第3話『パラレルコネクター』ファンタジー小説部門
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天人(てんじん)である彼は何においても秀でていた。
そのため人々からの妬みの対象となった。
集団意識とは恐ろしいものだ。隠されることのない汚らしい妬みの声。
そんな中で彼は、怒りを育て、武を鍛えた。
彼の中にいたまま、一〇年が流れた。
彼は天人。
戦いの中でその才能を発揮し、若くして将軍になる。この国の英雄だ。
しかし、それでも彼はいつも妬みに囲まれていた。
その激しい性格が災いしているのだろう。
そんな彼にも、心を許せる親友が一人だけいた。
オーファンとウチェリファン。これはこの国の英雄を表す言葉でもあった。
二人の天人。
戦友であり、旧友であり、親友だった。
敵が多いオーファン。それを優しく受けとめるウチェリファン。
私は彼の中で、彼らには届くことのない言葉をつぶやく。
「ありがとう、ウチェリファン。彼の孤独な心を癒してくれて」
戦場でのオーファンは恐ろしかった。
怒涛の武力で敵を蹴散らす。
飛び散る肢体。血。悲鳴。死と臓腑の匂い。
その中で彼は、人々を次々となぎ倒していく。
私には彼の顔を見ることができなかった。
でも、わかることがあった。
凄惨な戦場の中でも、彼の心が何一つ波立っていないことを。
それが悲しかった。
痛みを感じなくなった人間の、その静けさが。
今回の戦いも圧倒的な勝利で終わった。
彼らはいつものように王の宴を断り、ウチェリファンの館で二人だけで祝杯を挙げる。
「オーファン、今回は少し手を抜いていたんじゃないか」
「あれ? 気が付いてなかった? 俺、今回左手で剣を振っていたんだぜ?」
「どおりで、のんびりやっていたわけだ。俺の仕事が増える。それにいつも言っているように指揮官だけねらえ。あとの大半は傭兵と農民なんだから」
「ちゃんと選んでやってるって」
「しかし、この戦をとったことは重要だな。たぶん、あといくつかの戦を済ませれば当面、戦としての俺たちの役割はなくなりそうだな」
「ウチェリファン、そんなことより、早く葡萄酒飲もうぜ?」
「ははは、そうだな」
そう言うとウチェリファンは葡萄酒をとりに行った。
オーファンは部屋の中から、葡萄酒を入れる器を用意する。
ウチェリファンが容器に入った葡萄酒と一緒に、大きな器に乗った食べ物も持ってくる。
干した羊の肉。チーズ。甘く煮た芋。木の実。
オーファンは思う。
『ウチェリファンの用意する食べ物は最高だ』と。
「お前の天の才は食べ物を用意することに宿ったんじゃないか?」
「ははは、そうかもしれんな」
そう言いながら、ウチェリファンはいつものように、二人の杯になみなみと葡萄酒を注ぐ。
「勝利に!」
二人は杯を傾ける。料理を楽しみ、葡萄酒を楽しむ。
この時間が好きだと、オーファンは思っている。
戦場でも宮廷でもない。
王の命令も、民の妬みも、ここには届かない。
ウチェリファンと二人で葡萄酒を飲む、この時間だけが、俺の時間だ。
そんなオーファンの心の中を、私は静かに感じていた。
この人はここでだけ、人間に戻れるのだ。
「ところで」とウチェリファンが口を開く。
「オーファンは妻を娶らんのか?」
オーファンは葡萄酒でむせた。
「ごほごほ! 急になんだ?」
「いや、実は俺、妻を娶ることにしたんだ」
「なに!? そうなのか? 一体、誰なんだよ?」
ウチェリファンはやや照れながら話した。
親のいない姉弟がいて、何とかしてやりたくて、姉を娶ることにした。名前はメジェンという。その姉に「ワタシなんかでいいんですか?」と言われた時、何故だか「俺が何とかせねば!」と思って、と。
「そうか! お前が妻を娶るんだな! いいぞいいぞ。毎晩飲みに行ってやる! よし乾杯しよう! えっと、妻の名前なんていうんだ?」
「メジェンだよ」
オーファンが声をあげる。
「友とメジェンの幸せに!」
二人は大いに飲み、そして大いに笑った。
オーファンは少し泣いていた。嬉しかったのだろう。親友の幸せが、心の底から嬉しかったのだろう。
私はオーファンの中から、その感情を感じていた。
この人が笑っている。
泣きながら笑っている。
戦場でも、宮廷でも、妬みの声の中でも、決して揺れなかった心が、今だけ柔らかくなっている。
ありがとうウチェリファン。
この人に、安らぎと喜びを与えてくれて……。
その後、彼らの王国は戦により栄え、歯向かう国はなくなっていった。
二人は戦いの英雄から、貴族へと迎え入れられることが決まっていた。
でも二人には、そんなことはどうでもよかった。
国が蹂躙されず、民が殺されず、そして二人で酒を飲めたら。
それだけでよかった。
悲劇はある日突然訪れた。
第4話に続く
