コンバース オールスター、四半世紀ぶりの刷新。変わらぬ顔の下で、ソールとラストだけが静かに書き換えられた#PR
1. Kedsから続く歴史は、ついに「コンバース オールスター」へ

我々はこれまで、〝並び立つ名作〟たちの足元を辿ってきた。トゥの「スマイル」ひとつで大人の顔を手に入れたJack Purcell(ジャックパーセル)の歴史、異常気象という皮肉から生まれたVANSスニーカーの歴史、そして帆布そのものの成り立ちを追ったキャンバスの歴史。いずれもコンバースというブランドと肩を並べ、あるいはその隣で育ってきた系譜である。中でも我々は一度、スニーカー史最大の誤解。コンバース・オールスターは防寒用ゴム靴だという記事で、その誕生の実像に触れている。今回はその続き、というより「今」の話をしたい。
今回の主役は、コンバース オールスターそのものである。我々40代にとって、これは説明を要しない定番中の定番だ。ゴムの爪先、六つのアイレット(靴紐穴)、丸いパッチ。学生時代から今日まで、姿形は一度も変わっていないように見える。しかし2025年の秋、その「変わらない」という前提が静かに崩れた。見た目こそ従来通りだが、靴の内側——ラスト(木型、足の立体形状の原型)とソールの構造だけが、約四半世紀ぶりに書き換えられたのである。
2. 変わらない顔と、変わらなかった中身

オールスターの誕生そのものは、先の記事で詳しく扱った通りだ。ここで繰り返すことはしないが、一点だけ押さえておきたい事実がある。日本で流通するオールスターは、実は米国のコンバース社(Nike傘下のConverse Inc.)とは資本関係を持たない、伊藤忠商事グループのコンバースジャパンによるライセンス展開である(※米国本体と日本企画は別会社。商標こそ同じだが、開発・生産の主体は異なる)。今回の刷新も、この日本企画のラインで行われたものだ。
そして肝心の中身だが、コンバースジャパン側の説明によれば、現行の木型は1990年代に設計されたものが長らく使われ続けていたという。つまり「四半世紀ぶり」とは、デザインが変わらなかった百有余年の歴史の中でも、機能面での大規模な見直しとしては実に約25年ぶりという意味である。コロナ禍を経て、消費者の関心が「デザイン性一辺倒」から「長く履けること」「履き心地の良さ」へと移った——コンバースジャパンはその変化を開発の背景として挙げている。永久定番と呼ばれる靴が、時代の求める機能性に、ようやく手を伸ばした瞬間だった。
3. ラストとソール、そして片足60gの科学

2025年10月2日、新型オールスターが順次発売された。外から見える変化はほとんどない。キャンバス地の白、ゴムのつま先、丸いパッチ——そのシルエットは意図的に踏襲されている。刷新されたのは、あくまで足が触れる内側の構造である。
まずラストが見直された。現代の日本人の足に合わせてボールガース(足の最も幅広い部分の位置)を調整し、甲まわりにゆとりを持たせることで、足入れのしやすさとフィット感を高めたという。次にソール構造。従来のアウトソールは平らな形状で、長時間歩くと後傾姿勢になりやすかったとされる。新型ではアウトソールにウエッジ(傾斜)を設け、自然な前傾姿勢を保てる作りに変更された。さらにアウトソール内部に屈曲溝を設けたことで、歩行時の曲がりやすさ(屈曲性)も改善されている。インソールとヒール内部の素材も、従来のラバースポンジから、オープンセル構造(気泡が連続してつながった構造)のウレタンフォームへと切り替えられた。ヘタりにくく、通気性とクッション性を両立させる素材である。
これら一連の見直しにより、26.5センチサイズ・従来品比で片足約60グラムの軽量化を実現したという(※重量はサイズや個体差により変動する)。価格はオールスター ハイ・OXともに6,490円前後(税込)からとされる(※媒体により一部表記差があるため、正確な価格は公式サイトで確認されたい)。姿は変わらず、体重だけが軽くなった。百年選手のリニューアルとしては、なかなか渋い選択である。
4. 定番、ついに6色。並び立つ名作たちの現在地

刷新から約半年後、2026年2月27日には新色「ナチュラルホワイト」と「ブラックモノクローム」の2色が追加された。これにより、リニューアルモデルの定番カラーはブラック・ホワイト・ネイビー・レッド・ナチュラルホワイト・ブラックモノクロームの全6色構成となった。中身を変え、色数を整え——永久定番は、静かに次の百年の準備を進めているように見える。
こうしたオールスターの動きを見ると、我々がこれまで辿ってきた〝並び立つ名作〟たちの現在地も、あらためて浮かび上がってくる。同じキャンバス地の名作でも、PRO-Keds「ロイヤルアメリカ」は1949年、Kedsのバスケットボール向けラインとして生まれた素朴な白帆布を、今もほぼそのままの姿で守り続けている。同じPRO-Kedsの系譜でも、ロイヤルの傍系にあたるローカットの69er(スーパー)は、1970年代のニューヨークで支持を集めたとされる、また違った表情の一足だ(※着用にまつわる逸話には諸説あり、断定は避ける)。足首まで覆うロイヤル ハイのような一足まで含めれば、ロイヤルアメリカ一辺倒ではない品揃えの奥行きが見えてくる。VANSの祖形であるエラ(Era)は、スケートボードという用途から逆算されたパッド入りの履き口を譲らない。ジャックパーセルは、トゥの「スマイル」というデザインの記号性で個性を保ってきた。それぞれが、それぞれのやり方で「変わらないこと」を選び取ってきた中で、オールスターだけが「変わらない顔」を保ちながら中身を刷新するという、いささか贅沢な選択をしたことになる。優劣の話ではない。ローテクスニーカーというジャンルの中に、こうも異なる哲学が並び立っていること自体が、我々のような愛好家にとっては単純に面白いのである。
5. オールスターを履け

40代の男が、新しいオールスターを履くとき。足元にはおそらく、何も変わっていないという安心と、確かに何かが変わったという発見が、同時に宿っているはずだ。百年を超えて姿を保ち続けた靴が、それでも中身だけは時代に合わせて書き換える勇気を持った——そのしたたかさこそ、この靴が「永久定番」と呼ばれ続ける理由なのだろう。
我々はただ懐かしさで履くのではない。四半世紀分の履き心地の進化を、見た目の変わらなさの裏側に隠し持った一足として、あらためて足を通してみる価値がある。変わらないことと、変わり続けることは、決して矛盾しない。そのことを、この一足は静かに証明しているのである。
