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10月施行、カスハラ対策義務化で職場は変わるか。あと2カ月、中小企業が今すぐやるべきこと

▼この記事は、以下のような方におすすめです。※約4分で読めます

・「顧客からの理不尽なクレームや要求でスタッフが辞めてしまった」経験がある
・2026年10月から始まる「カスハラ対策義務化」で何から着手すべきか悩んでいる
・入社してもすぐに人が辞めてしまう課題を解決したい

先日、採用のご相談でうかがった飲食店の店主さんが、ぽつりとこうおっしゃいました。

「求人を出しても人が来ない。来ても半年で辞める。この間辞めた子なんて、レジの間違いで土下座を求められて、後で店長に相談したら『まあ、よくあることだから』で終わったのが最後の一押しだったみたいで」

接客業を選ぶ人は、当然「お客さんと接する仕事」だとわかった上で入ってきます。多少のクレームや理不尽さは、ある程度覚悟の範囲内でしょう。でも、覚悟していたのは「接客の大変さ」であって、「理不尽な要求をされても会社は本気で取り合ってくれない」ということまでは、誰も織り込んでいなかったはずです。この線引きを曖昧にしたまま「接客業とはそういうもの」で片付けてしまうと、辞めていく理由がいつまでも見えてきません。

正直、この話を聞いて胸が痛くなりました。私自身、長年この業界にいて、求人票の文言をあれこれ工夫し、写真を差し替え、条件を見直し……と「採用の入口」ばかりに知恵を絞ってきました。でも、いくら魅力的な求人を書いても、入った後の職場が「お客様は絶対」という空気のままなら、人はすぐに離れていく。当たり前のことなのに、恥ずかしながら最近になってようやくそのことに向き合う気持ちになりました。

そんな折、今年(2026年)の10月1日から、いよいよ「カスタマーハラスメント(カスハラ)」対策が法律上の義務になります。今日は、この制度の中身と、採用・定着の現場に長くいる立場から見た「じゃあ何をすればいいのか」を、できるだけ実務目線でまとめてみます。

カスハラ対策、ついに「義務」になります

これまで、パワハラやセクハラには企業の対応義務がありましたが、お客様からの迷惑行為である「カスハラ」については、法律上はいわば"努力目標"にとどまっていました。

それが、2025年に成立した改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)により状況が変わります。厚生労働省が今年2月に策定した指針では、企業が講じるべき措置として

  • 事業主の方針の明確化・周知

  • 相談体制の整備

  • 発生後の迅速かつ適切な対応

  • 再発防止のための抑止措置

という4本柱が示されました。そして2026年10月1日から、この措置義務が全事業主に課されます。従業員を1人でも雇っていれば対象で、パワハラ防止法のときのような中小企業への猶予期間は設けられていません。「うちは小さい店だから関係ない」は、もう通用しない制度になったということです。

背景には、東京都や北海道、群馬県、桑名市などが先行して施行してきたカスハラ防止条例の存在もあります。自治体条例と国の法律は役割分担のような形で併存しており、拠点のある地域の条例内容も併せて確認しておくのが安全です。

「6割がまだ手つかず」というニュースの重み

今年6月10日の日本経済新聞に、気になる記事が出ていました。都の調査に応じた4,727社のうち、カスハラ対策にまだ着手していない企業が6割を超えているというのです。理由として挙がっていたのは「正当なクレームとの線引きが難しい」「ノウハウが足りない」といった声。

これ、すごくよくわかります。悪質な要求と、お客様の正当な指摘とを、その場でとっさに見分けるのは簡単ではありません。だからこそ「線引きの判断を、現場の担当者一人に背負わせない」仕組みが必要なんだと思います。指針が定義するカスハラは、①顧客等の言動であること、②社会通念上相当な範囲を超えていること、③労働者の就業環境が害されること、の3要素を満たすもの。逆に言えば、この基準を会社としてあらかじめ共有しておけば、現場の「これって我慢すべき?」という迷いはかなり減らせるはずです。

厚労省の実態調査でも、過去3年にハラスメント相談があった企業のうち、カスハラに関する相談は約28%にのぼるといいます。パワハラ・セクハラに次ぐ規模で、決して一部業界だけの話ではありません。

採用の現場から見える、対策の「もう一つの意味」

私は日々、Indeedやエアワークの求人原稿を書いたり、採用のご相談に乗ったりする仕事をしています。その立場から見ると、カスハラ対策には法令順守以上の意味があると感じています。

求職者は、思っている以上に「職場の空気」を見ています。口コミサイトや面接での質問、あるいは知人からの噂で、「あの店はお客さんがきついらしい」という情報は驚くほど早く広まります。逆に「カスハラには会社が組織で対応してくれる」という安心感は、採用の場面でも、既存社員の定着の場面でも、静かに効いてくる要素です。求人票の一行の魅力よりも、こうした地道な環境整備のほうが、結局は長く働いてもらうための近道だったりします。

今日からできる、無理のない3つの一歩

とはいえ「指針の10項目を完璧に整備しよう」と身構えると、それだけで疲れてしまいます。小さな会社でもまず着手できることを、私なりに3つに絞ってみました。

1. 「会社としての方針」を一枚の紙にする 「暴言や過度な要求には、従業員個人ではなく会社として対応します」という一文を、就業規則や掲示物、あるいは店頭のポップに落とし込むだけでも第一歩になります。方針が明文化されているだけで、現場の心理的な負担はかなり軽くなります。

2. 「一人で抱えない」相談先を決めておく 専門の相談窓口を新設するのが難しい会社でも、「困ったらまず誰に報告するか」を決めておくだけで十分です。店長でも本部でも構いません。大切なのは、報告した人が責められない空気をつくることです。

3. 起きた後の「ねぎらい」を忘れない つらい対応をした従業員に対して、「大変だったね」と一言かけるだけで、その後の離職リスクはずいぶん変わります。事後対応というと制度的な話に聞こえますが、実はいちばん効くのはこうした人間的なフォローだったりします。

なお東京都では、中小企業向けに「カスタマー・ハラスメント防止対策推進奨励金」といった支援制度も用意されています。マニュアル整備や研修にコストをかけづらい会社ほど、こうした制度は積極的に調べてみる価値があると思います。

おわりに

正直なところ、私自身、若い頃は「お客様は神様」的な価値観の中で育ってきた世代です。以前、訪問販売の会社を経営されているお客様から、こんな言葉をいただいたことがあります。

「お客様は神様じゃない。王様だ。神様は寛容で嘘もつかない。でも王様は不寛容で嘘もつく。だから王様だと思って接した方が気が楽だぞ。」

なるほど、と思いました。「神様」だと思っているうちは、理不尽な要求にも「きっと自分に非があるはずだ」と我慢してしまいがちです。でも「王様」だと思えば、不寛容さも理不尽さも、ある程度は「そういうものだ」と割り切って距離を取れる。そのうえで、あまりに度を越した振る舞いには、会社として毅然と対応する——今回の法改正が求めているのも、突き詰めればこの感覚に近いのかもしれません。

採用の現場で「入っても続かない」現実を何度も見てきた身としては、この法改正は、遅すぎたくらいだとも思うのです。

求人票を磨くことと、職場を守ることは、本当は同じ一本の線でつながっています。10月の施行まで、あと2カ月。難しく考えず、まずは「方針を一枚の紙にする」ところから、始めてみませんか。

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