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朝の支度が進まない子には、「次の一歩」が見えにくいことがあります

言葉を増やすより、手がかりの形を変えてみる

「くつを履いてほしいだけなのに」
そう思って、何度も声をかけることがあります。

「くつ履いて」
「もう時間だよ」
「早くして」

でも、子どもは次の行動に移らない。

返事はしている。
聞こえていないわけでもなさそう。
それなのに、行動につながらない。

そんな場面が続くと、
大人の声は少しずつ強くなっていきます。
怒りたいわけではない。
大きな声を出したいわけでもない。

でも、時間は迫っている。

何度も同じことを言っている。
こちらの余裕も少なくなっていく。

その結果、
気づいたら声が強くなっていることがあります。

でも、ここで見たいのは、
「もっと強く言えば伝わるか」ではありません。

言葉だけでは、
手がかりの形が合っていないのかもしれない。

そう見てみると、
次に変える場所が少し変わります。

大きな声は、「もっと強く言えば伝わる」合図ではない

大きな声になりそうなとき、
大人の中では「伝えなきゃ」が強くなっています。

でも、子ども側では、
言葉が増えるほど、かえって分かりにくくなることがあります。

何をすればいいのか。
どこへ行けばいいのか。
どこまでやれば終わりなのか。

そこが見えないまま、
言葉だけが重なっていく。

すると、大人には、
「聞いているのに動かない」
「分かっているのにやらない」
ように見えることがあります。

でも、本人の中では、
次の行動に結びつく手がかりがまだ見えていないのかもしれません。

大きな声は、
「もっと強く言えば伝わる」という合図ではありません。

今の伝え方では届きにくい。
今の手がかりでは動き出しにくい。
そういうサインとして見てみることもできます。

まず、注意がこちらに向いているかを見る

声を重ねる前に、
まず見たいことがあります。

子どもの注意が、
こちらに向いているかどうかです。

別の物を見ている。
手元の遊びに気持ちが残っている。
テレビや音が気になっている。
次に何をする時間なのか、まだ切り替わっていない。

その状態で言葉を重ねても、
声だけが通り過ぎてしまうことがあります。

そんなときは、
まず注意の入口を作ります。

名前を呼ぶ。
近くに行く。
視界に入る。
手元の物を少し減らす。
次に見るものを一つだけ示す。

これは、子どもを急がせるためではありません。

言葉が届きやすい場所に、
まず一緒に立つための手がかりです。

声を大きくするより、言葉を小さくする

注意が向いても、
長い言葉だと行動につながりにくいことがあります。

「早くして、もう時間ないよ、何回言ったら分かるの」
大人の気持ちは自然です。
でも、その言葉の中には、子どもが処理する情報がたくさん入っています。

急ぐこと。
時間がないこと。
何度も言われていること。
大人が困っていること。
そして、結局何をすればいいのか。
その全部を受け取るのは、
子どもによっては重いことがあります。

だから、声を大きくする前に、
言葉を小さくしてみます。

「早くして」ではなく、
「くつ」

「ちゃんと準備して」ではなく、
「玄関」

「もう何回言ったの」ではなく、
「あと1つ」

言葉を減らすことは、
伝えることをあきらめることではありません。

次に何をすればいいかが、
見えやすくなる形に変えることです。

言葉で届きにくいときは、見える形にする

短い言葉でも難しいときは、
手がかりの形を変えます。

指をさす。
絵を見せる。
文字で一語だけ見せる。
実物を見せる。
予定カードを出す。

たとえば、
「くつ」と言うだけでなく、靴を指さす。

「玄関」と言うだけでなく、玄関の方を一緒に見る。

「あと1つ」と言いながら、指を1本立てる。

「着替え」と言う代わりに、服を見える場所に置く。

言葉だけで届きにくいとき、
見る形になると、次がつかみやすくなることがあります。

これは、特別な道具がないとできないことではありません。

指。
紙。
実物。
短い文字。
いつもの場所。
身近なものでも、
手がかりになることがあります。

見本を見せる、最初の一歩だけ一緒にする

それでも始まりにくいときは、
大人が一度やって見せる方法もあります。

靴を持つ。
玄関に立つ。
かばんを開ける。
歯ブラシを手に取る。

言葉で説明するより、
「こう始めるんだよ」と見える方が分かりやすいことがあります。

また、全部を手伝うのではなく、
最初の一歩だけ一緒にすることもできます。

隣に行く。
最初の物を一緒に持つ。
始まりの場所まで一緒に行く。

大切なのは、
子どもを大人のペースで動かすことではありません。

始まりが重くなっているときに、
その重さを少し軽くすることです。

全部を代わりにやる必要はありません。

「始めるところ」だけが軽くなると、
そのあとが少し続きやすくなることがあります。

身体に触れる支援は、慎重に考える

身体に触れて手伝うことが必要な場面もあります。

ただし、それは、
嫌がっている子を無理に動かすこととは違います。

怖がる。
力が入る。
抵抗が強い。
大人も余裕がなくなっている。

そういうときに、
無理に手を引いたり、体を動かそうとすると、
親子どちらにも負荷が大きくなることがあります。

家庭だけで進めようとしなくて大丈夫です。
園や学校、支援者と一緒に、
安心しやすい関わり方を考えた方がよい場面もあります。

手がかりは、
強くするものではなく、届きやすくするものです。

本人が怖がっているときほど、
いったん安全を優先していい場面です。

次に変えるのは、一つでいい

ここまで読むと、
「全部やらなきゃ」と感じる人がいるかもしれません。

でも、全部を変える必要はありません。
次に変えるのは、一つで十分です。

今日は、
「早くして」を「くつ」にするだけでもいい。

今日は、
玄関を指さすだけでもいい。

今日は、
予定カードを一枚だけ置くだけでもいい。

今日は、
最初の一歩だけ一緒にするだけでもいい。

大切なのは、
完璧な支援をすることではありません。

声を大きくする前に、
手がかりの形を一つ変えてみる。

それだけでも、
親子のあいだに、少し違う流れが生まれることがあります。

怒らないように頑張るより、届く形を変えてみる


何度言っても次の行動につながらないとき、
大人はどうしても自分を責めやすくなります。

「言い方が悪いのかな」
「もっと穏やかに言わなきゃ」
「また声が大きくなりそう」

でも、必要なのは、
いつも穏やかな大人になることだけではないのだと思います。

言葉だけでは届きにくいときに、
伝わる形を変えてみる。
注意が向いているかを見る。
言葉を短くする。
指さしや絵、文字、実物に変える。
見本を見せる。
最初の一歩だけ一緒にする。
そうやって、
声の強さではなく、手がかりの形を変える。

それは、
怒らないように頑張るためではありません。

次の一言を、
少しやわらかくするための見方です。

少し先の安心につなげるなら


今回の記事は、
声が大きくなりそうな手前で、
手がかりの形を変えるためのものです。

それでも、強く言ってしまったあとに、
自分を責める気持ちが残る日もあります。

そのときは、
前の記事も置いておきます。
水を一口飲むこと。
心の水面を見ること。
強い声のあとに、自分を責めすぎないこと。
必要なときに、
戻ってこられる場所として使ってください。
今の気持ちに合うところから、
少し先の安心につながっていけたらうれしいです。



この記事の考え方

ここで書いた「言葉だけで重ねず、手がかりの形を変える」という見方は、特別支援教育や応用行動分析で使われている考え方を、生活場面の言葉に置き換えたものです。
声を強くするよりも、本人が次に動き出しやすい形に合わせて変えていく。
今回紹介した5つは、そのための小さな手がかりです。