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やさしいコミュニケーション連載 ~第四章 「会話はキャッチボール」とは、どういうこと?

「会話はキャッチボールです」

 そんな表現を、一度は聞いたことがあるかもしれません。


 自分が話したら、次は相手が話す。
 相手が話したら、自分が返す。


 たしかに、それだけを見ると、ボールを交互に投げ合うように感じます。    
 けれど、本当の会話は、ただ順番に話せばいいわけではありません。

 相手が投げた言葉を受け取らずに、自分が用意していた言葉を返してしまうこともあります。

 質問をしているのに、相手の答えを聞かず、次の質問へ進んでしまうこともあります。

 相づちを打っていても、内容はほとんど頭に入っていないこともあるでしょう。


 会話のキャッチボールで大切なのは、
 相手の言葉を一度受け取ってから、自分の言葉を返すこと
 なのです。



こんなこと、ありませんか?

 相手が話している間に、次に自分が何を言うかを考えてしまう。

 質問をしたけれど、相手の答えが予想と違っていて、どう返せばいいか分からなくなる。

「うん、うん」と相づちを打っていたのに、
「それで、どう思った?」
 と聞かれて、何も答えられない。

 相手が話し終わる前に、
「つまり、こういうことでしょ?」
 と結論を決めてしまう。


 沈黙になるのが怖くて、相手が考えている途中なのに、別の話題を出してしまう。

 または、相手に質問を続けすぎて、会話というよりも面接のようになってしまう。

 どれも、相手に関心がないから起こるとは限りません。


 会話を続けたい。
 気まずくなりたくない。
 ちゃんと返事をしなければならない。


 そんな気持ちが強いほど、相手の言葉を受け取る余裕がなくなることもあります。



4コマ漫画 「質問したのに、聞いていなかった?」



帆乃香のひとこと

 質問は、会話のきっかけを作る便利な方法だよ。

 でも、質問をたくさん用意することより、相手の答えの中にある言葉を拾うことのほうが大切なんだ。

 相手が、

「最近、パンを焼いているんです」

 と答えたなら、

「どんなパンを焼くんですか?」
「最初は難しくなかったですか?」
「焼きたてって、おいしそうですね」

 と、返ってきた言葉に少し触れてみよう。

 それだけで、相手は、
「ちゃんと聞いてくれているんだな」
 と感じやすくなるよ。

 次の話題を急いで探さなくても大丈夫。
 相手がくれた言葉の中に、次の会話のきっかけが隠れているからね。

 大丈夫。一歩ずつで変われるよ♪





キャッチボールは、投げることより受け取ることから始まる


 ボールを使ったキャッチボールを想像してみてください。

 相手が投げたボールを見ないまま、自分のボールを投げ返したらどうなるでしょう。

 相手のボールは地面に落ち、自分が投げたボールも相手に届かないかもしれません。


 会話でも、同じことが起こります。

相手:
「昨日、久しぶりに友人と会ったんです」

自分:
「そうなんですね。ところで、最近仕事はどうですか?」


 一見、会話は続いています。

 けれど、相手が投げた「友人と会った」という言葉は、受け取られないままになっています。

 そこに、

「久しぶりだったんですね。楽しかったですか?」

 と一言返せば、相手の言葉を一度受け取ったことになります。

 そのあとで別の話題へ移れば、会話はずっと自然になります。


 会話のキャッチボールでは、

1.相手の言葉を聞く
2.その中から一つ受け取る
3.短く返す
4.必要なら、自分の話や質問を加える

 という流れが基本になります。



「受け取る」とは、同意することではない

 

相手の話を受け取るというと、

「何でも賛成しなければいけないの?」

 と思う人もいるかもしれません。

 けれど、受け取ることと、同意することは違います。


相手:
「仕事は、多少無理をしてでも頑張るべきだと思う」

 自分が違う考えを持っていたとしても、

「頑張ることを大切にしているんですね」

 と返すことはできます。


 これは、

「あなたの考えが正しいです」

 と賛成しているのではありません。

「あなたは、そう考えているんですね」

 と理解しようとしているだけです。

 そのあとで、

「僕は、休むことも大切だと思っているよ」

 と自分の意見を話してもいいのです。


 相手の言葉を受け取ってから、自分の考えを返す。

 そうすれば、意見が違っていても、相手を否定するところから会話を始めずに済みます。



相づちは「あなたの話を聞いています」という小さな合図

 

 会話のキャッチボールでは、長い言葉を返さなくても大丈夫です。

 相づちも、立派な返事です。

 たとえば、

「うん」
「そうなんだ」
「へえ」
「なるほど」
「それは大変だったね」

 という短い言葉があります。


 また、うなずいたり、相手へ顔を向けたりすることも、
「あなたの話を聞いています」
 という合図になります。


 ただし、同じ相づちを機械的に繰り返すと、相手には聞いていないように感じられることがあります。


相手:
「昨日、電車が止まってしまって」

自分:
「うんうん」

相手:
「大事な約束に遅れそうになったんです」

自分:
「うんうん」

相手:
「すごく焦りました」

自分:
「うんうん」


 これでは、相手の気持ちまで受け取っているか分かりません。

 最後に、

「それは焦りますよね」

 と内容に合った言葉を一つ加えるだけで、聞いていることが伝わりやすくなります。



オウム返しは、言葉をそのまま繰り返すだけではない

会話の方法として、「オウム返し」が紹介されることがあります。


相手:
「最近、仕事が忙しくて」

自分:
「仕事が忙しいんですね」


 この返し方も間違いではありません。

 けれど、毎回そのまま繰り返すと、不自然に感じられることがあります。

 オウム返しの目的は、相手の言葉を暗記して繰り返すことではなく、 「あなたの話のここを受け取りました」
 と伝えることです。


相手:
「最近、仕事が忙しくて、家に帰ると何もする気が起きないんです」

返し方の例:
「帰ってから何もできないくらい、疲れているんですね」

 言葉を少し言い換えながら、相手が伝えたかった部分を返します。


相手:
「新しい仕事を任されて、うれしいけれど不安なんです」

返し方の例:
「うれしさと不安の両方があるんですね」

 出来事だけでなく、気持ちを受け取ることもできます。



質問は、会話を進めるためではなく、相手を知るために使う


 会話が苦手な人向けのコツとして、

「相手に質問しましょう」

 と言われることがあります。

 質問はたしかに便利です。

 けれど、質問の目的が「沈黙をなくすこと」だけになると、次々に質問を投げてしまうことがあります。


「趣味は何ですか?」
「休日は何をしていますか?」
「好きな食べ物は何ですか?」
「どこに住んでいるんですか?」

 

 これでは相手は、面接を受けているような気持ちになるかもしれません。

 質問したら、その答えに一度返してみましょう。

相手:
「休日は、よく散歩しています」

自分:
「散歩が好きなんですね。どんな場所を歩くことが多いんですか?」

相手:
「近くの川沿いです」

自分:
「川沿いは気持ちよさそうですね。季節によって景色も変わりそうです」


 このように、一つの話題を少しだけ続けると、会話が落ち着きます。

 たくさんのことを聞かなくても、相手の一つの答えを丁寧に受け取るだけで、相手を知ることができます。



質問には、答えやすいものと答えにくいものがある


 質問の仕方によって、相手の話しやすさは変わります。

答えが短くなりやすい質問

「映画は好きですか?」

 こういった質問なら、相手は、

「はい」
「いいえ」

 だけで答えることができます。

 このような質問を、閉じた質問(クローズド・クエスチョン)と呼びます。

 確認したいときには便利ですが、会話を広げたいときには短く終わりやすい質問です。


相手が少し話しやすい質問

「最近見た映画で、印象に残ったものはありますか?」

 こちらは、相手が内容を少し説明できる質問です。

 ただし、最初から広い質問をすると、答えに困る人もいます。

 その場合は、

「映画は見ますか?」
「最近は、どんなものを見ましたか?」

 と、小さな質問から広げてもいいでしょう。


 大切なのは、いつも開いた質問を使うことではありません。

 相手の様子を見ながら、答えやすい大きさのボールを投げることです。



自分の話を混ぜることも大切


相手に質問ばかりしていると、自分のことは何も伝わりません。

会話のキャッチボールでは、自分の話をすることも必要です。


相手:
「最近、散歩を始めたんです」

自分:
「いいですね。ボクも朝に少し歩くことがあります。歩くと気持ちが切り替わりますよね」


 自分の話を短く加えることで、

「あなたにだけ話させているわけではありません」

 と伝わります。

 そのあと、

「散歩を始めたきっかけは何だったんですか?」

 と相手へ返せば、会話の往復が続きます。

 ポイントは、自分の話を長くしすぎないことです。


 相手の話を受け取る。

 自分のことを少し伝える。

 再び相手に返す。

 この流れを意識すると、質問だけの会話にも、自分だけが話す会話にもなりにくくなります。



沈黙も、会話の中にある

 キャッチボールでは、ボールが手元に届いてから、すぐに投げ返さなくても構いません。

 持ち方を整えたり、相手の位置を確認したりする時間があります。

 会話も同じです。

 相手が何かを話したあと、すぐに言葉が返ってこなくても、会話が失敗したとは限りません。

 相手は考えているのかもしれません。

 気持ちを整理しているのかもしれません。

 言葉を選んでいるのかもしれません。

 少し待つことで、相手が本当に話したかったことが出てくる場合もあります。

 たとえば、


相手:
「最近、仕事を辞めようか迷っていて……」

ここですぐに、

「次を決めてからのほうがいいよ」

と答えるのではなく、少し待ってみます。


相手:
「仕事そのものより、人間関係に疲れたのかもしれない」

 最初の言葉だけでは分からなかった気持ちが、沈黙のあとに出てくることがあります。

 沈黙を急いで埋めず、相手が次の言葉を探す時間として受け止めることも、会話の大切な技術です。



アドバイスは、大きすぎるボールになることがある

 相手が悩みを話したとき、

「何か役に立つことを言わなければ」

 と思うことがあります。

 そして、

「こうすればいいよ」
「それはやめたほうがいい」
「もっと前向きに考えたら?」

 とアドバイスを返します。


 けれど、相手は解決方法ではなく、まず気持ちを聞いてほしかったのかもしれません。

 重いアドバイスは、相手が受け取る準備のできていない大きなボールになることがあります。

 そんなときは、

「今は、話を聞いてほしい感じ?」
「一緒に方法を考えたほうがいい?」

 と確認してみましょう。

 相手が必要としている返し方を確かめてから言葉を投げると、受け取ってもらいやすくなります。



こんなふうに話してみよう

会話例1 相手の言葉を拾う

相手:
「最近、料理を始めたんです」

自分:
「料理を始めたんですね。どんなものを作ったんですか?」

相手:
「昨日はカレーを作りました」

自分:
「カレー、いいですね。自分で作ると味の調整も楽しそうです」

相手の答えの中にある「料理」「カレー」という言葉を拾って返しています。


会話例2 気持ちを受け取る

相手:
「発表を任されて、緊張しているんです」

自分:
「大事な発表なんですね。緊張しますよね」

相手:
「失敗したらどうしようと思って」

自分:
「失敗することが、いちばん心配なんですね」

 出来事だけでなく、相手の不安を受け取っています。


会話例3 意見が違うとき

相手:
「仕事は、多少無理してでも続けるべきだと思う」

自分:
「続けることを大切にしているんですね。僕は、無理が続くなら休むことも必要だと思っているよ」

 まず相手の考えを確認し、そのあと自分の意見を返しています。


会話例4 アドバイスの前に確認する

相手:
「最近、職場の人間関係で悩んでいて」

自分:
「それはつらいね。今は話を聞いてほしい? それとも一緒に方法を考えてみる?」

 相手の求めているものを確認しています。



会話のボールは、相手によって大きさを変えていい


 元気でよく話す人なら、少し大きな質問をしても答えやすいでしょう。

 緊張している人や、言葉をまとめるのに時間がかかる人には、短く答えられる質問のほうが安心かもしれません。

 相手が疲れているときは、たくさん質問するより、

「今日は大変だったんだね」

 と受け取るだけで十分なこともあります。

 自分も疲れているなら、無理に会話を続けなくてもいいのです。

「今日は少し疲れているから、続きはまた聞かせてね」

 と伝えることもできます。


 コミュニケーション上手とは、いつでも会話を盛り上げられる人ではありません。

 自分と相手の状態を見ながら、無理なく受け取れる言葉を選べる人です。




今日の小さな実践ミッション


 今日、誰かと話す機会があったら、相手の言葉から一つだけ拾って返してみましょう。

 たとえば、

相手:
「昨日、買い物に行ったんだ」

自分
「買い物に行ったんだね。何を買ったの?」


相手:
「最近、少し疲れていて」

自分:
「疲れているんだね。忙しかったの?」

 という形です。

 質問が難しいときは、

「そうだったんだね」
「それはうれしいね」
「大変だったね」

 と、気持ちを一つ返すだけでも構いません。

 今日の目標は、上手な返事をすることではありません。

 相手の言葉を一度受け取ってから返すこと。

 一回できたら、今日のミッションは達成です。



振り返ってみよう


1.今日は、相手のどんな言葉を拾いましたか?
2.自分が返したあと、相手の反応はどう変わりましたか?
3.相手が話している間、次の返事ばかり考えていませんでしたか?
4.沈黙を急いで埋めずに待てた場面はありましたか?
5.次の会話では、どんな言葉を受け取ってみたいですか?

 全部に答えなくても大丈夫です。

 一つだけでも、
「今日は、相手の言葉を聞けたかもしれない」 
 と感じられたら、それを大切にしてください。

 会話のキャッチボールは、速く投げ返す競争ではありません。

 受け取る。
 少し考える。 
 自分にできる言葉で返す。

 その小さな往復を重ねることで、相手との会話は少しずつ安心できるものになっていきます。



次回予告


 次回は、

「ちゃんと話しているのに、伝わらないのはなぜ?」

 というテーマを扱います。

 自分では説明したつもりなのに、相手には違う意味で伝わってしまう。
 何度話しても、分かってもらえない。

 そんなすれ違いが起こる理由と、相手に届きやすい伝え方を、帆乃香と一緒に考えていきましょう。



 最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

 ご意見、ご感想、フィードバックなどをコメントいただけると嬉しいです(*´ω`*)



あとがき

ここは、
「迷いの中にいるあなたが、安心して戻ってこられる場所」
としてつくりました。

焦らなくていい。
比べなくていい。
あなたのペースで、大丈夫です。

心が整えば、人生はまた動き出します。

その一歩に、静かに寄り添えたら嬉しいです。


*ー*ー*ー*ー*


最後までお読みくださりありがとうございました(´ω`)

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