わが家の老後資金は830万円?5260万円?——答えが40倍変わる理由【連載第2回】
前回は、「老後2000万円」という数字が、じつは"平均的な夫婦の一例"にすぎないことを確かめました。
▶ 第1回:「老後2000万円」って、そもそも誰が決めた数字?
そこで見えてきたのは、不安の正体は金額そのものではなく、「じゃあ、うちの場合はいくら必要なの?」がわからないことでした。
今回はいよいよ、その「うちの場合」を計算します。使うのは電卓ひとつと、3つの数字だけ。私もはじめて自分で計算したとき、「あれ、2000万円じゃない」と拍子抜けしました。順番にやっていきましょう。
計算式は、たったこれだけ
老後に必要なお金は、この式で見積もれます。
(毎月の支出 − 毎月の収入) × 12か月 × 老後の年数 + 予備費
前回見た「2000万円」も、じつはこの式に平均値を入れただけのものでした。今回は、平均値ではなくあなたの数字を入れていきます。
用意するのは3つの数字。
老後の毎月の支出(いくら使う?)
老後の毎月の収入(年金の手取りはいくら?)
予備費(病気や介護などへの備え)
ひとつずつ埋めていきましょう。
STEP1:老後の「毎月の支出」を見積もる
いちばん確実なのは、いまの生活費から考える方法です。
目安として、老後の生活費は現役時代の7割くらいと言われています。子どもが独立し、仕事関係の出費(スーツ、付き合い、通勤費など)が減るためです。
いまの毎月の生活費 × 0.7 = 老後の毎月の支出(目安)
たとえば、いま月35万円で暮らしている家庭なら、35万 × 0.7 = 約24.5万円。
「家計簿をつけていない…」という方は、参考までに、年金暮らし夫婦の平均支出は月約26.4万円(総務省の家計調査より)。単身なら15万円前後が目安です。
ここでひとつ大事な注意点。老後に住居費(家賃)がかかるかどうかで、答えは大きく変わります。平均データは持ち家の人が中心だからです。
老後も賃貸の予定なら、「×0.7」の計算からいったんいまの家賃を抜いて、老後に払う家賃をあとから足してください。いまの家賃を含めたまま老後の家賃も上乗せすると、二重に数えてしまいます。
STEP2:老後の「毎月の収入」= 年金の手取りを知る
自分の年金額を知るいちばん確実な方法は、毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」か、スマホで見られる「ねんきんネット」です(見方のコツは第3回で解説します)。
手元にない方のために、国のデータ(厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」)から、65歳以上の平均額の目安を紹介します。
会社員だった男性:月あたり平均 約17万円
会社員だった女性:月あたり平均 約11万円
自営業・専業主婦(夫)など国民年金のみ:月あたり平均 約6万円
そして、ここが今日いちばん見落としやすいポイント。年金からも、税金や健康保険料・介護保険料が引かれます。手取りは、ざっくり額面の9割で見ておきましょう。
※引かれる額は年金額や住む自治体で変わります(年金が少ないほど、引かれる額も小さめです)。あくまで仮置きの目安としてお使いください。
STEP3:世帯タイプ別に計算してみよう
では、実際に計算してみます。条件は「65歳から30年間」。支出は夫婦なら月26万円、単身なら月16万円にそろえて、年金だけ変えて比べます。
ちなみに、いま独身の方は、タイプCがいちばん自分の数字に近いはずです。
タイプA:会社員の夫+専業主婦の妻
年金は国のモデルケースで月23.7万円。手取りにすると約21.3万円です。
(26万 − 21.3万) × 12か月 × 30年 = 約1,700万円
前回、最新の平均データで計算し直した「約1500万円」と近い水準になりました。前回は実際の年金世帯の手取り収入の平均、今回はモデルケースの年金額と、使う統計が違うぶん少しズレますが、だいたい同じ景色です。
タイプB:夫婦とも会社員(共働き)
平均値どうしを足すと、額面で月28万円。手取りは約25.2万円です。
(26万 − 25.2万) × 12か月 × 30年 = 約290万円
4タイプの中でいちばん少ない不足額です。共働きで厚生年金に2人分入っていると、老後の土台はかなり厚くなります。
タイプC:おひとりさま(会社員・単身)
支出を月16万円、年金を額面15万円(手取り約13.5万円)とすると、
(16万 − 13.5万) × 12か月 × 30年 = 約900万円
タイプD:自営業の夫婦
国民年金のみで、額面6万×2人=月12万円。手取りは約10.8万円。
(26万 − 10.8万) × 12か月 × 30年 = 約5,470万円!?
…驚きの数字が出ました。でも、これは「65歳から30年間、年金以外の収入ゼロ」という、自営業にはちょっと不自然な前提での数字です。定年がないぶん働く期間を延ばして赤字の年数を減らす、小規模企業共済やiDeCoといった上乗せ制度で備える——そうした対策とセットで考えるための数字だと受け取ってください。
同じ「老後」でも、世帯タイプによって必要額は約300万円から5000万円超まで変わる。これが「2000万円」というひとつの数字で語れない理由です。
最後に:予備費を足す
毎月の生活費とは別に、まとまって出ていくお金があります。
医療・介護への備え(公的保険でかなりカバーされます。詳細は連載の後半で)
家の修繕・リフォーム
車の買い替え、子どもへの援助、葬儀費用など
金額は家庭によって大きく違いますが、ざっくり世帯で300〜500万円を目安に見ておく、という考え方があります。
もしSTEP3の計算がマイナス(黒字)になった方は、不足分は0円と考えて、この予備費だけ見ておけばOKです。
まとめ:あなたの式を完成させよう
(老後の毎月の支出 − 年金の手取り) × 12 × 30年 + 予備費300〜500万円
今日の計算で出た数字は、平均値を使った「仮の答え」です。とくに20代・30代の方にとって老後は何十年も先。物価も制度も変わりうるので、「いまの値段で置いた最初の概算」だと思ってください。
精度を上げるカギは、STEP2で仮置きした年金額を「自分の数字」に置き換えること。
そこで次回・第3回は、「ねんきん定期便」の見方を解説します。じつはあのハガキ、50歳未満の人には「これまでの実績分」しか載っていません。そのまま読むと、将来の年金をずいぶん少なく見積もってしまうんです。そのカラクリと、ねんきんネットで将来分まで試算する方法をお話しします。
この計算、電卓でもできますが、「30秒で済ませたい」という方へ。無料シミュレーター「ミラため」なら、貯蓄・毎月の積立・支出を入れるだけで「資産が何歳までもつか」がわかります。登録不要、入力した数字は端末の外に出ません。今日の式を、自分の数字でどうぞ。
https://kyuusaku16-a11y.github.io/miratame/
参考にしたデータ(2026年7月時点)
総務省「家計調査報告(家計収支編)2025年平均」
厚生労働省「令和8年度の年金額改定について」(2026年1月)
厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」
※この記事は公的なデータに基づく一般的な情報です。特定の金融商品のおすすめや投資アドバイスではありません。計算例は簡略化したもので、税金・社会保険料はざっくりした概算、物価変動は考慮していません。
