見出し画像

空から落ちてきた少女が俺に世界の敵と言った 第1話「落下」


あらすじ

空から少女が落ちてきた日、修理屋の男カイの日常は音もなく崩れ始めた。
少女ルナは告げる。「あなたは世界の敵になる」と。理由も語らぬまま、彼女はカイを止めようとする――その瞬間、世界はわずかにズレた。

記憶は欠け、現実は噛み合わなくなる。
存在しないはずの過去が、形を持って浮かび上がる。

そこに現れるのは、知らないはずなのに懐かしい女性――。

止める想いと、守ろうとする衝動。
相反するものに引き裂かれながら、カイはやがて選択を迫られる。

その選択は、世界を壊すのか。
それとも――

第1話

夕焼けだった。

ビルの屋上で、修理屋の男――カイ・アダンは空を見上げている。

オレンジから紫へと滲む空。
雲はゆっくり流れている。
風も、確かにある。

――なのに。

音だけが、抜け落ちていた。

「……静かすぎるな」

小さく呟く。

胸の奥に、言葉にできない違和感が残る。

カイは無意識に首元へ触れる。

指先に当たるのは、小さなペンダント。

古びているはずなのに、表面は滑らかだ。
傷らしい傷もない。

形も曖昧で、見るたびにわずかに違って見える。

気のせいだと思う。
そう思うしかない。

だが――

なぜか、手放す気にはなれなかった。

そのときだった。

視界の端に、小さな点が映る。

「……なんだ、あれ?」

空の高い位置から、何かが落ちてくる。

鳥かと思った。

だが違う。

羽ばたかない。
風にも流されない。

まっすぐ、落ちてくる。

次第に輪郭が見えてくる。

手足。
頭。
体。

「……人?」

ありえない。

そう思った。

だがその影は、暴れもしない。
叫びもしない。

ただ――

静かに、落ちてくる。

夕焼けの中を。

まるで、最初からそこに“あるべきもの”みたいに。

それはビルの向こうへ消えた。

カイは数秒、動けなかった。

「……見間違い、か」

呟く。

だがすぐに、首を振る。

「……いや、どう見ても人だったろ」

工具をまとめる。

屋上のドアを開け、階段を降りる。

ビルの裏手は工事中だった。

フェンス越しに中を覗く。

重機。
砂。
鉄骨。

そして――

中央に、倒れている人影。

「……マジか」

作業用の扉を押し開け、中へ入る。

足音がやけに響く。

近づく。

少女だった。

白い髪。
砂まみれの服。

だが――

落ちてきたはずなのに、傷がない。

まるで最初からそこに“置かれていた”みたいに。

カイはしゃがみ込む。

「おい」

返事はない。

指を鼻先へ。

かすかな呼吸。

「……生きてる」

その瞬間。

少女の目が開いた。

金色の瞳。

瞬きがない。

まっすぐに、カイを見ている。

観察するように。

「あなたがカイ?」

「……え?」

少女はゆっくりと起き上がる。

無駄のない動き。

整いすぎている。

「やっと見つけた」

カイは眉をひそめる。

「なんで俺の名前知ってる」

少女の視線が動く。

カイの首元。

ペンダントへ。

その瞬間、瞳がわずかに揺れた。

「……やっぱり」

手が伸びる。

ペンダントを掴まれる。

触れた瞬間――

胸の奥で何かが反応した。

熱。

ほんの一瞬。

だが、それだけじゃない。

感覚が、わずかにズレる。

形なのか、存在なのか分からない。

それでも。

“これは自分のものだ”という感覚だけは、はっきりしていた。

「おい!」

カイは少女の手を掴む。

「返せよ、それ!」

少女は静かに言う。

「それは、あなたが持っているべきものじゃない」

「いや、俺のなんだけど」

少女は首を横に振る。

視線は外さない。

そして――

「あなたはこれから、世界の敵になる」

風が吹く。

夕焼けの砂が、ゆっくり舞い上がる。

カイは数秒、黙ったままだった。

やがて息を吐く。

「……君、頭大丈夫か?」

少女は一瞬だけ、表情を曇らせる。

だがすぐに消える。

「時間がない」

静かに言う。

「ここで止める」

その言葉に、迷いはなかった。

カイは一歩下がる。

「止めるって――」

少女の目が変わる。

覚悟の色。

ほんのわずかな揺れ。

そして。

「……ごめんなさい」

次の瞬間。

視界が白く塗りつぶされた。

音が消える。

風も、空気も、すべてが遠のく。

体の感覚が抜けていく。

まるで――

この場所から切り離されるように。

その一瞬。

何かが“書き換わる”感覚があった。

カイの意識が揺れる。

理由は分からない。

だが。

ひとつだけ、残る。

――世界の敵になる。

その言葉だけが、頭の奥に残る。

理由も。
意味も分からないまま。

ただ――

消えなかった。


空から落ちてきた少女により、俺の世界が全て変わった

次の話はこちらです


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集