#7 エロジジイと下ネタで鍛えられた女の話
笑ってばかりの下ネタおじさん。
ただの“エロジジイ”だと思っていたら、裏の顔は地元で名の知れた弁護士。
肩書きを隠してでも「人として」見てほしい男の矛盾と努力に、私は思わず胸がざわついた。
◆陽気なおじじと、学生デート
2020年11月15日。
おじじとの待ち合わせ場所は、洒落たステーキ屋さんだった。
インスタ映えを狙ったレストランは、大概が見た目重視で、味はイマイチなことが多い。
けれど、ここの燻製肉は格別に美味しかった。
――この人、相当な食通だな。
そう思って、ちょっと見直したのを覚えている。
おじじはいつも陽気で、物腰が柔らかくて、何を言っても笑顔で受け止めてくれるような人だった。
私は「打てば響く」タイプの反応のいい人が好きなので、おじじとはすぐに仲良くなった。
しかも自宅が意外と近所で、自転車で待ち合わせ場所に来ては、一緒に帰る――
そんな、まるで学生のようなデートも楽しんでいた。
◆「まじめな話は禁止!」とキレる人
当時の私はまだ真面目で、ちょっと堅い部分があった。だから初対面では、お互いの仕事の話から入るのが定番だった。
けれどもおじじは、頑なに仕事の話を避け、やたらと恋愛方面へ話を持っていこうとする。
正直、それがちょっと嫌だった。
「ただのエロジジイじゃん」と、内心で軽蔑していた。
(当時の私は、下ネタを話すのも聞くのも、ものすごく苦手だったのだ。)
私が少しでも真面目な話をしようとすると、おじじはすぐにこう言う。
「俺は真面目な話をするために、ゆいちゃんと会ってるんじゃない!」
……って、なぜにキレる?
オンとオフを切り替えたい人なのかな、と想像しつつ、私は「変なオヤジだな」と思っていた。
とはいえ、今では私もすっかり鍛えられてしまって、
「あーはいはい、そっち系の話ですね」
と、どんな話題にも対応できるようになってしまった。
おじじよ、ありがとう(?)
◆その正体は…意外すぎる“まじめ職”
おじじは、頭の回転が早くて、意外と頑固な一面もあった。
そして話せば話すほど、保守的で、倫理観の強い“普通のおじさん”だということがわかってきた。
私はどうしても、おじじの職業が気になっていた。
何度か食事を重ねたあと、ついに切り出した。
「おじじ、これだけ仲良くなったんだから、そろそろ正体教えてよ!」
そう言うと、おじじは「……わかったよ」と、観念したように名刺を差し出してきた。
なんと彼は、地元でまあまあ有名な弁護士事務所を経営している、弁護士さんだったのだ。
HPを見てみると、見たことがないくらい真面目な顔で写真に写っていて、
そこには、輝かしいほどの経歴がずらり――超エリートじゃん!と、思わず声が出た。
「えっ、おじじって、弁護士さんだったの?」
私がそう言うと、彼はちょっと気まずそうな顔でうなずいた。
「うん、そうだよ……ちょっと引いたでしょ?」
「全然!ていうか、なんで引くと思ったの?」
「だいたいさ、僕が弁護士だって伝えると、みんな急に恐縮するんだよ。それが嫌なんだよ。」
そう言ったおじじは、少し寂しそうな表情をしていた。
◆「肩書じゃなく、素の自分でつながりたい」
私はその気持ちが、痛いほどわかってしまった。
彼とはタイプは違えど、私もこの外見や雰囲気のせいで、同じような孤独を味わってきたから。
この人は――
肩書きを取って、一人の人間として付き合ってもらいたいんだ。
同じ目線で、気さくに話せる真の仲間が欲しいんだ。
そう、思った。
実際、似たような話は他でも聞いたことがある。
たとえば、大手企業の社長さんが、「プライベートではただのサラリーマンってことにしてる」と言っていたり、
東大出身の友人たちが、「大学名は言わないことにしてる」と話していたり。
“すごいですね”と持ち上げられたり、妬まれたり、距離を置かれたり。
そういう扱いが、寂しくもあり、めんどくさいのだろう。
あとで知ったけれど、私との待ち合わせ前、おじじは1時間早く店に来て、緊張をほぐすためにお酒を飲んでいたらしい。
……なんだ、かわいいところあるじゃん、おじじよ。
◆努力の人?それとも、やっぱり……
ひょっとしたら、あの陽気なエロジジイキャラは、
私とつながるために演じていた“キャラ設定”だったのかもしれない。
だって、毎回私が好きそうなお店をリサーチして連れて行ってくれてたし、
あれは全部、まじめで繊細なおじじの涙ぐましい努力だったのかもしれない。
……軽蔑してごめんよ、おじじ。
◆ それでも“エロジジイ”疑惑は消えない
…でも、ちょっと待て。
私が真面目な話をしたときのキレ具合、あれはガチだったよな?
「今日は新しい下ネタないの?」って目をキラキラさせてたの、忘れてないぞ?
つまりあれは――
素で、えろジジイだったのか?
謎は深まるばかりだ。
📝共感フレーズ
肩書き隠しても、下ネタは隠せない。
◆ 最後に
下ネタ連打に慣れてしまった自分を笑いながら、ふと冷めた目で観察していた。
次回は、朝8時から始まる「ズレっぱなしの日帰り旅行」です。
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