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空から落ちてきた少女が俺に世界の敵と言った 第3話「知らないはずの距離」

第3話

夕焼けの中。

逆光の向こうに、その女は立っていた。

風だけが二人の間を通り過ぎる。

女はカイを見る。

そして、小さく息を吐いた。

「……また来たわ」

独り言のような、小さな声だった。

「……誰だ」

カイの声は静かな夕暮れに溶ける。

女は答えない。

その視線は、ゆっくりとカイの胸元へ落ちた。

ペンダント。

それを見た瞬間。

女の表情が、ほんの少しだけ緩む。

「……まだ、ある」

安堵したような声。

その一言だけだった。

「お前、俺を知ってるのか」

女は静かに頷く。

「ええ」

「俺は、お前を知らない」

女は少しだけ微笑んだ。

その笑顔は、どこか切なかった。

「……それでいいの」

カイは眉をひそめる。

「何なんだよ、それ」

女は答えない。

ただ、まっすぐカイを見つめる。

その瞳には、強い意志と、消えない悲しみが宿っていた。

「説明しても、きっと信じない」

「試してみろ」

即座に返す。

女は小さく首を振る。

「今ここで話したら、あなたを壊してしまう」

「壊す?」

「……だから、まだ話せない」

風が吹く。

髪が揺れる。

女は空を見上げ、小さく呟いた。

「何度も……」

女は唇を噛み、静かに目を閉じた。

「何度も?」

カイが問い返す。

女はゆっくりと首を横に振った。

「……ごめんなさい」

その謝罪が何を意味するのか、カイには分からない。

だが、その声だけは胸の奥に残った。

女は再びカイへ視線を向ける。

「始まってる」

「……何が」

「もう、始まってしまった」

景色。

記憶。

ペンダント。

そして、あのデバイス。

すべてがおかしい。

だが、その理由だけが分からない。

女は一歩だけ近づく。

手を伸ばせば届く距離。

それでも、不思議なくらい遠く感じた。

「お願い」

その声は震えていた。

「今は、自分を信じて」

次の瞬間。

風が止む。

音が遠ざかる。

夕焼けが、わずかに滲む。

世界が一瞬だけ揺らいだ。

カイは思わず目を閉じる。

ほんの一瞬。

目を開ける。

女は、まだそこに立っている。

けれど。

さっきまでとは、何かが違う。

説明はできない。

ただ一つだけ。

胸の奥で、確かな予感が生まれていた。

――何かが、静かに動き始めている。


「……ごめんなさい」、「今は、自分を信じて」

次の話はこちらです


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