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空から落ちてきた少女が俺に世界の敵と言った 第7話「先にあったもの」

第7話

通りを抜ける。

昼の熱気が残っている。

車の音。

信号の電子音。

遠くの話し声。

街は普通だった。

何も変わらない。

カイは歩く。

その途中で。

不意に、胸の奥が重くなった。

視界が揺れる。

——横断歩道。

赤信号。

立ち止まる人影。

それが見えた。

一瞬だけ。

カイは眉をしかめる。

今のは何だ。

考えるより先に。

角を曲がる。

その瞬間。

目の前に、同じ横断歩道があった。

赤信号。

待っている人。

さっき見えた光景。

ほとんど同じだった。

カイは足を止める。

「……なんだ、今の」

喉が乾く。

違う。

思い出したんじゃない。

今、初めて来た。

なのに。

“先にあった”。

その感覚だけが残る。

信号が青へ変わる。

人が動き出す。

カイは渡らない。

足が止まる。

まだ、自分で決めていない。

だが。

渡ったあとの感覚だけが残っている。

向こう側の歩道。

通り過ぎた空気。

歩き終えた身体の軽さ。

それだけが、先にある。

カイは息を呑んだ。

順番がおかしい。

まだ動いていない。

なのに。

結果だけが、自分の中へ入ってきている。

「……なんだよ」

低く漏れる。

数秒遅れて。

信号が点滅を始めた。

周囲の人が歩いていく。

カイだけが動けない。

頭では分かっている。

ただの横断歩道だ。

いつもの街だ。

それなのに。

“渡ったあと”の感覚の方が、今より現実に近い。

カイはゆっくり歩き出す。

靴底の感触。

アスファルトの熱。

風。

全部、現実だった。

だが。

現実になる前の結果だけが、先に存在している。

渡り終えた瞬間。

また、視界が揺れた。

——コンビニの入口。

淡い照明。

開く自動ドア。

その前。

“入ったあと”の感覚だけが浮かぶ。

まだ近づいていない。

まだ触れていない。

なのに。

冷えた空気の感覚だけが、先に残っている。

カイは立ち止まった。

行くと決めていない。

だが。

“行ったあと”だけが、妙に現実だった。

背後から声がする。

「残ってる」

ルナだった。

カイは振り返る。

いつからいたのか分からない。

ルナは入口の向こうを見ている。

「……何が」

「揃ってない」

短い声。

カイは顔をしかめる。

意味は分からない。

だが。

今までとは違う。

気づけば終わっていたわけじゃない。

選ぶ前に決まっていたわけでもない。

今は。

“結果の方”から、こっちへ近づいてくる。

カイは前を見る。

コンビニの灯り。

入口。

その場所だけが、妙に強く感じられる。

まだ行っていない。

なのに。

“そこにいたあと”だけが残っている。

カイの背筋が冷えた。

先にある。

結果だけが。

まだ選んでいないのに。

もう、そこにあった。


まだ選んでいないのに。 もう、そこにあった。

次の話はこちらです


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