[人事制度 ver.35]人事評価における「360度評価」の解体新書
「360度評価を入れたいのですが」
そんなご要望をいただくことがあります。
360度評価を評価項目に入れるのか?については、悩ましいポイントが多数あるかと思っています。
本ブログでは360度評価について様々な説明をするとともに、評価制度をどのように入れるべきなのか?についてご説明したいと思います。
0. 360度評価とは
360度評価とは
被評価者の上、下、横、斜めのメンバーから評価(フィードバック)をいただく評価項目のこと
おそらく360度評価と言う名称自体を耳にされたことがある方多いかと思うのですが、具体的にどのような評価項目なのか?について明瞭に説明できる方が少ないかもしれません。
僕もその1人でした。
一つひとつ明瞭にしてまいりましょう。
0-1. 360度とは?
360度評価の「360度」について説明したいと思います。
「360度」と言う名の通り、前も後ろも横も斜めもです。
つまり、
部下
後輩
上司
同レイヤーのメンバー
別部署の方
上司の上司
などが該当します。
ただ、お察しいただけるかもしれないのですが、被評価者のことを全く知らない・関わらない片側360度評価者になってしまうと本末転倒です。
そのため、次項目が重要になってきます。
0-2. 評価対象者について(概要)
360度評価をするにあたり、自分自身が「評価される側」であって、「評価する側」であったりします。
評価する側である場合「あれ、この人のことよくわからないぞ」と言う体験をした方は多いかもしれません。
一般的な評価は、評価者が上司、被評価者が部下であることが多いかと思います。
この場合、さすがに上司は部下のことをある程度認識している上で評価を実施します。
ただ、360度評価は、その名の通り、被評価者のことをほぼ関わっていないと言う場合、効果が最大化することはないです。
そのため、それぞれの評価対象者の選定については大きなポイントになります。
次項目をご覧ください。
1. 評価対象者について(詳細)
前述した通りの評価対象者が存在している場合、360度評価の評価者をどのように設計すれば良いのか?についてご説明したいと思います。
1-1. 評価対象人数
結論としては「5名程度」から360度評価が集まるような仕組みを設計できると良いと思っています。
ただ、評価対象人数は、様々な要素が起因して決まってきます。
たとえば、
全社の社員数
在籍している部門の人数
同じ職種の人数
同じレイヤー(役職)の人数
などによって変わります。
また、20名の会社で部門は1つで、同じ職種の人数が5名である場合、マネージャーの方への360度評価は
同じ職種のメンバーから2名
同じ役職から1名
上(下)の役職から1名
別の職種から3名
同じ役職から1名
上(下)の役職から2名
というイメージになります。
先ほど記載をした要素によって、評価対象人数が異なるかと思いますので、一概に何とも言えませんが、ご認識いただければと思います。
1-2. 評価対象部門・職種
前項目で少し触れましたが、評価対象の部門と職種は変数になります。
これは導入する企業の思想次第ではあるのですが、
同じ職種のメンバーからのみ360度評価を実施
同じ職種+別の職種の両者から360度評価を実施
別の職種のメンバーからのみ360度評価を実施
という場合があります。
ここで「職種」を「部門」に変換いただいても大丈夫です。
ただ「職種×部門」という2つの変数も可能性があるため、より複雑性が増します。
僕個人的な意見としては、
他職種(部門)と仕事上で関わりが強い場合は、他職種(部門)を入れるという話をさせていただいています。
たとえば、プロダクト開発をしている企業様であれば、エンジニアとデザイナーとプロダクトマネージャーのコミュニケーションは必然的に発生します。
また、営業やカスタマーサクセスなどビジネスサイドとのコミュニケーションも発生することもあると思います。
その場合、同じ職種からのみの360度評価よりは、他の職種や部門からの360度評価を入れた方が良いと感じています。
1-3. 評価対象レイヤー
レイヤーというのは役職だと思ってください。
これも注意すべきポイントの1つです。
どういうことかと言うと、たとえばメンバークラスである場合、評価者がマネージャー(上司)であることが多いです。
また、マネージャーの評価者は事業部長もしくは執行役員であることが多く、執行役員の評価者は取締役もしくは社長であることが多いです。
そんな中で、執行役員や事業部長やマネージャーの360度評価に、メンバークラスをアサインするのか?という話です。
マネージャーの360度評価メンバーを入れても良いと思うのですが、事業部長の360度評価に対してメンバークラスをアサインするのか?というと違う感じもしますよね。
つまり、隣接した「レイヤー(役職)」までに留めるのか?もしくは2つ上下の役職にも360度評価の対象者としてサインするのか?という話が存在します。
また、1つ別の話をすると、レイヤー別の360度評価対象人数もポイントの1つです。
たとえば、自分自身がマネージャーだとしましょう。
その場合、上下に社員が存在します。この場合、下のメンバークラスから2名、横のマネージャーから2名、上の役員から1名にする場合、2:2:1になるわけです。
この比率についても1つポイントになります。
もちろん、メンバークラスである場合は、最も下の役職であるため、0:2:2などの比率になるのではと思っています。
1-4. 評価対象者の選定基準・フロー
これまで記載してきたように、評価対象者の「人数」や「職種」「レイヤー」についての設計がある程度見えてきた段階で、次に出てくる論点が、「じゃあ誰をアサインするのか?」という話です。
つまり、実際に360度評価を“誰にしてもらうのか”をどう決めるのか?という話ですね。
ここが意外と詰まりがちなポイントでもあります。
なぜならば、誰にフィードバックをもらうか?というのは、制度設計の論点というよりも、実装フェーズにおける意思決定の繊細さが関係してくるからです。
たとえば、
評価対象者(被評価者)本人が評価者を指名する場合
上司が評価者をアサインする場合
人事側でリストを作って提供する場合
の3パターンがあるかと思いますが、それぞれにメリット・デメリットがあります。
本人に選ばせる場合は「恣意性」が入る可能性があり、上司に任せると「評価に近すぎる目線」が入り、人事が作ると「実情が見えないまま割り振られてしまう」みたいな話が出てきたりします。
ここで僕が大事だと思っているのは、「誰に選ばせるか?」ではなく、“どんな基準で、どういう前提で選ぶのか”を言語化しておくことです。
たとえば、
「一定期間以上、業務上のやり取りがあったこと」
「日常的に1on1またはSlackなどでの接点があったこと」
「業務上の成果・姿勢の両方に触れていること」
のような選定基準をあらかじめ定めておくだけで、評価の意味合いや制度の納得感が大きく変わってきます。
また、選定理由を一言でいいので本人(もしくは推薦者)に書いてもらうのも効果的だと思っています。
「なぜこの人に評価してもらうのか?」が主観であっても明文化されていることで、評価自体の文脈が読みやすくなるんですよね。
360度評価は“多様な視点からのフィードバック”という建前がある分、評価の起点となる“関係性の濃度”を可視化しておかないと制度がブレる印象があります。
だからこそ、評価対象者の選定フローは「軽いタスク」ではなく、「制度の背骨を通すプロセス」として丁寧に扱った方がいいなと思っています。
2. 360度評価を実施する前に認識しておいてほしいこと
ここからは、360度評価を本格的に制度として取り入れるにあたって、事前に認識しておいた方が良いことについてお伝えしたいと思います。
360度評価は、仕組みや形式の話をしがちなのですが、そもそも
“どういう思想でやるのか?”
“どんな前提を踏まえて制度に組み込むのか?”
があやふやなまま進めてしまうと、制度の持続性や現場への浸透がうまくいかない印象があります。
そのため、この章では、評価項目を設計する前段として、いくつか重要な論点をご紹介できればと思います。
2-1. 360度評価を“正式な評価項目”として扱うかどうか?
まず初めに考えておきたいのが、「360度評価を評価制度の“正式な項目”として扱うのか?それとも参考情報として扱うのか?」というジャッジです。
僕がこれまでご支援してきた企業様の中でも、360度評価を点数評価として組み込むケースと、補足的な情報として活用するケースの両方がありました。
どちらが正解ということではなく、組織の思想や評価制度全体の設計バランスによって決めるのが良いと思っています。
個人的には、360度評価はまず「参考材料」から始める方が、現場にも受け入れられやすく、運用もしやすい印象があります。
制度として“点数に紐づく”となると、フィードバックが慎重になりすぎたり、本音が出づらくなったりすることもありますからね。
2-2. 通常の評価項目と“被せる”のか、“あえて被せない”のか?
これは、評価項目の中身をどう設計するか?というよりも、制度上の立ち位置の話になります。
どういうことかと言うと、通常の評価項目(たとえば成果や行動評価)と同じ項目を360度でも設定するのか?それともまったく別の観点を設けるのか?という話です。
前者(被せる)であれば、評価者が見ている内容と他者が見ている内容のズレを確認する用途として使えます。
後者(被せない)であれば、360度評価は「制度では拾いきれない、でも組織にとって重要な視点」を拾うという役割になります。
ここも思想の違いなのですが、僕は後者の「見えないものを拾う」設計の方が制度としての意味が深くなるように思っています。
2-3. 360度評価項目を“どう選ぶか?”という思想について
評価項目を何にするか?はすごく大事な論点なのですが、そもそも“なぜその項目を入れるのか?”の背景が明確でないと、形だけの評価になってしまうと思っています。
そこで、360度評価の評価項目を設計する際に、僕がよく使っている4つの視点を下記に整理してみました。
① 上司からは見えにくい項目を拾う(補完)
リスペクトや配慮、陰口、チームへの空気感などは、上司からはどうしても見えない部分。だからこそ360度で拾う。
② 通常の評価項目を補強する(補強)
行動評価と同じ項目を設けることで、評価者と周囲の目線にズレがないかを確認する設計。
③ 組織が重視したい価値観を言語化する(発信)
評価項目そのものが「うちの会社ではこれが大事なんだよ」というメッセージにもなる。
④ 組織の“未然防止”として機能させる(保険)
ブリリアントジャークの検知。成果は出すけど空気を壊している人に対して、周囲の声で気づける設計。
この4つは排他ではなくて、会社の状況や思想に応じて“どの観点を主軸にするか”を決めていけば良いと思っています。
どれが正しいかではなく、どの方向に制度を向けたいのか?を言語化してから項目に落とすという順番が大事だと思っています。
3. 360度評価で設定される可能性のある評価項目
では、360度評価をする具体的な項目についてご紹介したいと思っています。
【A. 対人配慮・リスペクト観点】
社内外の約束を守っていたか
相手を配慮したコミュニケーションができていたか
棘のある言動や攻撃的な態度がなかったか
陰口やネガティブな発言がなかったか
不満やストレスを自己管理できていたか
【B. 周囲への影響・信頼性】
周囲を安心させるような言動・態度だったか
チーム内に良い影響を与えていたか
人から頼られていたか、信頼されていたか
他メンバーの成功を素直に喜べていたか
周囲からの相談を歓迎していたか
【C. フィードバック受容・自己認知】
フィードバックに対してオープンだったか
指摘を受けた際に防衛的にならず、受け止められていたか
自分の立ち振る舞いを客観視できていたか(※補足的に追加)
【D. 誠実さ・価値観の一貫性】
情報共有において正確さ・誠実さがあったか
バリュー・ミッションに即した行動を体現していたか
トラブル時に冷静な判断と行動ができていたか
この中から抜粋してご紹介したいと思います。
3-1. 約束を守るという“信頼の土台”を見にいく
まず一つ目は、「約束を守る」という基本的な信頼の土台がどうだったか?という観点です。
上司との1on1や成果レビューでは意外と見えないのが、「誰かに頼まれたことを後回しにしていないか?」「Slackで言った内容を忘れていないか?」といった、日常の信頼蓄積の有無なんですよね。
特に、チーム内での「ちょっとした約束」って、上司からは把握しきれない部分が多いです。
そのため、「社内外の約束を守れていたか?」という問いを360度で投げることで、“その人と一緒に働く安心感”があるかどうかを拾うことができると思っています。
ルールを守る、ではなく、信頼を積んでいるか?という視点です。
3-2. 配慮や攻撃性の“空気の質”を可視化する
次に、僕が360度評価で必ず見ておきたいと思っているのが、“人との接し方”に関する部分です。
たとえば、下記のような問いはすごく有効だと思っています。
相手を配慮したコミュニケーションが取れていましたか?
棘のある言動や、感情的・攻撃的な態度はありませんでしたか?
陰口や、2次情報を基にしたネガティブ発信はありませんでしたか?
こうした観点は、上司が見ようとしても見えないし、むしろ上司には絶対に見せない顔だったりもします。
僕自身、代表という立場で接していると、みんなすごく丁寧に接してくれます。
ただ、同じようにメンバー間で接しているか?は、正直わからない。
だからこそ、360度評価では“その人の対人姿勢”を言語化して拾いにいくべきだと感じています。
3-3. 感情の扱い方=自己管理の水準を見にいく
最後に、これはあまり一般的な評価項目ではないかもしれないですが、“感情をどう扱っていたか?”という視点も、個人的には非常に大事にしています。
人間ですから、不満があったり、イラッとすることがあるのは当然です。
ただ、その感情を「どう扱ったか?」は、その人の自己認知や成熟度がすごく出る部分だと思っていて。
不満を建設的に表現できていたか?
必要以上にネガティブさを周囲に伝染させていなかったか?
言いたいことがあっても、相手の立場を考慮していたか?
こういった問いは、“成果には現れないけれど、チームの雰囲気や安全性を大きく左右する要素”だと思っています。
だからこそ、成果主義が強い組織であればあるほど、360度ではこういう“内面的な取り扱い”を見にいった方がバランスが取れるように感じています。
このように、3-1〜3-3は、いずれも“上司からは見えにくいけれど、組織にとって極めて重要な要素”として、360度評価で拾っていくべきだと考えている項目です。
もちろん、組織の状況や目的によって設計は変わって良いと思っていますが、何を拾いたいか?が明確な状態で設計を進めていただけると良いのではと感じています。
最後に
皆さんいかがでしたでしょうか。
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