第4話『パラレルコネクター』ファンタジー小説部門
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最後の戦いと言われた戦の直後だった。
いつものようにオーファンとウチェリファンは勝利の酒に酔いしれていた。
「ウチェリファン! メジェンはいつ嫁いでくるんだ?」
「ああ、戦がひと段落着いたらと思っていたんだ。ささやかだけど祝言を上げたいと思っていた。いよいよだよ。オーファンもちゃんと来てくれよな!」
ウチェリファンが笑った。屈託のない笑顔で。
「わかったわかった」
オーファンも笑う。
葡萄酒がすごい勢いで消費されていく。
「おい、ウチェリファン! 葡萄酒だ! もっと持って来てくれよ!」
「わかった、わかった。今、用意するから」
ウチェリファンが別の部屋に葡萄酒をとりに行く。いつもの光景だ。
いつもと同じ夜のはずだった。
ウチェリファンが戻ってくる。
いつものように二人の杯になみなみと葡萄酒を注ぐ。
いつものように二人で乾杯をする。
「ぐふ」
私はオーファンの中にいるからわかった。
これは毒だ。
何故?
どうしてウチェリファンがそんなことを?
考える間もなかった。
武人の条件反射。
悲しいかな、オーファンは腰の短剣を、無意識のまま目の前のウチェリファンに突き刺していた。
無防備な彼の胸に、短剣が「スッ」と吸い込まれる。
その刹那。
突き刺さる寸前に、ウチェリファンも毒のために血を吐いた。
もう遅かった。
本来、この程度の毒で天人は死なない。しかし、心臓に突き刺さった刃はどうしようもなかった。
ウチェリファンは何かを言った。
確かに口が動いた。
言葉の形をしていた。
でもオーファンの耳には届かなかった。
そして短剣の刺さった心臓は、そのまま鼓動を止めた。
私はオーファンの中で、その瞬間を見ていた。
ウチェリファンの顔が、ゆっくりと崩れていく。
苦しみではなかった。
驚きでもなかった。
それは、何かを伝えようとした顔だった。
届かなかった。
何が言いたかったのか。
その言葉は空に溶けて、永遠に失われた。
部屋の中、その様子をうかがっていた何者かが、立ち去ろうとしていた。
オーファンは男を捕まえ問うた。
「誰の差し金だ?」
男は答えない。オーファンは短剣を使い男の右腕をはねる。
「誰の差し金だ?」
「……王です、王が平和に獣はいらぬと……」
次の瞬間には男の首は既に飛んでいた。
苦しい。
彼の悲しみと怒りと後悔が、私の中に流れ込んでくる。
その夜のうちに、城の中の男たちは全員死に絶えた。もちろん、その中には王の姿もあった。
オーファン一人に、一国の軍事力と統制力のすべてが破壊された。
その後、数日のうちに、情報を知った隣国に攻め入られ、その国の名は地上から消えた。
オーファンは、メジェンとその弟を安全な町に送り届け、財産を渡し、ウチェリファンの死を告げた。
そして二人にこう言った。
「俺は常にあんたらの声が聞こえるところにいる。困ったらいつでも呼ぶんだ。それが俺が友のために唯一できることだ」
その二人がこの世を去って間もなく、オーファンは自分に呪いをかけてしまった。死ぬことのできない体に。
あの時感じた、彼の悲しみと憎しみ、あの衝撃。それは、彼が呪い人になる瞬間だった。
すぐ近くに、あの時の私たちの気配を感じることができた。
そう、あなたと私よ。見届けに来ていたよね。
そして、私は彼の中から出られなくなった。
呪いが彼を閉じてしまった。
目的もなく、たださまよい歩く彼。
時に発作的に泣き叫ぶ。
咆哮と慟哭。
時に静かに涙を流す。
声を殺し繰り返す嗚咽。
彼は夢を見る。
ウチェリファンとの楽しい日々。
葡萄酒を飲みながら大声で笑ったあの夜。
メジェンの話を聞いて嬉しくて泣いたあの夜。
そしてウチェリファンの心臓を貫いた瞬間。
何かを言いかけ、途切れる命。
そこで目が覚める。
彼は自らを呪う。
何度も何度も。
いつしか、ウチェリファンの最後の言葉を知ることが、彼の唯一の目的となっていた。
「あの言葉さえ聞けたら。
あの言葉が呪いの言葉であれば、俺はそのまま死ねる。
そうでなければ、どうしたらいいのかわからない。
でも、聞かなければ、何も始まらない」
彼はそう呟きながら、四〇〇年、五〇〇年、各地をさまよった。
私は彼の中で、ただ彼と共にいた。
そして、彼は一人の男に出会った。その男が彼の人生を変えた。男は自分を『大工の息子』と言った。
「呪われた者よ、あなたはどこに行こうとしているのか?」
「死んだ親友の声を聞くための、その方法を探している」
「その願いは叶うでしょう。いつか、あなたはそれを聞くことができるでしょう」
「どうすればいい?」
「天地人を知っていますか?」
「天地人?」
「あなたは本来天人です。今は呪われた存在です。死ぬことも生きることもままならない。天地人も同じく呪われた存在です。彼らは世界の呪いをその身に受け生き続ける者です。生きながらにして世界のくさびとなる者です。世界のいけにえです」
「俺は、どうしたらウチェリファンの声を聞き、そして詫びることができるんだ?」
「天地人に会うことです。長い長い時間の先、彼女に会うことです。あと二〇〇〇年ほど先ですね。彼女に会うためには、あなたは世界を救うために動かなければなりません」
「俺の憎しみはどうなる。この世界を無くしたいと思うほどの俺の憎しみは」
「世界はいくつもありますからね。そうですね、あなたはあなたのいるこの世界を憎み続けたまま、この世界を崩壊させる手を考えてみてください。ただし、自分では一人も殺さずに。それが結果として世界を救うのです。そのように動けば、あなたの呪いは解かれ、ウチェリファンの最後の言葉もわかるでしょう」
「大工の息子、あんたは何者なんだ」
「今は、あなたと同じ天人です。地上から天に上り、天に上った後、再び地に戻り一つの役割を果たすいけにえです。さあさあ、それよりも。あなたの中に閉じ込められてしまった者を、まず開放しなければなりません。こちらに来てください」
オーファンは、何も言わずに従った。
大工の息子の手が彼の頭の上に置かれたとき、私は彼の体の中から解き放たれるのが分かった。
彼の体から空に向かって放たれるその瞬間。大工の息子と目があった気がした。
私は長い長い眠りから目覚めようとしていた。
それと同時に、私の中にいたアナタが私から離れていくのを感じていた……。
……
…………
……
* * *
おいおい、なんか回り道をしたな。
おぬしが繋がるべきは、ヤマベとシロだ。
今繋ぎなおすから、寄り道しないように!
