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空から落ちてきた少女が俺に世界の敵と言った 第4話「間にないもの」

第4話

風が、触れていない。

――違う。

触れていたはずの感覚が、抜けている。

気づいたとき、カイは歩いていた。

見慣れた帰り道。

景色は、いつもと変わらない。

だが。 一歩前。

その“前”がない。

さっきまで、誰かがいた。

そんな気がする。

誰もいない。何を話していたのか。

そこだけが、白く抜け落ちている。

カイは足を止める。

止まった感覚が、わずかに遅れてくる。

振り返る。

道は続いている。
変わったところはない。

ただ。

ここに来るまでの“つながり”だけがない。

「どこだ」

声に出す。

探す。

だが。

探す前の思考が、つながらない。

目を閉じる。

思い出そうとする。

「……」

その前が、ない。

思考が滑る。

カイは目を開ける。

前に、少女が立っている。

いつからいた。

その問いが浮かぶ前に、消える。

最初からいたようにも見える。

だが。

今、認識した。

そのズレだけが残る。

「お前」

呼びかける。

言葉が続かない。

何を言うつもりだったのか、途中で切れる。

少女は首を傾ける。

「抜けてる」

短い。

それだけ。

カイは一歩動く。

その瞬間。

——横にいる。

距離を取る。

足をずらす。

次の瞬間には、同じ位置に戻っている。

追われた感覚はない。

位置が“揃っている”。

それだけだ。

「来るな」

はっきり言う。

少女は何も変えない。

歩幅も、距離も。

ただ並ぶ。

カイは止まろうとする。

思う。

——止まる。

一拍遅れて、足が止まる。

動きと意識が、ずれている。

カイは息を整える。

動く前がない。

止まる前もない。

結果だけが残る。

「帰る」

口に出す。

自分で決めた感覚は、薄い。

歩く。

一歩。

次の瞬間。

建物の前に立っている。

視界が追いつく。

看板。

『REPAIR SHOP ADAN』

知っている場所だ。

だが。

ここに来た“流れ”がない。

カイは鍵を取り出す。

手は迷わない。

扉を開ける。

中に入る。

振り返る。

少女がいる。

入れた記憶はない。

だが、いる。

「勝手だな」

それだけ言う。

中はいつも通りだ。

棚。机。工具。

配置は同じ。

だが。

“同じだと判断するまで”に、わずかな遅れがある。

カイは冷蔵庫を開ける。

パンを取る。

——もう手にある。

手の中の感触だけが現実だ。

掴んだ記憶はない。

少女を見る。

一瞬、考える。

「……」

考えた過程が抜ける。

「食うか」

言葉だけが出る。

少女は受け取る。

「ありがとう」

カイは椅子に向かう。

座る。

——すでに座っている。

引いた感覚がない。

腰を落とした記憶もない。

視線を落とす。

手はパンを持っている。

口に入れる。

サク。

音がする。

遅れて、もう一度。

噛んだあとに、噛んだ感覚が来る。

味がある。

次の瞬間。

意味が薄れる。

味として成立しない。

カイは顔を上げる。

少女を見る。

「どこからだ」

問いが出る。

そこに至る思考はない。

少女は少しだけ目を伏せる。

「途中」

それだけ。

カイは机を見る。

写真立て。

そこにある。

手を伸ばす。

触れる前に——

持っている。

「……」

掴んだ記憶がない。

写真を見る。

自分がいる。

隣に、誰か。

顔が定まらない。

見ようとするたび、形が変わる。

「誰だ」

声は低い。

だが。

“関係”だけが先にある。

少女が立ち上がる。

「それ」

一歩近づく。

「触らないで」

強く言う。

カイは写真を見る。

すでに持っている。

その事実だけがある。

「もう遅いだろ」

短く返す。

少女は一瞬だけ言葉を止める。

「それ以上は、崩れる」

カイは手を離す。

机に戻す。

その“途中”は、やはりない。

次の瞬間。

時計が鳴る。

カチ。

遅れて、もう一度。

音が揃わない。

カイは息を吐く。

言葉を探す。

だが。

「……」

途中がない。

言葉にできない。

それでも。

「繋がらないな」

完全な理解ではない。

ただの確認だ。

少女は小さく頷く。

「まだ、そこ」

カイは首を振る。

「そこじゃない」

短く否定する。

外で風が動く。

音が遅れて入ってくる。

この場所だけが、揃っていない。

カイは手を見る。

動かそうとする。

——すでに動いている。

視線を落とす。

結論には届かない。

ただ。

一つだけ残る。

——途中には、入れない。



謎の少女と再会した

次の話はこちらです


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