帰省の車・飛行機で、足が“凶器”になる。「エコノミークラス症候群」を、靴を脱ぐ・かかと上げで防ぐ理学療法士の実務#PR

夏の帰省シーズンが近づくと、私たちはにわかに「長時間、同じ姿勢でいること」を強いられます。渋滞にはまった車のシート、満席の新幹線、そして飛行機のエコノミー席。弊サイトではこれまで、旅の足元を守るための話を積み重ねてきました。旅先で2万歩を歩き切るためのフットケアでは歩き疲れとの付き合い方を、旅の5分レスキューキットでは靴擦れやむくみへの応急処置を扱ってきたわけです。
ただ、これらはいずれも「歩く」ことにまつわる話でした。今回はその手前、「動けずに座り続ける」時間に潜む、もっと剣呑な問題を取り上げます。長い移動のあと、立ち上がった瞬間に胸が苦しくなり、最悪の場合、命を落とすことすらある——いわゆる「エコノミークラス症候群」です。
正直に言えば、私はこれを長らく「飛行機で脚がむくむ話」くらいに軽く見ていました。ところが、以前ソールの片減りから歩き方を読み解く話を教えてくれた理学療法士の友人(その回は理学療法士に聞いた・ソールの片減りから読む歩行癖にまとめています)に尋ねてみると、彼の顔は珍しく真剣でした。「あれは、むくみの延長線上にある、って感覚で捉えないほうがいい。れっきとした、死ぬこともある病気だから」。以下は、そんな彼との会話を私なりに整理したものです。なお、これは医学的な診断ではなく、あくまで一般的な情報です。持病がある方や、症状が出ている方は、必ず医師に相談してください——というのは、彼が何度も念を押していた点でもあります。
そもそも「エコノミークラス症候群」とは何なのか

まず、名前の正体から教えてもらいました。「“エコノミークラス症候群”っていうのは、あくまで通称。医学的には、旅行者血栓症とか、深部静脈血栓症(DVT・脚の深いところの静脈にできる血の塊)と、それが引き起こす肺血栓塞栓症(PE・その血栓が肺の血管に詰まる状態)をまとめて指してるんだ」。
仕組みはこうです。長い時間、脚を動かさずに座っていると、ふくらはぎのあたりの血の流れがよどみます[文献1]。「本来、ふくらはぎの筋肉は歩くたびに伸び縮みして、脚の血を心臓へ押し戻すポンプの役目を果たしてる。“第二の心臓”なんて呼ばれるくらいでね。でも座りっぱなしだと、そのポンプが止まる。血がよどんで、脚の静脈に血栓ができやすくなるんだ」。
血栓ができること自体も問題ですが、彼が「本当に怖いのはここから」と声を落としたのは、その先でした。「脚にできた血栓が、なにかの拍子に血管の壁から剥がれて、血流に乗って肺まで飛んでいくことがある。肺の血管が詰まれば、息ができなくなる。これが肺塞栓で、突然死につながることもあるんだ」[文献2]。むくみの延長ではなく、命に関わる——彼が最初にそう釘を刺した理由が、ここでようやく腑に落ちました。
なぜ「立ち上がった瞬間」が危ないのか

私が意外に思ったのは、危ないのは座っている最中よりも、むしろ「立ち上がったとき」だという話でした。
「長い移動でずっと座ってた人が、目的地に着いて、さあ降りようと立ち上がる。トイレに立つ。その瞬間に、ふくらはぎの筋肉がぎゅっと動くよね」。彼は自分の脚を軽く叩きながら続けます。「そのポンプ作用で、たまっていた血が一気に流れ出す。そのとき、脚にできていた血栓も一緒に押し出されて、肺まで飛んでしまうことがあるんだ」[文献1]。
「だから、フライトのあとや長距離ドライブのあと、歩き出してしばらくして急に胸が苦しくなったり、息切れしたり、片方の脚だけ腫れて痛んだりしたら、それはただの疲れじゃないかもしれない」。もちろん、そうした症状の大半は別の原因によるものでしょう。ただ、「移動のあとに起きた」という文脈だけは、頭の隅に置いておいたほうがいい、というのが彼の言い分でした。この一点だけでも、知っておく価値はあると私は思います。
飛行機だけじゃない——「車中泊」という落とし穴

「エコノミークラス」という名前のせいで、飛行機の問題だと思い込みがちです。ところが彼は、「むしろ日本で怖いのは、飛行機より車のほうかもしれない」と言いました。
「長距離バスでも、渋滞にはまった車の中でも、条件は同じ。座席が狭くて、長時間、脚を動かせない。それどころか、いちばん深刻な例として知られてるのが、災害のときの車中泊なんだ」。
彼が挙げたのは、2016年の熊本地震でした。避難者のおよそ7割が、車の中で夜を明かす「車中泊」を経験したとされます[文献3]。「余震が怖い、プライバシーを守りたい、ペットがいる。理由はいろいろあって、車で寝ること自体を責める話じゃない。ただ、狭い運転席で膝を曲げたまま、何日も過ごすことになる。しかも被災地では水分も控えめになりがちだ。血がよどんで固まる条件が、これ以上ないほど揃ってしまう」。実際、熊本地震では、多くの車中泊避難者に深部静脈血栓症が確認され、命を落とした人もいたと報告されています[文献3]。
「帰省の渋滞と、災害の車中泊。深刻さの度合いはまるで違う。でも、“狭い場所で長時間、脚を動かさない”という一点では、地続きなんだよ」。夏の帰省を控えた私には、この言葉がやけに重く響きました。
誰が、とくに気をつけるべきなのか

同じ移動をしても、リスクの高さには個人差がある、とも彼は言います。血栓ができやすくなる要因として、一般に挙げられているのは次のようなものです[文献2][文献4]。
「まず、脱水。水分が足りないと血が濃くなって固まりやすくなる。夏場は汗で失う分も多いから、これは要注意だね。それから、狭い座席で膝が深く曲がった姿勢が長く続くこと。あとは体質的なところで、肥満、喫煙習慣、高齢であること、脚に下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう・脚の静脈がこぶ状に膨らむ状態)がある人、過去に血栓症になったことがある人などは、リスクが高めとされている」。
ここでも彼は但し書きを忘れませんでした。「ただ、若くて健康な人がなった例もある。だから“自分は大丈夫”と思い込むのが、いちばん危ない。当てはまる項目が多い人はとくに、当てはまらない人も念のため、対策はしておくに越したことはないよ」。
友人が教えてくれた、移動中の実務

では、具体的にどうすればいいのか。彼が挙げてくれた予防策は、拍子抜けするほど地味で、しかし理にかなったものでした。いずれも厚生労働省や関連学会が、災害時の注意喚起として繰り返し呼びかけている内容とも重なります[文献1]。
1つ目は、こまめに脚を動かすこと。「1〜2時間にいちど、席を立って歩くのが理想。飛行機なら通路を、サービスエリアに寄ったら少し歩く。それが難しければ、座ったままでいい。かかとの上げ下ろし——つま先を床につけたままかかとを上げる、次はかかとをつけてつま先を上げる。この“かかと上げ・つま先上げ”を繰り返すだけで、ふくらはぎのポンプが動く」。足首をぐるぐる回すのも良い、と彼は言い添えました。
2つ目は、水分をこまめにとること。「トイレが億劫で水を控える人がいるけど、それは逆効果。むしろ、その水を飲みに立つこと自体が運動になる。ただし、お酒は利尿作用で脱水を招くから、移動中の深酒は避けたほうがいい」[文献1]。
3つ目は、締めつけない服装。「ベルトをきつく締めたり、脚を圧迫する下着だったりすると、血の巡りを妨げる。ゆったりした格好が基本だね」。そのうえで彼が触れたのが、着圧の弾性ストッキングでした。「むくみやすい人、リスクが気になる人は、旅行者血栓症の予防をうたった弾性ストッキングを使うのも一つの手。軽めの着圧(一般に15〜20mmHg程度)のものが、はきやすくて勧められることが多い。実際、エコノミー席に近い姿勢で長時間座る実験でも、低い着圧のストッキングが血流の低下を抑えたという報告がある」[文献5]。「ただ、動脈の病気がある人などには向かない場合もあるから、心配なら薬局で相談してから選ぶといい」とも。
靴を脱ぐ、という小さな予防
そして彼が、意外な角度から付け加えたのが「靴」の話でした。
「長い移動のあいだ、きつい靴を履きっぱなしにしてると、それだけで足がむくんで血の巡りが悪くなる。だから機内やロングドライブでは、思いきって靴を脱いで、足首を回したり、かかとを上げ下げしたりできる状態にしておくといい」。要は、脚のポンプを動かしやすくしておく、というわけです。
ここで私が思い浮かべたのは、弊サイトが偏愛する PRO-Keds のローファー系でした。PRO-Keds ロイヤルローファー(Royal Loafer)は、紐がなく、するりと脱ぎ履きできる一足です。機内で脱いで足を休め、着いたらまた素早く履いて歩き出す——長い移動と、その先の観光を一日でこなす帰省の道中に、この手軽さは思いのほか効いてきます。キャンバス地の PRO-Keds ロイヤルアメリカ(Royal America)のような軽い一足も、足を締めつけず、素足に近い感覚で地面をとらえられる点で相性がいい。同じ「脱ぎ履きのしやすさ」でいえば、VANS クラシック スリッポン(Classic Slip-On)のような紐なしの定番も、長距離移動には理にかなった選択でしょう。革靴のきちんと感を残したいなら、PRO-Keds ロイヤルプラススムース(Royal Plus Smooth)のようなスムースレザーの一足でも、着いてから履き替えれば移動と目的地の両方に無理なく応えてくれます。
これは靴の売り込みではありません。ただ、「脱ぎやすい靴を選んでおくと、移動中に脚を動かす行為の“ハードル”が下がる」というのは、地味ながら本質を突いた予防だと、彼の話を聞いて腑に落ちたのです。履き心地の軽さは、そのまま「面倒くさがらずに脚を動かせるか」に直結します。
不安なときは、自己判断せず専門家へ
最後に、彼がこの取材でいちばん強く念を押したことを書いておきます。「もし移動のあとで、片脚だけの腫れや痛み、息苦しさ、胸の痛みが出たら、様子を見ようとせず、早めに医療機関を受診してほしい。エコノミークラス症候群は、対処が遅れると命に関わることがある病気だから」。
「それに、ここで話したのはあくまで一般的な予防の話。持病のある人、血栓症の既往がある人、妊娠中の人なんかは、事前に主治医に相談して、自分に合った対策を確認しておくのがいちばんだよ。ネットの一般論で自己判断するより、そのほうがずっと確実だから」。専門家である彼自身がそう言うのですから、この一言の重みは相当なものです。
結び——移動を「耐える」から「整える」へ
長い移動は、これまで私にとって、ただ「耐える」時間でした。目的地に着くまでの、しかたのない我慢の時間。けれど友人の話を聞いてからは、少し見方が変わりました。座り続ける時間は、放っておけば脚が“凶器”にもなりうる。だからこそ、こまめに立ち、かかとを上げ、水を飲み、脱ぎやすい靴で足をゆるめる。その小さな段取りの積み重ねが、自分の身体を守るのだと。
40代の男が、帰省の車のハンドルを握るとき。あるいは、飛行機のエコノミー席でシートベルトを締めるとき。若い頃のように、身体は無理をきかせてはくれません。だからこそ、移動を「ただ耐えるもの」から「整えるもの」へと捉え直す。足元をゆるめ、脚を動かし、水を飲む——その地味な習慣こそが、酸いも甘いも噛み分けた大人の、いちばん賢い旅支度なのだと思います。別れぎわ、友人が笑って言いました。「無事に帰ってくるまでが、旅行だからね」。ありふれた言葉ですが、脚の血栓の話を聞いたあとでは、これほど実感のこもった一言もありませんでした。
参考文献
- [文献1]厚生労働省「エコノミークラス症候群の予防のために」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000170807.html -
[文献2]日本呼吸器学会「エコノミークラス症候群(肺血栓塞栓症)に関するQ&A」 https://www.jrs.or.jp/citizen/disaster/pcli/ -
[文献3]京都光華女子大学 社会学部「【熊本地震の教訓】避難者の約7割が経験した『車中泊』:命を奪うエコノミークラス症候群にどう備えるか」 https://www.koka.ac.jp/sociology/news/bousailab/car-evacuation-economy-class-syndrome -
[文献4]大塚製薬「旅行者血栓症(エコノミークラス症候群)の原因と対策」 https://www.otsuka.co.jp/health-and-illness/thrombosis/cause/ -
[文献5]保健指導リソースガイド「長時間の座位が血栓症リスクを上昇 低い着圧ではきやすい『弾性ストッキング』により血流低下を防げる」(東京医科大学の研究) https://tokuteikenshin-hokensidou.jp/news/2022/010910.php
