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[人事制度 ver.33]人事評価における「絶対評価と相対評価」の解体新書

「評価って絶対評価と相対評価どちらが良いのですか?」
というご質問を頂戴することがあります。

そもそも絶対評価と相対評価って何?と言う方もいらっしゃるかと思うのですが、本ブログで解説していきたいと思います。


0. 絶対評価と相対評価について

端的に言うと、評価の「基準の置き方」だと思ってください。

たとえば、小学生や中学生の時に通信簿がありましたよね。
通っている中学校では、5段階評価で、国語、理科、数学、社会など各教科で評価を受けていました。
1学年に160名程度いたのですが、各教科において、大体下記の比率だったと記憶しております。

  • 5(秀):7〜10%

  • 4(優):20〜25%

  • 3(良):40〜50%

  • 2(可):20〜25%

  • 1(不可):7〜10%

これはまさに相対評価の事例です。
つまり「相対的な基準の置き方」になっているのです。

先だって説明してしまいましたが、絶対評価と相対評価について詳しく説明させてください。

0-1. 絶対評価とは

絶対評価とは
“あらかじめ定められた評価基準(定義)に対して、どれだけ満たしているか?”という視点で評価をする方法。

ここでは、他人と比較することは一切ありません。
評価対象者が「その基準を満たしているか/いないか」という“基準との距離”だけが判断材料になります。

たとえば、等級定義や行動基準がある会社の場合、「等級3ではこういう状態が求められている」という定義がある中で、その定義に対して本人がどれくらい到達しているか?を見ていくわけです。
そのため、同じチーム内に「等級3に届いている人」が5人いても、全員が等級4に昇格しても良い、という考え方になります。

つまり、“昇格は定員制ではない”という設計ができるのが、絶対評価の大きな特徴だと思っています。

0-2. 相対評価とは

相対評価とは
“他者との比較”によって評価が決まる仕組み

先ほどの通信簿の例がまさにそうなのですが、「学年の中で上位10%が5評価」「真ん中が3評価」といった具合に、全体の中での“順位”や“分布”に基づいて評価がなされるのが相対評価です。

この場合、どれだけ頑張ったか?や、定義を満たしていたか?とは関係なく、「他の人より上か下か」が評価の結果を左右することになります。
つまり、基準は“絶対的なもの”ではなく、“その集団の中でどの位置にいたか”で評価が決まるということですね。

本ブログは長尺の内容になるため、先に結論申し上げておくと、ベンチャー企業は絶対評価が良いと思います。
割と規模感が大きくなってきたら、相対評価に移行する形で良いと思います。
その理由は、本ブログの最下段に記載したいと思います。

1. 給与の原資は利益であるということ

絶対評価なのか、相対評価なのかという議論をするにあたり、前提認識として持っておいていただきたいのは「給与の原資が利益である」ということです。

少し具体的に説明します。
会社(法人)は何かしらの事業活動を行っており、その事業活動において売り上げと利益が発生します。
売り上げはサービスにおける対価ですが、「コスト」の存在を忘れてはなりません。
コストというのは、人件費や地代家賃や光熱費やその他福利厚生費、マーケティング費用などもここに入ります。
つまり、
利益 = 売上 − コスト
になります。
ご理解いただけているのではないかと思っています。

では、僕らの給与はどこから出ているのでしょうか?
もちろん「売り上げ」にはなるのですが、仮に「給与を上げたい」という場合は「利益」が上がっていなければ上げることが難しくなります。
不可能ではないですが。
なぜならば、売り上げが上がっていても、利益が出ていなければ、社員の給与を上げると赤字になってしまいます。

本ブログの主題である、絶対評価と相対評価の話も同時に進めましょう。
たとえば、ある企業で絶対評価を導入していたとします。
その企業は100名の企業で、前年対比で売り上げは10%増。ただし、利益はマイナス5%。
つまり、利益はほぼ0円、赤字でも黒字でもない“トントン”の状態だったとしましょう。
そんな中で、年度の評価が下記のような比率だったとします。

  • S評価:50%(50名)

  • A評価:30%(30名)

  • B評価:20%(20名)

  • C・D評価:0名

そして、各評価における年収アップ幅が下記のように設定されていたとしましょう。

  • S評価:50万円アップ × 50名 = 2,500万円

  • A評価:30万円アップ × 30名 = 900万円

  • B評価:10万円アップ × 20名 = 200万円

この場合、合計での昇給インパクトは、3,600万円になります。

利益がほぼ出ていない中で、評価制度の運用結果として3,600万円の昇給が発生してしまう。
これが何を意味するかと言うと、制度としては“絶対評価に基づいた健全な運用”をしているにもかかわらず、会社としては赤字に突入するという事態が発生してしまう、ということです。

ここまで極端な事例はそう多くはないかもしれませんが、絶対評価は「一人ひとりの成長」に焦点を当てやすい分、制度と財務が分断されていると、現実とのギャップが表面化しやすいなと感じています。
だからこそ、絶対評価を導入する際には、「この制度でどれだけの昇給が発生するか?」という人件費総量のシミュレーションと、「その原資は本当にあるのか?」という視点をセットで設計していく必要があると思っています。

一方で、これが相対評価であった場合、どのような運用になるのか?についてもシミュレーションしてみたいと思います。
まず前提として、相対評価の場合は「評価比率そのものを制度としてコントロールできる」点が大きな特徴です。
たとえば、下記のような評価分布を設定することができます。

  • S評価:10%(10名)

  • A評価:20%(20名)

  • B評価:50%(50名)

  • C評価:15%(15名)

  • D評価:5%(5名)

この分布において、昇給幅が絶対評価の事例と同様だった場合、各評価に対する昇給インパクトは下記の通りになります。

  • S評価:50万円アップ × 10名 = 500万円

  • A評価:30万円アップ × 20名 = 600万円

  • B評価:10万円アップ × 50名 = 500万円

  • C・D評価:据え置き

合計での昇給インパクトは、1,600万円です。
先ほどの絶対評価のケースでは昇給総額が3,600万円だったのに対して、相対評価ではおよそ半分以下の金額で運用が可能ということになります。

ここでポイントになるのが、相対評価は“原資(予算)をコントロールした上で評価運用ができる”という制度設計の考え方です。つまり、財務状況に応じて「この年度は昇給原資は2,000万円までに抑えたい」という前提を置き、その枠内で評価比率と昇給幅を逆算設計することができるというわけです。
これによって、昇給額の上限を財務的に担保したまま、制度運用としてもブレが出にくい仕組みにすることが可能になります。

ただし、ここで注意したいのは、評価される本人からすると“相対評価の限界”が見えにくいという点です。自分がどれだけ頑張ったとしても、他にもっと良い成果を出した人がいれば評価は下がる。
つまり、「定義を満たしていても昇格・昇給できない」という構造になりやすく、納得感の醸成や評価の透明性が制度設計上の大きな論点になります。

このように、絶対評価と相対評価は、制度単体での優劣ではなく、制度と組織フェーズ・財務状況・人事戦略との連動設計がすごく重要だなと感じています。

2. 絶対評価と相対評価を考える上での比較観点

ここからは、「結局どちらが良いのか?」という問いに対して、僕なりに整理している比較の観点をいくつかご紹介したいと思います。

どちらかに絶対的な正解があるという話ではなくて、組織の思想や制度の目的、そして経営の現実に応じて、どういう観点で設計していくのか?を整理しておくことが大切だと思っています。

2-1. 昇格・昇給に“枠”があるかどうか?

絶対評価では、定義に満たしていれば全員が昇格・昇給してOKという前提にできます。
一方で相対評価では、「上位○%だけが昇格できる」など、人数に上限がある前提で制度を設計するケースが多いです。
この“枠を設けるかどうか?”によって、制度の性質も大きく変わってきます。

2-2. 給与原資(利益)との連動度合い

こちらは先ほどシミュレーションでも記載しましたが、絶対評価では「制度的にはOKでも財務的に実行できない」ケースが出てきます。
一方で、相対評価では利益や昇給原資に応じて評価比率を設計できるため、予算コントロールの観点では運用しやすい設計になることが多いです。

2-3. 評価制度の“目的”が成長なのか選抜なのか?

絶対評価は、「個人の成長や行動変容」を促すための制度設計に向いています。
相対評価は、「限られた枠の中で誰を選ぶか?」という選抜型の制度に親和性があります。
“制度を通じて何を実現したいのか?”によって、どちらが合うかは変わってくると思っています。

2-4. 評価者に求められるスキルの違い

絶対評価では、「定義を正確に理解し、それをブレなく適用できる力」が求められます。
一方で相対評価では、「全体を俯瞰し、誰と誰を比較すべきかを判断するセンス」が必要です。
評価者のスキルセットに応じて、どちらが現実的か?を見ておくことも大切だと思っています。

2-5. 評価を受ける側の納得感と心理的安全性

絶対評価は、基準にさえ達していれば評価が上がるため、本人の納得感が得られやすい制度になりやすいです。
一方で相対評価は、周囲との比較になるため、「自分が頑張っても評価されない」ことが起こりやすく、納得感の醸成が難しいケースもあります。

2-6. 組織のフェーズとの相性

スタートアップや拡大フェーズの組織では、育成や行動変容を促す絶対評価の方が向いていることが多いです。
逆に、成熟期・安定期の組織では、相対評価のように格差や配分の設計がしやすい制度がフィットする場合もあります。
このあたりは、組織のステージに合わせて柔軟に判断していく必要があると感じています。

このように、制度単体の良し悪しというよりは、“組織において、何を評価で設計したいのか?”を軸に整理するのが良いのではないかと考えています。
次章では、この2つの制度をどう組み合わせて運用するのか?についても触れていければと思っています。

3. 絶対評価・相対評価を導入することで起こる“見えづらい副作用”について

評価制度というのは、単なる点数付けではなく、人と人との関係性や、組織の空気をつくる構造そのものだと思っています。
制度の設計次第で、日常の会話も、振る舞いも、協働のあり方も静かに変わっていきます。
その前提で、ここからは絶対評価・相対評価を導入した際に起きやすい副次的な影響について、少し丁寧に触れていきたいと思います。

3-1. 絶対評価を導入したときに起こりやすい副次的な問題

  1. 評価のインフレが起きやすい
    絶対評価では、「基準を満たしていれば昇格して良い」という設計であるため、年々評価のハードルが実質的に下がっていく現象が起こることがあります。
    “定義をどう解釈するか?”は評価者の力量によってばらつくため、「甘い基準」で運用されていくと、結果として評価の希少性や意味が薄れてしまうこともあります。

  2. “最低限でいい”という文化ができやすい
    絶対評価は、満たせば評価される構造のため、「等級定義にギリギリ達していればOK」という心理が働きやすくなります。
    これは裏を返すと、定義を超えた挑戦やストレッチ行動が抑制されるという側面もある。
    評価制度が“上限を目指すもの”ではなく、“ボーダーを満たすゲーム”になってしまう危険性も含んでいます。

  3.  昇格できなかった人の自己肯定感が過度に下がる
    絶対評価は「基準に届いていれば誰でも上がれる」前提のため、逆に昇格しなかった人にとっては、“自分だけできていない”という強い自己否定に繋がるリスクもあります。
    制度上はフェアに見えて、本人の捉え方としては「相対評価以上に落ち込みが大きい」という現象が発生することもあります。

3-2. 相対評価を導入したときに起こりやすい副次的な問題

  1. 組織内の“見えない競争”が強くなる
    相対評価は“席数が限られている”制度です。
    これにより、「誰かが上がるということは、誰かが上がれない」という世界観が生まれます。
    この構造は、協働よりも個人プレーを助長する空気を生みやすくなり、場合によっては足の引っ張り合いや情報の囲い込みが起きることもあります。
    僕の感覚では、こうした現象は“半沢直樹的な空気”として静かに浸透していく印象があります。

  2. フィードバックが機能しにくくなる
    相対評価の構造下では、「他者の評価が自分の昇格に影響する」ため、オープンなフィードバックが出づらくなることもあります。
    たとえば、「ここを直した方が良いよ」と言うことが、自分の“競争相手を強化する”ことにつながってしまうと、自然と黙る文化ができてしまいます。
    こうした“健全な摩擦や助言が失われる空気”は、長期的に見るとチームの成長を鈍化させていきます。

  3. 成長実感が得られにくくなる
    相対評価はあくまで“他人との比較”であり、「自分がどれだけ伸びたか?」は制度上、見えにくい構造です。
    結果として、「前よりもできるようになっているのに、評価が下がった」「成果を出したのに、他の人の方が上だったから評価が下がった」という、努力が報われにくい体験が発生することもあります。

このように、どちらの制度も表面的にはフェアでロジカルに見えますが、その裏側には"人間の感情・行動・関係性に静かに影響を与える“構造の力”が働いています。

評価制度とは、評価の話に見えて、組織文化や心理的安全性、挑戦の空気感を設計する話なのだと思います。
だからこそ、どちらの制度にもメリット・デメリットがある前提で、「どんな組織をつくりたいか?」から逆算して制度をデザインしていく必要があるのではないかと思っています。

4. 絶対評価と相対評価、どちらかではなく“どう組み合わせるか?”

ここまで読み進めてくださった方は、すでに感じていらっしゃるかもしれませんが、絶対評価と相対評価は、「どちらが正しいか?」というよりも、“どちらの要素を、どこに、どう使うか?”という設計の話だと僕は思っています。

たとえば、昇格については絶対評価で設計し、等級定義に対して到達していれば上がれる仕組みにする。
一方で、賞与などの報酬配分については相対評価を用いて、「今期特に成果を上げたメンバーへのメリハリ」をつけるように設計する。
つまり、昇格=成長の証明/相対=報酬の配分という分け方もあると思っています。

また、制度上は絶対評価をベースにしながらも、「年次や役職によっては相対比率の目安を設ける」などの調整を入れる企業も多い印象です。
どちらか一方に振り切るというよりは、目的と組織のフェーズに応じてバランスをとることが、結果的に制度の納得感や持続性につながっていくのではと思っています。

5. ベンチャーは絶対評価、大きくなったら相対評価(フェーズと例外を含めて)

ここまでの話を踏まえて、僕としてのスタンスをもう一度整理しておきたいと思います。

結論として、ベンチャー企業、特にシリーズAくらいまでのステージでは絶対評価がフィットしやすいと感じています。
一方で、シリーズB以降〜上場フェーズにかけて、相対評価を適切に取り入れていくことで、制度と経営の接続がより機能していくというのが僕の現時点での考えです。

■ 絶対評価で設計すべきフェーズ(原則)

  • 資金調達フェーズ:〜シリーズAまで

  • 社員数の目安:〜100名程度

  • 評価の目的:行動変容・育成・等級定義の定着

  • PL上の特徴:赤字も許容される前提/人件費より事業成長を優先するフェーズ

この段階では、「誰かと比べてどうか?」よりも、“本人が定義に届いているかどうか”という視点で評価を組み立てた方が制度としても文化としても無理がありません。

評価とは教育であり、制度は文化をつくる道具なので、まずは“自己との対話”を軸にした制度設計が自然な流れになるのではと思っています。

■ 相対評価を組み込むフェーズ(原則)

  • 資金調達フェーズ:シリーズB〜上場準備フェーズ以降

  • 社員数の目安:100名を超える規模感

  • 評価の目的:報酬配分・評価のメリハリ・全社整合性

  • PL上の特徴:利益計画の達成が強く求められる/人件費の配分が経営課題になる

このフェーズでは、等級が整っていても“評価分布が偏る”こと自体が制度上の負荷になる場面もあります。

評価結果が給与に直結する以上、「財務との接続」「配分のバランス」「横断的な評価水準の整合性」を保つ意味でも、相対評価的な設計が有効になってくるのではと思っています。

■ ただし、絶対評価で“押し切れる組織”もある

一方で、これは少し補足としてお伝えしたいのですが、社員数が100名を超えていたとしても、絶対評価で設計を続けられるケースも存在すると思っています。
そのためには、次の2つの条件が揃っていることが前提になります。

  1. 極めて安定的な利益が出ている、あるいは資金調達規模が極めて大きい
    → 評価に応じた昇給インパクトを、PLに対してある程度“気にしなくてもよい”余裕がある状態。

  2. 等級定義の解像度が高く、評価者の運用レベルが成熟している
    → 評価のブレが少なく、全社で「定義に対する共通解釈」が揃っている組織。

このような状態であれば、絶対評価を通じて“成長と行動変容に報いる制度”を継続しやすくなりますし、むしろ制度を使って組織文化を強化していくフェーズにもなっているのかもしれません。

制度とは、経営の言語であり、組織の哲学でもあると思っています。
だからこそ、「うちの組織は何を育てたいのか?」「何に報いたいのか?」という問いに立ち戻りながら、評価という制度設計を通じて、どんな組織の未来をデザインするのか?
ここが何よりも大事な視点になるのではないかと、僕は感じています。

最後に

皆さんいかがでしたでしょうか。
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