
私の体ってほんと変な乗り物だわ。
でも、嫌いじゃないの。
てゆーか、大好き!

