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空から落ちてきた少女が俺に世界の敵と言った 第6話「選ぶ前にある」

第6話

通りの音は普通だった。

車が通る。
人が歩く。
信号が変わる。

誰も迷っていない。

カイはその中にいる。

ただ——

自分の足音だけが、少し遅れる。

一歩。

踏み出してから、踏み出した感覚が来る。

揃わない。

前ではなく、少し先にルナがいる。

その位置に気づくまで、一拍かかる。

「次、どこだ」

声が出る。

意味はあとから追いつく。

ルナは前を見たまま言う。

「……ズレてる」

短い。

それだけ。

カイは足を止めようとする。

止まる、と意識する。

——次の一歩が出る。

遅れる。

意思より先に、動きが続く。

もう一度。

止める。

そう決める。

だが。

止まったあとで、止まった感覚が来る。

カイは息を吐く。

「……違う」

小さく。

何が違うのかは、言葉にならない。

ルナは少しだけ間を置く。

「薄い」

それだけ。

カイは顔を上げる。

意味は分かる。

だが、掴めない。

歩く。

分かれ道。

右に行けば駅。
左に行けば川沿い。

はっきりしている。

カイは前を見る。

「左だな」

言葉にする。

決めたはずだった。

一歩、踏み出す。

——そのあとで気づく。

右を歩いている。

足が止まる。

違う。

止めたあとで、止まった感覚が来る。

視線を落とす。

自分の足は、最初から右に向いている。

左へ出した感覚はある。

だが——

その結果がない。

カイは振り返る。

左の道。

そこに立っているはずの自分が、繋がらない。

「……今の」

言葉が途切れる。

説明できない。

歩く。

人の流れに混ざる。

誰も迷っていない。

誰も止まらない。

自分だけが、遅れている。

ルナは少し前を歩く。

距離は変わらない。

詰まらない。

離れない。

ただ、揃っている。

「なあ」

声をかける。

一拍遅れて届く。

ルナは振り返らない。

「なに」

カイは言葉を探す。

だが。

探す前がない。

形にならない。

ルナが小さく言う。

「順番が逆」

カイは顔を上げる。

「何がだ」

ルナは少しだけ考える。

「決める前に、決まってる」

短い。

それだけ。

カイは息を吐く。

否定できない。

歩く。

交差点。

信号は青。

人が渡る。

カイも渡る。

渡ったあとで、渡った感覚が来る。

ズレる。

揃わない。

足を止める。

今度は、止まる。

遅れずに。

一瞬だけ。

カイは目を閉じる。

選ぶ。

意識する。

「……次は」

言いかける。

その瞬間。

——もう、進んでいる。

言葉が抜ける。

自分の意思が、間に合っていない。

結果だけが先にある。

「……追いつかねえ」

小さく。

置いていかれている感覚だけが残る。

ルナは前を歩く。

変わらない距離。

変わらない歩幅。

カイは一歩遅れて続く。

遅れたまま。

揃わないまま。

それでも進む。

今、分かっていることは一つだけだ。

——選ぶ前に、結果だけがある。

そして。

その結果が、自分のものかどうかだけが分からない。


選ぶ前に、結果だけがある。
その結果が、自分のものかどうかだけが分からない。

次の話はこちらです


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