【御社SaaS...のアンケート結果】「連絡が途絶えた」の正体は、無視ではなく「SOS」だった
はじめに
先月、「SaaSの導入を止めていたのは私です」という記事を書いたところ、予想外の反響がありました。
noteのコメント欄には「首がもげるほど頷いた」という声が並び、はてなブックマークなど種々の媒体を合わせると500件を超えるコメントがつきました。中には「これ、大企業の方には売らないことにしました」というベンダーの方もいて、少し申し訳ない気持ちになりました。
その後、「では実際のところ、なぜDX案件は止まるのか」 を確認したくて、匿名アンケートを実施しました。
102件の回答が集まったので、結果を報告します。
ご協力ありがとうございました。
回答者の内訳:
導入側(企業のDX担当者など):68名(66.7%)
ベンダー側(SaaS営業、SIerなど):33名(32.4%)
※その他1名。
※一部、質問の意図が読みづらい箇所がありましたので、傾向として読み進めてください。
データから見えた5つのこと
①「検討する時間がない」は、比喩じゃなかった
下記の図1は、縦軸にベンダー側の回答率、横軸に導入側の回答率をプロットしたグラフです。対角線から離れているほど、双方の認識のずれがあることを意味します。
見送り理由で最大のギャップが、「工数が足りない」でした。



「自分の工数が足りない」を選んだ人:
導入側:44%(図2)
ベンダー側:12%(図3)
32ポイントの差です。
つまり、導入担当者の約半数は「物理的に時間がない」ことを理由に挙げていますが、ベンダー側で1割程度。「印鑑押して返すだけなのになぜ…」。この認識の違いが、メールの未返信を生んでいます。
② 「予算がない」の半分以上は「あるけど通せない」
見送り理由で「予算」を選んだ人の内訳です(元データは後述)。
予算(あるけど通せない):34%
予算(本当に足りない):30%
「予算がない」と言われた場合、実際には「金庫に金はあるが、社内説得に失敗した」というケースの方が多いようです。
③ ベンダー側の3割は「なぜ失注したか分からない」
ベンダー側に「見送りになった理由(推察)」を聞いた結果です(図2)。
タイミング(今じゃない): 52%
予算(あるけど通せない): 42%
社内政治・人間関係 :36%
一方、導入側の見送り理由Top3は(図3):
上司・経営層の理解不足 : 51%
タイミング(今じゃない): 49%
自分の工数が足りない :44%
ベンダーから見ると「謎の失注」に見えているものの、導入側では「上司への説明失敗」や「時間切れ」という明確な理由があるようです。
④ 予算規模で「戦う相手」が変わる
予算規模別にデータを見ると、面白い傾向が見えました。

1000万円未満の案件:
上司の理解不足やタイミング、工数が課題
費用対効果より説明の手間で判断されることが多い
5000万円以上の案件:
費用対効果の割合が増え、論理的説明が必須
関係部署が増え、調整の複雑度が上がる
⑤ベンダーは自分の提案を気にしているが、実はそこじゃない
「DXが失敗する真犯人は誰か」という質問への回答結果です。
全体のランキング(1位〜5位)は以下の通りでした。


決定権のある導入側の考えている理由(図6)に着目すると、
発注者の決断力のなさ・社内調整の失敗(34%)
発注者の要件定義能力の欠如・丸投げ(31%)
予算と納期の構造的な無理(10%)
ベンダーの提案力不足(6%)
ベンダーの技術力不足(3%)
上位2つは「発注者側」の問題でした。
ただ、ここに認識のズレがあります。
「ベンダーの提案力不足が原因」と思っている人:
ベンダー側:15%(図6)
導入側:3%(図5)
ベンダー側の方が、自分の提案の質を気にしています。でも導入側は、提案の良し悪しよりも「社内をどう通すか」で詰まっているようです。
自分の経験を振り返ってみた
データを見ながら、この1年で関わった案件を思い出していました。
ケース①:情報収集系SaaSの導入
ある部署で、情報収集系のSaaSのトライアル参加者を募集したときのことです。
予想以上に多くの人が興味を持ち、実際に使ってみた人から「これ便利だね」という声が上がりました。そのまま契約になりました。
面白かったのは、その後です。
半年後、別の部署でも同じSaaSのトライアルが始まりました。そのタイミングで私も参加しましたが、参加理由は「以前の部署で使っている人を見て、便利そうだったから」です。
最初は数人のチームで使う想定だったそうですが、今では段階的に広がって、かなりの人数が使っています。
ケース②:PoCの見積もり比較
技術検証のため、PoCの見積もりを取ったときのことです。
超大手SIerとスタートアップ、2社に声をかけました。
金額は、桁が違いました。スピード感も全然違いました。どちらが速いかは、推して知るべしです。
技術的にはおおよそ目処がついていて、PoCでは実験的にうまくいくか確認したかっただけだったので、スタートアップにお願いしました。
PoCの結果が良かったので本番運用に至り、評判を聞いた他のチームにも横展開されました。
気づいたこと
この2つのケースに共通しているのは、「小さく始めて、広がった」 という点です。
トラディショナルな企業でも、スタートアップとの協業は可能です。SaaSどころか社内の規則やIT基礎知識の説明も含めた社内調整のハードル(というより手間)は高いですが、一旦通ると横展開はしやすい、その後にもう一度同じことをやりたくないので参入障壁にもなる、という印象があります。
ただ、これは私が見た数例だけの話なので、他の方の経験も聞いてみたいと思っています。
コメントから見えたこと
前回の記事には、500件以上のコメントが寄せられました。その中から、いくつか紹介します。
導入側の声
「首がもげるほど頷いた」
「情シスと会話するよりベンダーと会話してた方がマシ」
「導入まで無事にこぎつけても、格別の効果がないと後々までブーブー言われる」
ベンダー側の声
「営業で必要なのは、機能やサービスの説明でも、価格でもなく、『話のわかる有能な担当者を味方に付けること』」
「提案する側として参考になった」
「大企業の方には売らないことにしました」
厳しい指摘
「ITベンダーに発注する人にITベンダーと同等の能力を求めてる感ある」
「あなたの仕事は何?本来は情シスなりコンサルなりとタッグ組んでやるとこ」
厳しいご指摘も、正論だと思います。ただ、現実として「一人で抱え込んでいる」担当者が多いのも事実のようです。
持ち帰れる知見
データと経験から、いくつかのパターンが見えてきました。
小規模案件の場合
完璧に準備するより、まず使ってみる
成功事例を作ってから展開する方が早い
「実験的に」というスタンスだと承認が取りやすい
大規模案件の場合
費用対効果の論理的説明が必須
関係部署を巻き込む必要があるため、早めにベンダーを味方につける
導入担当者として
「検討中です」の返信は、ベンダー側には「順調に進んでいる」と伝わっている
詰まったら、早めに「助けて」と言う方が効率的
ベンダーとして
提案の質より、社内調整支援が求められている
手間がかかる時は、逆に参入障壁かも沈黙 = 「社内で詰まっている」可能性が高い
担当者のやる気はあっても、上司への説得以前に工数(優先度)の問題かも
データの全体像を見られるサイトを作りました
今回のアンケート結果、実はまだ紹介しきれていないデータがあります。
予算規模別の詳細な傾向
Xやnote、はてなブックマークで見かけたコメント
コメントをジャンルごとに可視化
これらをグラフで見やすくまとめたサイトがこちらです(図が多いので、PCでの閲覧推奨です)
社内会議の参考資料や、提案時の事前調査などに使ってください。
今後も、表示できるデータを増やしていく予定です。
今後の予定
次のテーマとして、より掘り下げて調査する予定です。
アンケート個別回答の紹介と深掘り(次回候補)
情報調査のヒヤリングと、導入目的のヒヤリングの応答の違い
PoCから本番に移行しない理由(最初からその想定?)
システムは入れたが、現場が使わない(実は、まだ埋まっていないチャンス)
こちらも匿名アンケートなどを実施し、結果を公開します。
他の会社の方への取材
また、現場の意見を深く知るために、他の会社の方についても取材しました。私の所属企業だけでなく、実は同じようにDXに苦労している会社もあることを実感しました。
1件コメントの裏にあった担当者のドラマに興味がある方は、ご覧ください。
最後に
102件のアンケート、ご協力ありがとうございました。
データを眺めていて思ったのは、両者とも「相手が何に困っているか」を正確に把握できていない、ということでした。
また、自分の経験を振り返ってみると、「全体導入を踏まえてPoCを検討したケース」よりも、逆に「興味がある担当者が小さく始めて広がった」案件の方が、結果的にうまくいっている気がします。
ただ、これは私が見た範囲の話なので、他の方の経験も聞いてみたいと思っています。
もし、似たような経験や、全く違う経験をお持ちの方がいたら、ぜひ教えてください(コメント欄や、xのDMなど )。
DX担当者の導入時の手間が減る、ITベンダー側の売り上げが上がる、導入企業の効率が上がる。「三方良し」が実現できると信じています。
会議室で議論されていることではなく、同僚や友人との愚痴で話すようなことが、DXにおける本当の障壁なのかもしれません。
※データの合計値について:設問によっては複数回答可としているため、パーセンテージの合計が100%を超える場合があります。
