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髪を切りに~美容師とスタイリストと彫刻家の話

美容院を変えた。

かれこれ10年通っていたのは、「髪と頭皮を健康にする」個性派サロン。パーマやカラーの出力は最弱、トリートメントもワックスもスプレーも一切使わないという徹底ぶりで、傷んでいた髪には子どものようなツヤが戻った。けれど悲しいかな、スタイルは正直ずっと、微妙だった。

メイクを変えようと決めた時、思った。新しい顔になりたいなら、髪型も変えなきゃダメじゃない?

そのタイミングでちょうど、近所に住む大親友と久しぶりに話をした。いつ会ってもフレッシュな雰囲気を纏っている親友の髪型は、意外や意外、完全に担当美容師さん任せなのだという。通い始めて数年、毎回予想の斜め上を行く仕上がりだという話に興味を惹かれ、私も同じ美容師さんに会いに行くことにした。

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出迎えてくれたのは、一回り年下の金髪の女性美容師さんだった。

ロックな民族衣装というべきか、どこで買ったのそれ?というカラフルなファッションがよく似合っている。親友の話を聞いていなければ、尻込みしていたかもしれない。でも彼女の眼差しや佇まいは紛れもないプロのそれで、不安は一切感じなかった。

「変わりたいんです。今っぽくしてください」

軽い世間話を挟みながら、カウンセリングで私から伝えたのはそれだけ。ギリギリ結べない長さのもっさりしたボブをどうしたものか。少しの間髪を触って鏡を見ていた彼女はすぐにこう言った。

「お客様は、ショートですね」

あ、やっぱり。

もしかしたらショートかもしれないな、とは思っていた。自分の体と正面から向き合ったことで、数少ない自分のチャームポイントが首回りなのは自覚していた。私はおそらく、鎖骨とうなじを見せた方がいい。それを客観的に確かめられた気がして、嬉しかった。

髪色は明るくする。ただし突然全て変えてしまうと髪以外がちぐはぐになるから、今日はパーマはなし。まずショートにして全体的に色を明るくして、気に入ったらその次からハイライトを入れるなり、少しずつ変えていこう。そんな彼女の提案は地に足がついていて、一気に信頼感が上がった。

彼女のハサミには、一切迷いがなかった。どうやら彼女には、最初から目指すスタイルが見えている。

聞いてみると、彼女は入店の瞬間からじっと私を観察していたのだという。背格好、服装、持ち物、歩き方、仕草。それらが物語る人となりから、最もしっくりくるスタイリングがすでに思い浮かんでいる。彼女にとってカウンセリングは、あくまで答え合わせなのだろう。

彫刻家のようだと思った。

優れた彫刻家は、自然の石や木の塊から造形を取り出している、と聞いたことがある。彼らの目には最初から取り出すべき姿が見えていて、だから彫刻とはただ余分な屑を払いのける作業にすぎないのだと。

そんなことをぼんやり考えているうちに、仕上がったスタイルがこちら。

ハンサムショート、と呼んでもいいのだろうか。トップの長さを残しながら思いっきり首を見せたことで、予想以上に雰囲気が出た気がする。最近変えたばかりの、オレンジの艶感を出したメイクにもしっくり合っている。写真では黒髪に近いが、自然光だとちょっと茶色。次第に褪色するという。

密かに感動したのが、前髪の処理。私は20年来、立ち上がりに変な癖がある前髪を持て余し続けていた。短く切れば左右にぱっくり分かれるし、伸ばして流そうとしても流れない。伸びた前髪が目に入るのも心底嫌だった。

まさかファイナルアンサーが、「前髪をなくしてしまう」だったとは。

前髪で耳横まで流れるラインを作り、スタイルの一部にしてしまう。そうすると不思議なもので、「前髪が邪魔」という感覚自体がきれいに消えた。悩みだった立ち上がりも、額から耳横につながるゆるいカーブの一部として昇華されている。

今あるものを生かす、という点ではもう一つ。今回、白髪染めを使っていないのだという。

白髪を染めて隠そうとするとどうしても黒っぽく暗くなり、色が落ちてきたときに黒っぽい髪の中で白が悪目立ちする。だからあえて白髪も周りの髪と同じ普通のカラーにすることで、白を明るい茶にしてしまう。言ってみれば、白髪がハイライトがわり。白髪の色が取れてくるときは全体的に髪色が褪色しているわけだから、結果的にそれほど白髪も目立たないのだとか。

白髪すら、味方につけてしまう。そんな発想があったのかと驚いた。

カットとカラーで所要時間はたったの1時間半。手品のような鮮やかさに、美容院は次からここにしようと心に決めた。

***

今ある自分の特性をどう生かすか。長所を生かすために、短所を隠すのではなくむしろ逆手に取る。この発想は、まさにファッションの時と同じだ。欠点を強調する服を着るのは単純に損だし、欠点をカバーしようと労力を使うより、長所を生かす服を探した方がよっぽどいい。この記事の中で私はそう書いた。

参考にした『着かた、生きかた』の中で、地曳いく子さんはご自分のスタイリストというお仕事をまさに彫刻家になぞらえている。星の数ほどあるファッションを極限までそぎ落としていくことで「自分らしさ」にたどり着く過程は、最初から石の中に潜んでいる自分だけの美しい輝きを取り出す作業に似ていると。

ファッションを通して自分に向き合う。そして、その過程をこうして書き記していくことが、今、面白くてたまらない。私にとっては、「書く」という過程こそが石の中から「自分」を削り出していく作業であるように思えてならない。

あの美容師さんとは違って、私にはまだ、石の中に見えるものが何なのかはわからない。でも今は、とにかく書く手を止められない。だから、しばらく時間が許す限り、書いてみる。

読んでくださる方にもお付き合いいただけたら、これ以上の幸せはない。


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