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デザインに国境はあるか。限界デザイナーがカナダで見つけた、働くこと、生きること、AIのこと。【2】



【2】カナダで現地採用されて出勤したら、机にMacBookとHDDだけ置かれていた話



*前回までの話
10年勤めた会社を辞め、30代後半に差し掛かる中思いつきでカナダに来た限界デザイナー。極貧時代を経て、ついに就職が決まった。



カナダでインハウスのグラフィックデザイナーになった。

カナダの極貧無職生活を経て、やっと現地採用が決まった。

英語でデザインをする、ずっと夢だった仕事だ。30代後半に差し掛かってしまったけれど、10年の経験がなければ掴めていなかったと思う。そう考えると、社畜をやっていた日々も、まんざらではなかった。

初日の朝、私は気合いが入っていた。

これからおしゃれな同僚や先輩に囲まれて、海外のデザインをいっぱい吸収するぞ。キラキラのデザイナー生活、開幕である。

出社すると、まずHRに通された。

めちゃくちゃいい声だった。低くて、よく通る、ハリウッド映画に出てきそうな声で、会社のいろんなことを説明してくれた。内容はあまり頭に入らなかったが、声だけはよく覚えている。

その後、マーケティングチームのフロアに案内された。

ディレクター、マーケティングスペシャリスト、ソーシャルメディアスペシャリスト、ウェブスペシャリストが二人。私を入れて六人のチームだ。一人ずつ紹介してもらった。

私はなんとなく気づき始めていた。

デザイナーがいない。
私の前任は、2ヶ月前にレイオフ(解雇)されていたのである。

自分の机に通された。

MacBook Proと、ハードディスクが置いてあった。それだけだった。
眺めた。もう一度眺めた。MacBook Proと、ハードディスクだった。
しばらくして、マネージャーのレイチェルが焦った顔でやってきた。
溜まりに溜まった仕事のリストを持っていた。

カフェブランドのスプリングポスター、ラーメンブランドのメニュー改訂、別のラーメンブランドのボウルのデザイン、グッズの話、などなど。別室で説明を受けたが、多すぎて頭に入ってこなかった。


とにかく今日やるべきことだけをもう一度確認して、席に戻った。
MacBook Proと、ハードディスクが置いてあった。
目の前の席では、レイチェルがまだかまだかという顔でこちらを見ている。

まずIllustratorとPhotoshopをダウンロードした。(そう、もはやそこからである)

ハードディスクを開いて、フォルダ構造を辿りながら、前任が何をやっていたのかを少しずつ探っていく。ネーミングフォーマット、使っているフォント、ブランドカラー。手がかりを拾い集めながら、手を動かした。

気づいたら夕方だった。

帰り道、ぼんやりと思った。

10年間、社畜デザイナーをやっていた。終電で帰って、休日も働いて、何度も辞めようと思った。でも今日、その10年がなければ今日一日乗り越えられなかったと、わりと本気で思った。

真っ白な机の前で、何とかなったのは、そのおかげだった。
こんなに自分のキャリアに感謝したことはない、と思っていた。でも海外に出てから、あの10年間に感謝する場面は思っていたより多かった。社畜は、無駄ではなかった。


なお、チームの半分が突然レイオフされるのは、この2ヶ月後のことである。

海外デザイナー日記③へ続く
海外デザイナー日記①はこちら


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