[人事制度 ver.34]人事制度の報酬における「調整給」の解体新書
「社員に対して調整給を付与しても良かったりするのですか?」
結論としては良いのですが、これをやりすぎてしまうと、社内倫理破綻をしてしまうため、注意が必要です。
本ブログではそれらを説明していく内容にしたいと思っています。
0. 調整給とは
調整給とは
本来の等級ごとの報酬レンジを超越した形で調整するために支払う給与のこと
人事制度を設計・運用する側の方はご理解いただけるかもしれませんが、設定をした報酬レンジを超越した形で調整しなければならないという事象がどうしても発生することがあります。
具体的には下記のようなイメージです。
評価的には等級3の水準だが、市場相場や引き留め目的で等級4相当の給与を支払っている
家族事情や引越しなどの生活要因から、一定の給与補填を行っている
等級・評価が制度上は変わっていないが、役割期待や業務負荷の上昇を考慮して一時的に上乗せする
ただ、便利な仕組みだからこそ、使いすぎると制度の透明性や納得感を崩してしまうリスクもあるため、どのようなケースで、どのように設計・運用していくべきか?という点をこのあと丁寧に整理していきたいと思います。
1. 調整給が使われる具体的なシーン
では、どのような場合に調整給を使えるのか?について具体的なシーンを元に説明していきたいと思います。
1-1. 採用時の年収交渉
採用活動を実施していると直面することがあるのですが、どうしても採用したいという人材が、希望年収が高く、等級定義に当てはまらないという場合があります。
たとえば、希望年収が7,000,000円の方がいらっしゃったとしましょう。7,000,000円は等級4に該当するのですが、その候補者さまは、等級4の等級定義を満たしておらず、等級3で出力せざるを得ないという状況。
ただ、等級3の上限年収は6,500,000円のため、本人の希望には満たない。
この場合、500,000円のギャップが発生してしまいます。
本人に交渉すると6,800,000円までは給与を落としても良いという話となり、ギャップの300,000円はどうするか?と議論をした結果、300,000円を調整金として付与しようという形。
1-2. 担当業務が想定より難易度が高かった/裁量が大きかった場合
「自分が取り組んでいる業務、この給与じゃ割に合わないな」と思われたことはありませんか?
もしあなたが思っているということは、上司も同じことを思っている可能性が高いですが、上司がそれを口に出してしまうと、給与を上げなくてはならないという事象が発生します。
ただ、給与を上げることができない事情があります。
それはまさに等級定義や報酬レンジの存在です。
「担当業務が想定より難易度が高かった」という場合、「担当している業務」が軸になります。これ自体は事実になると思うのですが、もし仮にその企業が導入している「等級定義」が「役割等級」ではある場合、「役職外」が前提になってしまうこともあります。
つまり、あなたは部長ではないから、ここまでの給与は出せません、とならざるを得ないような設計になってしまっていることもあり得ます。
とは言いつつも、頑張りを評価してあげたいという意思を持つ企業は多かったりするので、その場合に調整給という形でバランスを取るというパターンです。
1-3. 生活的な制約(引越し補填・扶養など)を踏まえた個別設計
これは事例としてはそこまで多くないかもしれないのですが、やむを得ず遠方に引っ越しをしなくてはならない、やむを得ずご両親の介護が必要になってしまった、やむを得ず…という場合です。
社員側からすると、どうしてもコストが発生してしまうという事象があった場合に「現職では勤務継続が難しいかもしれない」と判断してしまう場合もあると思います。
むしろ、皆さんの何かしらの金銭的な理由で退職をされたことがあるかもしれませんよね。
その場合、会社の個別対応によって調整給という形で扶養することもあったりします。
1-4. 一時的な処遇調整
たとえば、人事制度設計上、降格をしてしまう場合に、減給を緩和させるための措置等が該当します。
その他にも、一時的な処遇の調整に該当するパターンはありますが、本ブログでは長くなってしまうので考えさせてください。
2. 調整給のメリットと副作用
ここまで、調整給が実際に使われるシーンについて具体的にご紹介してきましたが、もう少し抽象度を上げて、調整給という仕組みが組織に与える影響について整理していきたいと思います。
調整給は、「制度が吸収しきれない部分をフォローできる」という点で非常に便利な仕組みです。
ただ、その“便利さ”と同時に、使い方を誤ると、制度の前提や文化そのものをゆるやかに壊していくこともあると思っています。
2-1. 調整給のメリット
① 等級や定義では拾いきれない個別性に対応できる
等級や評価は、組織全体の共通言語であるがゆえに、どうしても“抽象化”が必要になります。
調整給は、その抽象化の枠からこぼれ落ちてしまう、“その人固有の事情”や“役割上のグレーゾーン”を救い上げる手段になります。
② 採用や引き留めにおいて現実的な選択肢を持てる
「等級的には3だけど、年収的には4を出さないと口説けない」というケースは多くあります。
その場合、調整給という手段があることで、制度を歪ませずに処遇調整を行える柔軟性が生まれます。
③ 一時的な制度ギャップを埋めることができる
新規制度導入直後や、大きな組織再編後など、「一旦この人の給与は据え置きにしたい」というケースが出てきます。
そうしたときに、“経営や人事としての納得と、制度としての整合性”のバランスをとる手段として調整給が活きると感じています。
2-2. 調整給の副作用
① 制度の透明性や公平性を損なう可能性がある
調整給は“制度の外側で動いている処遇”なので、社内からすると「なぜあの人はあの給与なのか?」が見えにくくなります。
これが続くと、「結局、制度を守っている人が損をする」といった静かな不信感に繋がってしまうこともあります。
② 人事制度そのものの信頼性が揺らぐことがある
制度とは“頑張れば上がれる道筋”を言語化したものですが、調整給が頻発すると、「じゃあその道筋って本当に信じていいの?」という疑念が生まれてしまう。
特に、調整給の意図が明確に共有されない場合、このリスクは顕著になる印象があります。
頻発はよろしくないですが、数回付与してしまうと、それと同じような事例については、調整給でなんとかしようという風潮が出てしまうこともあります。
③ 調整給が前提になると、文化が歪む可能性がある
「評価じゃなくても給与は上げられる」「制度を経由せずに処遇が決まる」という空気が広がると、
メンバーは評価制度に従って頑張るよりも、“個別交渉”に注力するようになります。
これが文化として定着してしまうと、人事制度は“運用されているけど信じられていない”という構造ができてしまうこともあります。
このように、調整給は制度に柔軟性を持たせるための“良い余白”になり得ますが、運用次第ではその余白が制度全体を飲み込んでしまう可能性もあると思っています。
3. 調整給を制度としてどう設計・運用するか?
ここまでお読みいただいた方は、調整給が非常に便利でありながら、同時に制度や文化を揺るがすリスクを持つということもご理解いただけたかと思います。
だからこそ僕は、調整給を“使う/使わない”という二択ではなくて、“どういう前提で設計・運用していくか?”という視点で考えることが大切だと思っています。
ここでは、調整給を制度として取り扱ううえで、あらかじめ決めておいた方が良いと思うポイントをいくつかご紹介したいと思います。
3-1. 「調整給を付与してよい条件」を明文化しておく
何がOKで、何がNGなのか?が曖昧なまま調整給を使い始めると、組織内で“場当たり的な例外”が増えてしまいます。
「どんな理由があれば調整給が適用されるのか?」を明文化しておくことによって、制度外の処遇に一貫性を持たせることができるようになります。
たとえば以下のような形で定義しておくと、現場としても判断しやすくなる印象があります。
採用時に、等級定義に満たさないが市場相場との乖離がある場合
一時的に裁量・難易度の高い業務を任せているが、等級は変えない場合
家族・介護・転居など、生活面での一時的な事情がある場合
降格や異動等で大きく給与が下がるため、緩衝的に一時加算する場合
そしてこの条件とセットで大切になるのが、「誰がその判断をするのか?」という決裁ラインの明確化です。
たとえば、
年収レンジ内での調整であれば、直属上司+人事責任者で合意
等級レンジを超えるような調整給であれば、経営陣 or 代表取締役の承認
採用時は、採用責任者と人事が連携した上で、最終決裁者(代表または経営陣)が判断
といった具合に、「誰がどこまで判断してよいのか?」という“裁量と責任の枠”をあらかじめ共有しておくことが、調整給の健全な運用には不可欠かなと思っています。
このラインが曖昧なままだと、「人によって調整給のハードルが違う」という話が生まれやすくなり、静かに組織の不信感につながってしまうので、個別設計であるからこそ、“誰が決めたか”の設計が大事になると感じています。
3-2. 金額・期間の上限ルールを設けておく
調整給の“広がりすぎ”を防ぐためには、「どのくらいの金額を」「どのくらいの期間つけるのか?」という上限の設計があると制度として安心感が出ます。
あくまで本給ではない以上、ずっと支給され続けるものではなく、“いつかは制度に吸収されることが前提”という扱いで設計しておくことが大切だと思っています。
例:
月額ベースで上限5万円まで
年度末までに本給へ吸収・または解消の判断をする
半期ごとに見直しを実施する など
3-3. 社内での「見せ方」「伝え方」を決めておく
調整給が“透明性を損なう”という副作用を持っている以上、本人にはどう説明するのか?周囲に開示するかどうか?という設計も非常に重要になります。
僕の感覚としては、少なくとも本人には「これは制度上の昇給ではなく、●●の背景を踏まえた一時的な補填です」という説明をセットにするべきだと思っています。
周囲への開示については組織文化次第ですが、「なぜこの人だけ…?」と思わせないための設計は必須です。
3-4. 「調整給から本給への吸収」の設計を前提にしておく
最も大事なのは、「調整給が“ずっとそのまま”にならないように設計しておく」ことです。
制度に吸収される設計がないまま調整給が積み上がっていくと、やがて制度と実態の乖離が取り返しのつかないレベルまで進んでしまいます。
“今は制度上まだ整っていないけど、半年後には等級を見直す予定”など、時間軸を持った評価・等級運用と連携しておくことで、調整給が制度崩壊の入口にならずに済むと感じています。
このように、調整給は制度に柔軟性を持たせる“余白”のような存在です。
ただ、余白を余白のまま扱ってしまうと、組織の中心が曖昧になっていく。
制度は秩序であり、秩序があるからこそ余白が活きる。
その前提を持ったうえで、調整給を制度に組み込むことが大切なのではないかと思っています。
最後に
皆さんいかがでしたでしょうか。
※当社の採用/人事組織系支援にご興味がある方はお気軽にお声掛けください。
今後も採用/人事系のアウトプットを続けていきます。
よろしければフォローもよろしくお願い致します(左上クリックいただき、「フォロー」ボタンがあります)👆
