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「マーケティング7.0」はAI迷子のマーケターに差し出されたコンパスだった

コトラー先生の「マーケティング7.0」が出版されました。早速手に取り読み終えたので、自分なりの学びをここにまとめてみたいと思います。まだ日本語訳されておらず、英語版にもAmazonで30件ちょっとしかレビューがついていないので、日本語でのレビューは最速レベルなのではないでしょうか。

この「マーケティングx.0」シリーズを知らない方のためにざっくりと説明すると、マーケティングの神様とも呼ばれるフィリップ・コトラーが、マーケティングの「バージョンアップ」を高らかに宣言し、その内容を解説するような著作集です。

7冊あるのか、と思いきや、シリーズは3.0から始まっているので5冊しかありません。先生は御年95歳とご高齢なので、2人の共著者が伴走しています。ちなみに、私は2019年に来日された際先生にお会いしたことがあるのですが、当時すでに90歳近かったにも関わらず体力も知力も健在で、まさにこの世のものならぬ威厳を放っていらっしゃいました。

「AIによって変わる人間」を理解する

さて、そんな神様の手になるこのMarketing7.0は、一言でいえば「AI時代のマーケティング論」です。もっとも、AIについては、実は2作前の5.0の頃から中心テーマの一つに据えられていました。ではそこから何が変わったのかというと、同書が解くAI時代のマーケティングとは、「AIによって変わりゆく人間を理解するマーケティング」なのだと私は解釈しています。

少し小難しくなりますが、より丁寧に言うと、「AIによって拡張された世界の中で、変わりゆく人間の認識に適応する現代のマーケティング(modern marketing that must adopt to shifts in human cognition in an AI-augmented world)」です。

AIによるマーケティングの激変に向き合う一人の実務家として、この考え方にはまさに膝を打つ思いです。AIでクリエイティブをつくる。AIで広告運用をエージェント化する。そうして「マーケターのオフィスの中」をAI化する前に、AI化された「顧客の日常の中」で、顧客自身がどう変わったのかを把握する。成果を出すためのポイントは、まさにそこにあるのだと日々感じています。

例えば顧客がいまやあまり検索をしなくなり、もっぱらChat GPTやGeminiで自社のカテゴリーについて調べているのだとしたら。Claude Codeで検索広告をエージェント化(自動化)したり、検索広告のクリエイティブを自動生成しようとしたりしていても、そこに大きな改善のレバーはないはずです。このあたりは、変化への適応が早いマーケターほど陥りがちな罠なのではないでしょうか。

AIがもたらす変化は、これまでとは異質

時代と共に変わりゆく顧客を理解する必要があるのは、そもそもマーケティングの基本なのであって、何も今に始まった話ではないだろう。その通りだと思います。ただ、今起こっている変化は、これまでの変化とは性質が違います。AIによって拡張された世界の中で、人間の感じる力・考える力自体が大きく変化しているのです。

メディアは感覚器官の延長なのであって、新しいメディア(ラジオ→テレビ→インターネットなど)の登場により、人間の感じる力・考える力はこれまでも影響を受けてきたではないか。それもそうだと思います。しかし、耳や目といった感覚器官ではなく、脳そのものを拡張するAIが、人間の感じる力・考える力に与える影響は、これまでの変化の比ではありません。またそれは、AI自体が爆発的に進化することで更に加速し、勢いを増すのです。

78歳の私の母親も、小学校低学年の姪っ子も、今やChat GPTやGeminiを日常的に使いこなしています。職場では、必ずしも最新技術に明るいわけではない同僚が、レポートや企画書を作る際にGensparkやNotebook LMを躊躇なく使っていたりするでしょう。この前代未聞の浸透の速さこそが、AIと「これまでのイノベーション」との違いを雄弁に物語っています。

AIはこれまでに例がないスピードと強さで、人間の感じる力・考える力を、その結果として顧客の購買行動を日々変え続けているのです。であればマーケターは、毎月登場する最新のAI技術にキャッチアップする前に、AIが日々かたどる新しい顧客の購買行動にキャッチアップし続けなくてはならないのです。

「注意から購入に直行ルート」とブランドフォーマンス

試しに、自分自身の購買行動を振り返ってみてください。例えば去年と今年で、夏の旅行プランを決めるプロセスはどう変わったでしょうか? 先日、車中泊用の車のカーテンを探していた私は、Geminiにアドバイスを求め、そこで初めて認知したメーカーの商品を、数分後に同社の通販サイトで購入していました。これは、明らかに1年間の自分にはなかった購買行動です。

ここで起こっていることは、単に情報探索のチャネル(経路)が変わった、というだけには止まりません。認知から購入に至るまでのファネルそのものからして、大きく変形しているのです。ちなみに、このような購買行動は私だけのものではなく、Marketing7.0にも「Attention-Decision path(注意から購入に直行ルート)」として紹介されています。

新しい顧客の購買行動に対応するには、新しいマーケティングの考え方が必要です。先ほどの「Attention-Decision path」なら、Brandformance(ブランドフォーマンス)がその一つですマーケティング関係者なら、初見でも何となく意味がわかる言葉だと思いますが、これはブランディングとパフォーマンス(オンライン上の売上やリード獲得)を両立させようとする考え方です。

このブランドフォーマンスは、言葉としてはそれほど新しいものではなく、元々はブランド広告にもパフォーマンス広告同等の厳密な効果測定が必要だ、という社内(特に財務)の要請から生まれた考え方でした。しかし、認知から購入までが一気通貫した新しいカスタマージャーニーの登場で、むしろ顧客側の視点から求められる考え方になったと言えます。その意味では新しいコンセプトなのです。

「顧客体験マップ」で顧客の体験を定点観測する

AI時代のマーケティングでは、こうして顧客の行動もそれに応じて必要とされるアクションも、短い期間の間に一変します。そして多くの場合、その変化は非連続です。認知の基点がテレビからYoutubeに変わるだったり、「興味」と「欲求」の間に「検索」が挟まる、などといった連続的な変化ではないのです。

実務家としてはそう聞くとめまいがする思いですが、幸いこの大荒れの海を行く航海には、頼るべきコンパスがあります。「顧客」です。AI時代のマーケターは、コンパスの針のように揺れ動く顧客の行動を指針とし、右へ左へと舵を切り続けなくてはなりません。顧客理解はBusiness as Usual(いつも通りの業務)であり、特別なイベントではありません。顧客観察と行動分析を定常の業務とし、絶えずその変化を追い続ける必要があるのです。

顧客観察と行動分析に関して、Marketing7.0では、Customer Experience Map(顧客体験マップ)というツールが紹介されています。顧客が自社の商品・サービスをどう体験するのかを、以下の6つのステージごとにつまびらかにするフレームワークです。

ディスカバリー
商品と出会う時の体験
ホスピタリティー
最初にコミュニケーションをとる時の体験
トランザクション
購入する時の体験
オンボーディング
初めて利用するときの体験
サポート
つまづいた時の体験
エンゲージ
利用のステージが変わる時の体験

例えば、先ほどの例で私が車中泊用のカーテンを買った時の体験をマッピングすると、以下のようになります。

ディスカバリー
Geminiにおすすめされた
ホスピタリティー
Geminiの評判通り迅速かつ丁寧な問い合わせ対応
トランザクション
公式サイトで購入。特に不便はない
オンボーディング
使用感は最高。期待通り
サポート
一部迷う設置方法はGeminiで確認
エンゲージ
品質に満足するも、推奨などの行動はせず

これを顧客インタビューなどでメーカーが定点観測していたら、まずはGeminiの登場頻度が激増していることに驚くでしょう。最初の接点がGeminiになっていること、くらいまではある程度予想がつくにしても、サポートや購入前の問い合わせにもGeminiがこれほど深く介在しているとは、担当者はちょっと想像し辛いのではないでしょうか。

このことは、人による問い合わせやサポート対応を通じて「感動する」「心を動かされる」という顧客体験の機会を奪い、ひいては満足した体験をシェアする、などという顧客の行動を制限しているかもしれません。ここ数ヶ月でSNS上の口コミが急に少なくなった、という異変の裏には、こうした顧客行動の急激な変化が隠れているかもしれないのです。

さて、通勤時間で読めるダイジェストにするつもりが少し長くなってしまったので、いったんここで筆をおくこととします。ちなみにこの文章はAIの利用0%です。

ここまで書いてきたことは、Marketing7.0を読んで私が学んだこと、感じ取ったこと、インスパイアされて思いついたことのごく一部です。注目するポイントもその解釈も、マーケターが100人いれば100通りあるものと思いますので、ぜひ皆さんの感想もお聞かせいただけると幸いです。

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NOTEを気に入っていただけたら、ぜひ書籍も手に取ってみてください!

<理解を深めるために読みたい記事>
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD0788Y0X00C22A7000000/

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