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空から落ちてきた少女が俺に世界の敵と言った 第8話「置けない場所」

第8話

夜のコンビニ。

淡い照明が、白でも黄色でもない曖昧な色で床を照らしている。

ガラス越しに、街灯がにじんで見えた。

車の音が一度だけ通り過ぎて、すぐに静かになる。

カイは店の前にいた。

その瞬間、違和感が落ちる。

レジの前にいる感覚。
飲み物棚の前にいる感覚。
雑誌コーナーへ視線を向けている感覚。

同じ身体のはずなのに、位置だけが分かれている。

「……なんだ、これ」

声を出したつもりなのに、少し遅れて届いた気がした。

レジ前。
棚の前。
どこでもない“どこか”。

それらが同時に成立している。

動いた記憶がないのに、動いた結果だけが残っているような感覚。

身体の意味だけが、後から追いついてくる。

カイは動けなかった。

入ったのかどうかすら、はっきりしない。

ただ、気づけばその場にいる。

レジの電子音が鳴る。
電子レンジの光を見つめる客。
雑誌がめくられる音。

どれも普通の夜のはずだった。

なのに、この場所だけがひとつにまとまらない。

視線を動かした瞬間。

“まだ入っていない感覚”と
“すでに出たあと”の感覚が重なる。

順番じゃない。時間でもない。

位置だけが、ずれている。

「……ずれてる」

横から声がした。

ルナだった。

カイは振り向く。

ルナは店内ではなく、何もない空間を見ている。

「何がだ」

少しの間のあと、ルナは言った。

「位置」

それだけだった。

説明ではない。確信でもない。

ただ、そこに“ズレがある”という認識だけ。

カイはもう一度、店内を見る。

入口。レジ前。棚の前。

そのどれにも確定できない感覚だけが残っている。

客は普通に動いている。

誰も異常に気づいていない。

カイだけが、どこにも固定されていない。

ルナが小さく息を吐いた。

「……まだ、合ってない気がする」

その言葉で、カイは気づく。

合っていないというより、

最初から“合う前の位置のまま置かれている”。

視線の先、ガラスの外。

夜の道路。街灯。帰り道。

そこへ続くはずの流れだけが途中で止まっている。

ただ立ち寄っただけの場所。
ただ買い物をするだけの時間。

それらがどこにも置かれないまま残っている。

カイは気づく。
ただ、最初からそこに置かれていなかった

その瞬間。

自動ドアが静かに開いた。

夜の空気が一瞬だけ入り込む。

誰かが入ってくる。

コンビニの光も音も、何も変わらない。

ただ一つだけ。

カイの立っている位置だけが、まだどこにも置かれていなかった。


ただ一つだけ。 カイの立っている位置だけが、まだどこにも置かれていなかった。

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