答えだけを渡すと、人は考える過程を失っていく
社長や上司が答えを出した方が早いことは、たくさんあります。
これをやろう、この方向でいこう、この商品を作ろう。
経験がある人ほど判断も早いし、過去の失敗や成功も頭に入っているので、先に答えが見えてしまうことがあります。
もちろん、答えを出すこと自体が悪いわけではありません。
会社を進めるためには、決めなければいけないことがあります。迷っている時間がない時もあるし、現場を止めないために、すぐ判断しなければいけない場面もあります。
でも、いつも答えだけを渡していると、人は考える過程を失っていくことがあります。
答えを渡すだけでは、考え方は育たない
答えは分かるし、やることも分かる。
でも、なぜその答えになったのか、何を見てそう判断したのか、何を面白いと感じて、なぜ今それが必要だと思ったのかまでは分からない。
そのまま受け取ってしまうと、次に似たような場面が来ても、自分で考えにくくなります。さらに、うまくいかなかった時に、どこを見直せばいいのかも分かりにくくなる。
私が人を育てる時に伝えたいのは、最後の答えそのものではありません。
その答えにたどり着くまでに、何を見て、どう感じて、それを形にするためにどう工夫したのか。
そこを考えられる人になってほしいと思っています。
答えらしきものに、すぐ届く時代だからこそ
今は、答えらしきものにはすぐにたどり着けます。
スマホで検索すれば情報は出てくるし、SNSを見れば流行っているものも分かります。AIに聞けば、それらしい答えも返ってくる。
それ自体は、とても便利です。
私自身も、情報を整理したり、考えを広げたり、言葉にしたりするうえで、AIやネットはすごく役に立つと思っています。
ただ、検索結果にこう書いてあった、SNSでこれが流行っている、AIがこう言っていた、他社ではこれをやっている、という情報をそのまま持ってきても、自社の現場でうまくいくとは限りません。
今のお客様に合っているのか、自分たちの店の雰囲気に合うのか、価格に見合う価値があるのか、現場で実際に提供できるのか。そこを考えないまま答えだけを持ってきても、現場ではなかなか機能しないと思います。
新しいメニューを考える時に、私が一緒に見ていたもの
飲食店を経営していた時、新しいメニューを考える場面がたくさんありました。
その時に、私ができるだけ避けたいと思っていたのは、最初から「これをやろう」と答えだけを渡すことでした。
もちろん、最終的に決めることは必要です。
でも、最初から私が答えだけを出してしまうと、相手はそのメニューを作ることはできても、次に自分で考える力は育ちにくい。
だから、新しいメニューを考える時は、自分がそこに至った過程を一緒に体感してもらうようにしていました。
参考になりそうなお店に一緒に食べに行ったり、SNSや雑誌を一緒に見たり、ネットでお客様のトレンドを調べたりしながら、ただ「このメニューがいい」と伝えるのではなく、なぜそれが面白いと思ったのか、なぜ今のお客様に合いそうだと感じたのか、自分たちの店でやるならどこを変える必要があるのかを一緒に見ていくようにしていました。
お店に行く時も、見ているのは味だけではありませんでした。
何を注文しているのか、どんな客層なのか、お客様はどんな表情をしているのか。どのタイミングで写真や動画を撮っているのか、メニューを見た時に迷っているのか、それともすぐに決めているのか、食べた後に満足していそうなのか。
流行っているメニューを知るだけなら、ネットでもできます。
でも、実際のお店に行くと、情報だけでは分かりにくいものが見えます。
お客様の空気感や店内の温度感、写真を撮りたくなる瞬間、価格と満足感のバランス、メニューが出てきた時の反応、自分たちの店でやる時の違和感。そういうものは、現場で見ないと感じにくい。
だから、私はできるだけ一緒に行きたかったのだと思います。
答えを共有したかったのではなく、見方を共有したかった。
自分は何を見ているのか。
どこで面白いと感じているのか。
どこに違和感を持っているのか。
なぜこれならお客様に喜んでもらえそうだと思うのか。
そこを一緒に感じてもらいたかったのです。
「これでいくらだと思う?」で価値観をすり合わせる
一緒にお店へ行く時、よく聞いていたことがあります。
「これでいくらだと思う?」
この問いは、単に価格を当てるためのものではありません。
その商品にどれくらいの価値を感じたのか、価格に対して高いと思うのか、安いと思うのか、なぜそう感じたのか。見た目なのか、味なのか、体験なのか、雰囲気なのか、お客様ならどう感じるのか。
そういう価値観をすり合わせるための問いでした。
同じものを食べても、人によって感じ方は違います。
「これは高く感じる」
「この雰囲気なら納得できる」
「味だけなら高いけど、写真を撮りたくなる体験込みならあり」
「この量でこの価格なら、自分たちの客層には少し合わないかもしれない」
そんな話をしながら、価値の見方を少しずつ共有していく。
価格は、ただ原価を積み上げて決めるものではありません。お客様が何に価値を感じているのか、どこに満足しているのか、どこならお金を払いたいと思うのか。そこを見る必要があります。
だから、現地で一緒に見ることには意味がありました。
同じものを見て、同じ場にいて、それぞれがどう感じたのかを話す。
その積み重ねが、価値判断の基準を育てていくのだと思います。
ズレていても、すぐに否定しない
もちろん、相手が出してきた案が、自分の感覚とズレていることもあります。
それは違うんじゃないか、今のお客様には合わないかもしれない、そのままやると少し弱い。そう感じることもあります。
でも、できるだけ最初から否定しないようにしていました。
「それをやるなら、このあたりをもう少し工夫した方がいいんじゃないか」
「お客様はどこで写真を撮りたくなるかな」
「この価格なら、何がもう一つあると納得感が出るかな」
「自分たちの店で出すなら、どこを変えた方がいいと思う?」
そうやって、もう一段考えてもらう。
大切なのは、最初から正解にたどり着くことではありません。
自分で見て、自分で感じて、自分なりに考えてみること。そして、ズレていたら修正すること。
その繰り返しで、人は考え方を身につけていくのだと思います。
答えではなく、見方があれば次につなげられる
答えだけを渡されていると、うまくいった時はいいかもしれません。
言われた通りにやって、結果が出て、お客様にも喜ばれた。
でも、なぜうまくいったのかが分からなければ、次に同じように再現することは難しくなります。
逆に、うまくいかなかった時も同じです。
なぜうまくいかなかったのか、どこを見直せばいいのか、何を変えればいいのかが分からない。
結局、答えだけを持っていても、成功した理由も、失敗した理由も、自分の中に残りにくいのだと思います。
でも、何を見て、どう感じて、どう工夫して答えにしたのかを考えられる人なら、うまくいった時にも理由を振り返ることができます。
お客様の反応が良かったのか。
価格に対する納得感があったのか。
見た目だけではなく、食べた後の満足感まであったのか。
SNSで広がりやすいだけでなく、現場のオペレーションにも合っていたのか。
そうやって振り返れるから、次に活かせる。
新しいことをやれば、最初から全部うまくいく方が少ないと思います。
だからこそ、最後の答えよりも、答えにたどり着くまでの見方が大切なのだと思います。
その見方があれば、うまくいった理由も、うまくいかなかった理由も、次の一手に変えていけます。
人を育てる時、答えを教えることは必要です。
何も教えずに、考えろと言うだけでは不親切ですし、経験の少ない人に、いきなり全部考えさせても難しい。必要な知識や基準は、ちゃんと渡さなければいけません。
でも、答えを渡すだけでは足りません。
一緒に見て、一緒に感じて、一緒に考えて、一緒に違和感を言葉にする。上司や経営者が何を見ているのか、どこで面白いと感じているのか、どこに危なさを感じているのか、どの情報を重視しているのかを一緒に体感することで、部下や幹部は少しずつ自分でも見られるようになります。
これは、会議室で説明するだけでは伝わりにくいことがあります。
現場に行って、お客様の表情や店の空気、商品が出てきた時の反応、価格に対する納得感を一緒に見る。そういう時間があるから、「なぜそれが面白いと思ったのか」「どこに違和感を持ったのか」「自分たちの店でやるなら何を変えた方がいいのか」という話ができるようになります。
私は、そういう時間を大切にしていました。
社長や上司が全部決めた方が早いことはあります。AIやネットで答えらしきものにすぐたどり着ける時代でもあります。
でも、だからこそ、考える過程を飛ばしてはいけないと思っています。
何を見たのか、どう感じたのか、なぜ面白いと思ったのか、なぜ違和感を持ったのか。それを自分たちの現場で形にするために、どう工夫するのか。
そこを考えられる人が増えると、組織は強くなります。
答えがズレても、修正できる。
うまくいかなくても、もう一度考えられる。
環境が変わっても、自分たちで見直せる。
そういう人を育てることが、経営者や上司の大切な役割なのだと思います。
答えそのものより、
答えにたどり着くまでの見方があれば、
成功も失敗も次の一手に変えていけるのだと思う
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