[人事制度 ver.29]「人事ポリシー策定」の解体新書
「人事ポリシーは作った方が良いのでしょうか?」
このご質問を頂戴することがあります。
人事制度の書籍を読むと「人事ポリシーを決めなさい」と言う記載があることがあります。
最初僕も「人事ポリシーってなんだ?」とWebで検索してみたのですが、人事ポリシーを崩壊している企業様は少なく、よくわからなかった思い出があります。
本ブログは、「人事ポリシー」についての話をできる限り詳細にしたいと思います。
0. 人事ポリシーとは
人事ポリシー
人事活動にまつわる方針(ポリシー)のこと
まずポリシーというのは和訳すると「方針」になります。
僕が人事ポリシーを説明する際は、バリュー(行動指針)との違いを示すことが多いです。
なぜならば、バリューは「行動指針=行動にまつわるポリシー」と言い換えることができます。
バリューは一般的にはミッション・ビジョンを達成するために、理想としている行動を設定することが多いです。
ただ、ここで1つ課題定義なのですが、「ミッション・ビジョンを達成するために必要なのは「行動」だけなのでしょうか?」
たとえば、
マネジメントポリシー
コミュニケーションポリシー
顧客対応ポリシー
事業運営ポリシー
経営陣ポリシー
人事ポリシー
これらが存在しても良いのではないでしょうか?
もちろん「これらは全てバリューが土台にあって決定する」と言う意見を持ちの方も多いかと思うのですが、人間はそこまで単純なものではありません。
そのため、バリュー(行動に関するポリシー)が存在していたとして、そのバリューの内容を生かして「マネジメントに生かす」ことを完全に体現できる事は少ないと思います。
そのため、マネジメントポリシーは必要でしょうし、コミュニケーションにおける細かいポリシーも必要かもしれませんよね。
その企業様が理想としているコミュニケーションのあり方はそれぞれですし。
0-1. 人事領域を分類してみる
一言で「人事」と申し上げても、幅が広いです。
採用業務もあれば、育成業務、いわゆる人事組織領域もあったりします。
それらを一言で「人事」と説明するのも少々雑なような気がしています。
とは言いつつも、それらの総称として「人事」というのは理解できるのですが、そもそも人事領域がどの領域で構成されているのかについて、以下に代表的な5つを挙げてみます。
採用(リクルーティング)領域
採用計画の立案、母集団形成、選考プロセス設計、候補者体験設計などを担当する領域です。育成・研修(タレントディベロップメント)領域
入社後のオンボーディングや、スキルアップ・マインドセット育成などを支援する領域です。評価・報酬(パフォーマンスマネジメント)領域
等級・評価制度、報酬設計、フィードバック運用などを担う領域です。労務・制度運用(HRオペレーション)領域
就業規則、勤怠、給与、福利厚生、安全衛生などを管理・運用する領域です。組織開発・カルチャー形成(組織人事)領域
組織の理念・価値観の醸成、エンゲージメント向上、組織構造の設計などを含む領域です。
まず、前提として、これらの総称として、人事ポリシーが成り立っていることを理解しましょう。
1. 人事ポリシーの具体的な中身とは?
人事ポリシーは、人事制度や仕組みの“上位概念”にあたるものであり、意思決定の前提となる考え方です。
評価制度や採用基準がバラバラにならないために、「人に対して、我々はどのような前提を置いて判断・設計していくのか?」を明文化しておくことが重要になります。
先ほど分類した5つの人事領域を内包するような形で、下記の内容に落とし込まれているケースが多い印象です。
1-1. 採用領域におけるポリシー例
「カルチャーフィットを最優先する」(例:メルカリ)
スキルや経験よりも、「自社の価値観やチームとの相性」を重視して採用を行う。「未経験者にも積極的に機会を与える」(例:サイバーエージェント初期)
過去の実績ではなく、ポテンシャルや成長意欲を信じて未来に賭けるスタンスを取る。
1-2. 育成・研修領域におけるポリシー例
「育成責任は会社ではなく本人にある」(例:リクルートグループ)
成長の責任はあくまで個人にあり、会社はあくまで“機会の提供者”という立場を取る。「失敗を成長機会と捉えるカルチャー」(例:freee)
チャレンジと失敗は表裏一体であり、育成のプロセスに組み込む前提で文化を設計している。
1-3. 評価・報酬領域におけるポリシー例
「定量と定性の両面で評価する」(例:SmartHR)
成果だけでなく、行動やチーム貢献といった“プロセスの価値”にもきちんと光を当てる。「絶対評価を原則とする」(例:サイボウズ)
他人と比べるのではなく、個人の目標に対する達成度を基準にして評価する。
1-4. 労務・制度領域におけるポリシー例
「安心して働ける環境づくりを最優先する」(例:ヤフー)
リモート・フレックス・育休など、ライフステージの変化に対応できる制度設計を重視する。「制度は信頼を前提に設計する」(例:note)
細かくルールで縛るのではなく、社員を信頼して制度を設計・運用していく考え方を取る。
1-5. 組織開発領域におけるポリシー例
「透明性と対話を重視する」(例:Sansan)
評価や組織運営方針についての開示、対話の場づくりなど、信頼構築に重きを置く。「経営陣が率先してカルチャーを体現する」(例:ユーザベース)
理想のカルチャーはトップダウンではなく、まず経営陣が行動で示すというスタンスを取っている。
2. 人事ポリシーの具体的な事例を見てみる
ここからは、実際に「人事ポリシー」を明文化している企業様の事例をご紹介していきたいと思います。
人事ポリシーという言葉自体は聞いたことがあるけれど、「実際にどのような会社が、どんなふうに打ち出しているのか?」という点については、あまり整理されていない印象があります。
だからこそ、今回取り上げる企業様の事例は非常に参考になるのではないかと思っています。
2-1. ソフトバンク株式会社の事例
まずご紹介したいのが、ソフトバンク様の事例です。
ソフトバンク様では「人事ポリシー」として以下のような考え方を明示しています。
挑戦する人にチャンスを
成果に正しく報いる
勝ち続ける組織の実現
多様な人材がイキイキと働くための環境づくり
これらの言葉は、どれも“スローガンっぽい”印象もあるかもしれませんが、実際には人事制度や育成方針、報酬設計などの全体に貫かれている思想のように感じます。採用・育成・評価・報酬・制度設計といった各所に、一貫性のある軸として機能しているんですよね。
「挑戦」「成果」「多様性」などがキーワードになっており、それぞれが具体的な施策にもつながっている設計になっているため、人事制度が単体で浮くことなく、組織の根幹に根づいているような印象を受けました。
2-2. 株式会社リクルートの事例
続いては、リクルート様の事例です。
リクルート様の場合は「人事ポリシー」という言葉ではなく、「人材マネジメントポリシー」としての表現になっているのですが、内容としては非常にポリシー性が強い印象を受けます。
成長の責任は本人にある
会社は成長機会を提供する存在である
進化を続けることに最大限の期待を寄せる
こうしたスタンスは、まさに“自律・自走”を前提にした人材観がベースにあると感じます。
そしてその考え方は、評価制度や育成設計にも色濃く表れています。
たとえば、自己申告型の目標設定や、本人の意思をベースにした異動制度など、「成長を受け身ではなく、能動的に取りにいくこと」が制度として設計されているんですよね。
「手厚くサポートすること=育成」と捉える企業が多い中で、「機会は提供するが、育成は本人次第」という姿勢は、ある意味ではリクルートらしさを象徴しているとも言えるかもしれません。
2-3. サイボウズ株式会社の事例
最後にご紹介したいのが、サイボウズ様です。
サイボウズ様は、他の2社と比べても、より“思想が制度にまで貫かれている”ような印象が強い企業様だと思っています。
100人100通りの働き方・休み方・キャリア
制度は信頼を前提に設計する
ルールではなくカルチャーで統治する
このあたりの言葉が公式に発信されており、それを支える実際の制度も多様です。
たとえば、在宅勤務制度、育児・介護への柔軟な対応、副業推進、子連れ出社の容認など、働き方の自由度が非常に高い設計になっています。
一方で、こうした制度を成立させるためには“信頼”がベースにある必要があるわけで、それが「カルチャーで統治する」という考え方につながっているのだと思います。
制度設計の裏側にある価値観や前提が非常に明確だからこそ、制度が形骸化せずに機能しているのだと感じます。
このように、実際の企業様の人事ポリシー事例を見てみると、「制度を設計する前に、どのようなスタンスを取るのか?」という上位の意思がどれだけ大切なのかが見えてきます。
言い換えると、人事ポリシーは“制度の設計図”ではなく、“制度の背骨”のようなものかもしれません。
そして、この背骨がしっかりしていれば、制度や仕組みが変わったとしても、その企業様らしさはぶれない。
そんな設計のあり方が理想なのではないかと思っています。
3. 人事ポリシーを作るために必要な8つの問いとは?
ここからは、人事ポリシーの作り方について解説していきたいと思います。
ただ、「こう作りましょう」というハウツーではありません。
あくまで、“深層的な問いかけ”を通じて、自社らしい人事ポリシーを発見していくための設計をしていきたいと思っています。
人事ポリシーとは、「制度の上位概念」でありながら、実は「この会社における人間観・社会観の表明」でもあるからです。
3-1. 人事ポリシーを作るために必要な8つの問い
① この会社で、どんな人たちと、どんな未来を共に創りたいですか?
(対応領域:採用・組織開発)
採用において誰を迎えるべきか、組織開発においてどんな未来を目指すべきかを定義する問いです。
単なるスキルや経験ではなく、「共に創る未来」という観点で考えていきます。
② この会社で、人にどんな力を育んでもらいたいですか?
(対応領域:育成・評価)
育成領域における成長方針、評価基準に直結する問いです。
知識やスキルだけではなく、態度・姿勢・視座といった成長の質にまで踏み込みます。
③ この会社に集う人たちに、私たちはどんな環境と機会を提供すると約束しますか?
(対応領域:労務・制度運用・育成)
会社がメンバーに対して何を保障し、どんな機会を開くのかを問う問いです。
制度や環境設計の根底に流れる「会社からの約束」を言語化します。
④ この会社に集う人たちに、私たちはどんな責任と期待を求めますか?
(対応領域:評価・労務・組織開発)
「権利」と「義務」のバランスをどう設計するかを定める問いです。
自由に挑戦できる一方で、どこに責任を持つべきかを明らかにします。
⑤ この会社において、人間とはどんな存在だと信じていますか?
(対応領域:すべての領域)
すべての人事施策の奥底に流れる「人間観」を定義する問いです。
人は信じれば育つのか?それとも制御・管理を前提とするのか?ここを曖昧にしないことが重要です。
⑥ この会社にとって、仕事とは何を意味しますか?
(対応領域:育成・評価・組織開発)
仕事を「生計手段」と捉えるのか、「自己実現の場」と捉えるのか、それとも「社会変革の手段」と捉えるのか。
仕事観を明確にすることで、働き方・キャリア開発・評価基準の方向性に一貫性が出ます。
⑦ この会社にとって、組織とは何を育む場所だと定義しますか?
(対応領域:組織開発・制度運用)
組織は成果を出す場所なのか、成長を促す場所なのか、変革を生み出す場所なのか。
組織そのものの存在意義を言語化する問いです。
⑧ この会社は、社会に対してどんな“存在の約束”をしていると言えますか?
(対応領域:採用・組織開発・社会的存在意義)
この会社が存在すること自体に、どんな社会的な意味や価値があるのか。
単なるビジョンとは別に、「存在を通じた社会への約束」を定める問いです。
3-2. この8つの問いを辿った先に見えるもの
この8つの問いを本気で向き合い、言語化しきったとき、
単なる制度の土台ではなく、
「この会社は、なぜ人を迎え、育て、評価し、守り、解き放つのか」
という、存在の宣言としての人事ポリシーが立ち上がります。
そして、それは変わり続ける世の中にあっても、会社の中に一本通った“背骨”として機能していくはずです。
3-3. なぜ人事ポリシーに“人事5領域”を意識するべきなのか?
ここで、少しだけ補足をしたいと思います。
今回、人事ポリシーを作成する背景は、「人事制度の構築」が大きなテーマになっています。
人事制度を設計する以上、当然ながら制度を支える領域、すなわち
採用(リクルーティング)領域
育成・研修(タレントディベロップメント)領域
評価・報酬(パフォーマンスマネジメント)領域
労務・制度運用(HRオペレーション)領域
組織開発・カルチャー形成(組織人事)領域
という、人事の5大領域を意識して設計する必要が出てきます。
ここで大切なのは、「5領域すべてを必ず網羅しなければならない」という話ではない、ということです。
大事なのは、
自社にとってどの領域が最も重要か?
逆に、今はそこまでフォーカスしない領域があるのか?
あえて入れない領域があるとしたら、その意図は何か?
を、意図的に選択することだと思っています。
つまり、“無意識に抜け漏れる”のではなく、”意図して取捨選択する”。
このスタンスで向き合うことが、人事ポリシーを「活きた設計」にするために欠かせないと思うのです。
そして、忘れてはならないのは、
人事ポリシーは制度設計だけに使えるものではない、ということです。
採用活動で候補者に伝えるスタンスにも
育成施策や研修設計にも
評価フィードバックやマネジメントスタイルにも
広く横断的に根を張っていくものです。
だからこそ、最初に立ち上げるポリシーは、「制度のため」だけではなく、会社全体の“あり方”を支えるものであってほしいと思っています。
4. 人事ポリシーから、制度設計(等級・評価・報酬)がどう決まってくるのか
ここまで、人事ポリシーとは何か、その作り方についてかなり深堀りをしてきました。
ここでは補足的に、人事ポリシーと人事制度(等級・評価・報酬)の関係性についても触れておきたいと思っています。
このパートではあえて、やや直接的な表現も交えながら、シンプルに整理をしていきます。
4-1. 人事ポリシーは“抽象的な意図”である
まず前提として、人事ポリシーは、抽象度の高い意図や世界観を言語化したものです。
「どんな人を育てたいのか」
「どんな成長を信じるのか」
「どんな文化を醸成したいのか」
こういった問いに対する企業の答えが、人事ポリシーとして立ち上がってきます。
つまり、人事ポリシー自体には、「等級はこうするべき」「報酬体系はこうあるべき」といった直接的な制度の設計指針は存在しない、ということです。
それでもなお、人事制度設計においてポリシーが極めて重要になるのは、
人事ポリシーが“どのような人間の成長や貢献を価値あるものと捉えるか”を決めているからだと考えています。
4-2. 等級・評価・報酬は、“抽象的意図を具体化する運用設計”である
では、等級定義や評価項目、報酬設計は何なのか?
それは、ポリシーという抽象的な意図を、組織運営上、具体的に運用できる形に落とし込んだものだと思っています。
たとえば、成果主義を重んじるポリシーであれば、当然ながら「目に見える成果」を中心に評価設計を組み立てるべきですし、育成成長を重んじるポリシーであれば、「どれだけ成長したか」や「どんな変容を遂げたか」を評価できる設計にすべきでしょう。
もしこの“意図と制度”の接続がズレてしまうと、いくら立派なポリシーを掲げても、実際の組織運営の現場では全く違うメッセージが送られてしまいます。
だからこそ、ポリシーという意図がまずありきで、そこから制度設計を逆算していくことが本質的に重要なのだと思っています。
4-3. ポリシー別に、制度設計がどう変わるか(改訂版)
ここでは、参考例として、具体的な人事ポリシー文言を提示したうえで、そこからどのように等級・評価・報酬が設計されるかを整理してみたいと思います。
育成成長重視ポリシーの場合
ポリシー例
「私たちは、“いつか”ではなく、“今”挑戦できる人を支援します。成長に貪欲でない限り、守り抜く対象にはなりません。」
このポリシーを掲げる組織では、制度設計も「成長角度」や「挑戦姿勢」に軸を置く設計になっていくでしょう。
等級設計
→ 成果量よりも「成長スピード」や「自己変革力」を基準に昇格を判断する等級設計になります。評価設計
→ 成果達成だけでなく、「挑戦回数」「リスクを取った行動」「学びの早さ」などを具体的に評価項目に入れる設計になります。報酬設計
→ 短期成果連動型ではなく、成長プロセスやスキル習得に応じた昇給モデルを中心に据えることになります。
成果主義ポリシーの場合
ポリシー例
「私たちは、挑戦し、成果を出した人を正当に評価します。プロセスを尊重しながらも、結果に対して真摯に向き合います。」
このポリシーを掲げる組織では、制度設計も「成果=価値」というシンプルなメッセージを形にしていくことになります。
等級設計
→ 明確な成果(売上、利益、KPI達成)をベースに昇格可否を判断するシンプルな設計になります。評価設計
→ 「目標設定とその達成率」を主軸に据え、プロセス評価は最小限に抑える形になります。報酬設計
→ 成果連動比率の高い設計(インセンティブや成果給の割合が高くなる)にしていきます。
安心安全重視ポリシーの場合
ポリシー例
「私たちは、誰もが安心して挑戦できる環境を整備することを最優先します。挑戦する意志なき人にとっては、ただ居心地のいい場所にはしません。」
このポリシーを掲げる組織では、制度設計も「心理的安全性を担保しながら、挑戦を促す」という二重構造になります。
等級設計
→ 成果インパクトではなく、「チームへの貢献度」や「カルチャー体現度」を重視した多面的な等級設計になります。評価設計
→ 個人成果だけでなく、「チーム内での支援行動」「心理的安全性への貢献」などを評価項目に含めます。報酬設計
→ 固定給中心の設計にして、短期成果による変動を抑え、安定感を重視する設計にします。
自律共創重視ポリシーの場合
ポリシー例
「私たちは、挑戦し、学び、互いに影響を与え合う集団であり続けます。自己成長と共創を両立できる人を歓迎します。」
このポリシーを掲げる組織では、制度設計も「自律」と「チームインパクト」を両立する構成になっていきます。
等級設計
→ 個人スキルだけではなく、「チームへの影響力」「自己変容力」を評価できる等級設計になります。評価設計
→ 自己目標の達成だけでなく、「周囲へのポジティブインパクト」「共創行動」をスコア化していく設計になります。報酬設計
→ 成果と成長、両方を反映する設計にして、短期成果と長期貢献のバランスを取るモデルにします。
このように、人事ポリシーが変われば、制度設計の前提そのものが変わるということがイメージできるかと思います。
そして本来、制度とは、組織に「どんな人が、どんな成長曲線を描いていくのか?」を支援するための設計です。
だからこそ、ポリシー→制度の流れを意識することが極めて重要だと考えています。
最後に
皆さんいかがでしたでしょうか。
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