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人を大切にする経営は、優しさではなく仕組みに表れる

「うちは、人を大切にしている会社です」

そう話す経営者は少なくありません。

社員にはできるだけ長く働いてほしいと思っているし、困っていれば助けたい。失敗した時には責めるよりも支えたいし、仕事を通じて成長してほしいとも考えている。

その思いに、嘘はないのだと思います。

経営者自身が優しく、社員のことをよく気にかけている会社もあります。誕生日を覚えていたり、家族のことまで心配したり、誰かが困っていれば自分から声をかけたりする。

それでも、社員が「自分は大切にされている」と感じているとは限りません。

何を頑張れば評価されるのか分からない。上司によって言うことが違い、自分に何を期待されているのかも見えない。仕事を任されたものの、どこまで自分で決めていいのか分からず、困って相談しても「それくらい自分で考えて」と言われる。

経営者の思いがどれだけ温かくても、日々の仕事の中でこうしたことが続けば、その思いは社員まで届きません。

人を大切にする経営は、社長の人柄だけでは続かないのだと思います。

社長一人の優しさでは、全員に届かなくなる

会社が小さいうちは、経営者が社員一人ひとりに直接関わることができます。

表情が暗ければ声をかけ、仕事に悩んでいれば話を聞く。成長したところにも気づけるし、次に何を任せればいいかも自分で考えられる。

けれど、人数が増え、部署や店舗が増えていくと、経営者一人ですべてを見ることはできなくなります。

そこで必要になるのが、幹部や管理職、評価制度、役職の定義、面談や報連相といった仕組みです。

仕組みというと、少し冷たいものに感じる人もいるかもしれません。人を大切にしたいのに、点数をつけたり、役割を決めたり、報告のルールを作ったりするのは、人を枠にはめることのようにも見えます。

でも私は、仕組みは人を縛るために作るものではないと思っています。

経営者が直接見られなくなっても、社員が上司の気分や力量だけに左右されず、何を期待されているのかを知り、自分の成長を考えられる状態をつくる。そのために仕組みが必要になります。

経営者の優しさを、経営者がいない場所でも届く形に変える。それが、人を大切にする経営を仕組みにするということなのだと思います。

思いが仕組みにならなければ、現場では上司次第になる

経営者が「社員の成長を大切にしたい」と考えていても、その思いが現場の行動に落ちていなければ、社員への関わり方は上司によって変わります。

部下から報告が来るのを待つ上司もいれば、自分から様子を見に行く上司もいる。できていないところだけを指摘する人もいれば、なぜできるようになったのかまで一緒に振り返る人もいます。

期待しているからと一気に仕事を渡す人もいれば、本人の現在地を見ながら、登れる階段をつくる人もいる。

それぞれの上司が、自分なりに良かれと思ってやっていることも多いでしょう。けれど、その違いがあまりに大きいと、社員にとっては「どの上司の下につくか」で成長の機会も、働きやすさも変わってしまいます。

それでは、人を大切にしている会社というより、人を大切にできる上司がたまたまいる会社になってしまいます。

だからこそ、経営者が大切にしたいことを、幹部や管理職と繰り返し共有する必要があります。

評価とは何のために行うのか。部下の成長に対して、上司はどこまで責任を持つのか。報連相が来ない時に、上司はどう関わるのか。期待を伝えた後、どのように仕事を任せ、どこで支えるのか。

こうした考え方が共有されて初めて、経営者の思いは日々の関わり方に変わっていきます。

制度は、人を点数化するためにあるのではない

評価制度を作ると、人を点数で管理する会社になると思われることがあります。

役職を定義すれば、人を型にはめることになる。面談のやり方を決めれば、上司と部下の自然な会話が失われる。そんな不安を持つ人もいるかもしれません。

確かに、制度を作ること自体が目的になれば、そうなってしまう可能性はあります。

評価表を埋めることが仕事になり、役職定義に書いてあることだけを守らせ、面談も決められた質問を順番に聞くだけになる。形だけを整えても、人は大切にされません。

大事なのは、その制度によって何を実現したいのかです。

評価制度は、人に優劣をつけるためではなく、本人が今どこにいて、次に何を伸ばせばいいのかを分かりやすくするためにある。

役職定義も、今その役職にいる人を縛るためではなく、これからどんな役割を目指せるのかを見せる、未来への地図として使うことができる。

目線合わせは、評価者同士で点数を調整するだけの場ではなく、本人をちゃんと見ているか、その成長にどう関わろうとしているかを確認する時間になる。

同じ制度でも、何のために使うのかによって、社員に与える意味は大きく変わります。

仕組みがあるから人を大切にできるのではなく、人を大切にするという考えを日常で実現するために、仕組みを使うのだと思います。

人を大切にすることは、何でも受け入れることではない

人を大切にする経営という言葉から、優しくすることや、厳しいことを言わないことを思い浮かべる人もいます。

でも、本当に相手のことを大切に思うなら、必要なことを伝えなければいけない場面があります。

できていないことを見て見ぬふりにすれば、その人は同じところでつまずき続けます。期待していることを伝えなければ、自分に何を求められているのか分からないまま働くことになります。

だからといって、ただ厳しく課題を与えればいいわけでもありません。

今の本人には高すぎる期待を一方的に渡せば、それは成長の機会ではなく重荷になります。苦手なことばかりを任せれば、得意だったことまでできなくなり、自信や意欲を失うこともあります。

必要なのは、相手の現在地を見ながら、その人が次に進める関わり方を考えることです。

良いところは認め、伸ばせる強みは足場にする。一方で、避けて通れない課題については、一人で背負わせず、どうすれば乗り越えられるかを一緒に考える。

優しくすることでも、厳しくすることでもなく、その人が前に進める状態をつくること。

人を大切にするというのは、相手の気持ちを傷つけないように何も言わないことではなく、その人の可能性から目をそらさずに向き合うことなのだと思います。

思いが日常の中に表れて、初めて社員に伝わる

理念に「人を大切にする」と書くことはできます。

経営方針の発表で、社員への感謝や期待を伝えることもできます。経営者自身が、本気でそう思っていることもあるでしょう。

でも、社員が会社から大切にされていると感じるのは、もっと日常的な場面です。

上司が自分の話をきちんと聞いてくれた時。以前できなかったことができるようになった変化に気づいてもらえた時。なぜその評価なのかを説明してもらい、次に何を頑張ればいいかが分かった時。

自分の得意なことを見つけてもらい、それを活かせる役割や未来を示してもらえた時。仕事を任された後も放っておかれず、困った時には一緒に考えてもらえた時。

そうした一つひとつの関わりの中で、経営者の思いは社員に伝わっていきます。

誰が上司になっても、社員を見る時の考え方が大きく変わらない。評価や役割、対話や育成がばらばらに存在するのではなく、一人ひとりの成長を支えるものとしてつながっている。

そこまでできて初めて、人を大切にする経営が、経営者の思いから会社のあり方へ変わっていくのだと思います。

人を大切にする経営は、仕組みの中に表れる

仕組みを作れば、すべてがうまくいくわけではありません。

制度を作っても、使う人の考え方が変わらなければ形だけになりますし、運用を続ける中で、現場に合わないところを直していく必要もあります。

それでも、経営者の人柄だけに頼るより、その思いを仕組みとして残す意味は大きいと思います。

経営者が直接関われない場所でも、社員が何を期待されているのかを知り、上司と一緒に自分の成長を考えられる。誰か一人の優しさに頼るのではなく、会社として人に向き合うことができる。

人を大切にする経営は、優しい言葉や経営者の人柄だけで決まるものではありません。

その思いが、評価や役割、対話、育成、任せ方といった日々の仕組みや関わり方にまで表れているか。

そこに、その会社が本当に人を大切にしているかどうかが表れるのだと思います。


人を大切にする経営とは、思いを語ることではなく、その思いが日々の仕組みとして続いていく状態をつくることなのだと思う



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