見出し画像

闇の王① | それが切り札だったんですか?


 渾身の力を込めた一撃が、闇の王の胸を貫いた。剣が砕け、血しぶきが飛び散った。だが闇の王は笑った。「それがお前の切り札だったんですか?」と。

 戦士は息を切らし、膝をついた。長年の旅で集めた伝説の剣、呪文の書、全てを賭けた。勝利を確信していたのに、王の目はまったく揺らがない。

「真実を知れ」

 闇の王が囁いた。戦士の視界が揺らぎ、記憶のしずくが涙となって零れ落ちた。

 幼き日の村での出来事。家族の笑顔。その全てが幻だった。自分は王の分身、闇を広めるための道具に過ぎなかったことを思い出した。

 いざよう光が闇の王を包み、戦士の体は溶けていった。

「お前の一撃は、私を目覚めさせただけだったのだ」

 闇はますます広がり、世界は再び沈黙した。戦士の切り札はすべて、巧妙に仕組まれた偽書だったのだ。闇の王が巧みに仕組んだ罠を、ごまんとある虚偽の中に隠れた真実だと信じ込まされた戦士は、姿を消して、世界の外から「訴えてやる!」と虚しく叫び続けながら消えゆく運命だった。

 自分こそはこの夜空の中で、最も輝く星だと過信していた。輝くことができるのは、闇の中だということを忘れて。

 闇の王は快哉を叫んだ。

「ははは、闇の王をなめるなよ!」




#ショートショート
#ニヒリズム
#永劫回帰
#闇の王
#偽書
#釈迦の掌の孫悟空
#指揮官

いいなと思ったら応援しよう!

山根あきら | 哲学者 記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします