見出し画像

第5話『パラレルコネクター』ファンタジー小説部門

👈第4話に戻る


【一章‐邂逅 コネクテッド!】

……
…………
……
 
 これ本当につながってんのかなぁ。
「なあ、シロ。これでつながったのか?」
 俺たちの第三世界のコネクター『パラレルコネクター・ホワイト』、通称『シロ』が答える。
「ヤマベ、つながってるよ。その証拠に、私のエネルギー源であるダークマターが溜まり始めてる」
「でも、コネクター同士がつながったら、相手の景色も見えるし、考えもわかるだろう? 今は、そんな感じはしないな」
 見た目はスマホのシロが答える。
「おかしいね? でも、つながっていることには間違いないよ」
「いや、つながっているのは俺も感じるよ。心の中に温かい何かが一緒にいる感じだ。片側通行なのかもしれないけど、つながっているならそれでいい」
 そう、それでいい。
 世界が救えるなら。
 そして、俺の夢が叶うなら。
 俺は姿見の前に立ち、鏡の中の自分を見つめる。変な感じだ。でもこうすれば、そちらからも見えやすいだろう?
「ねえヤマベ、初めて会ったんだから、自己紹介が先じゃない?」
「ああそうだな」
「初めまして。俺の名前はヤマベ。第三世界の住民、二四歳だ。今は世界を救うという大仕事で大学を休学中の身だ。そっちは第四世界だよな。とりあえず、アンタと呼ばせてくれ。愛着込めてのことだから許してくれ」
「ヤマベ。その呼び方、なんか失礼じゃない?」
「そうか? 俺なりに愛情をこめてなんだけどな」
「むー……まあ、愛情こめてるならいいか!」
「ああ、アンタ。こっちがシロだ。パラレルコネクター・ホワイト。見た目はスマホだが、れっきとした命を持った装置だ。まあ、頼りになる相棒だよ」
「えへへ」
「まあそんなことで、シロともども宜しく頼むよ」
「アンタさん。シロです! 宜しくです!」


【一章‐一節 シロの記憶】

「なあシロ、明日の朝には第四世界に飛べるんだよな」
「うん、ダークマターの溜まり具合から行くと、そのくらいだよ」
「じゃあ今夜、少し時間がある」
 俺はシロを手に持ったまま、鏡の前に腰を下ろした。
 アンタにも聞こえているよな。これは大事な話だ。
「シロ、ちゃんと全部伝えよう。お前は今、記憶喪失の状態だ」
「……うん」
「目が覚めた時、俺の顔も覚えていなかった。所有者だったことも、俺たちが何をしようとしていたかも、全部消えていた」
「うん。昔の記憶はあるんだけど……」
「ああ。俺のことは忘れていても、昔のことはちゃんと覚えているな。世界の歴史とか、コネクターの知識とか、そのあたりは問題ない。まあ、混濁はしているが……。それに対し、ここ一年ほどのことだけがすっぽりと消えている。俺と出会ってからの記憶だ」
 シロはしばらく黙った。コネクターにも沈黙はある。
「ヤマベ、私……どうして記憶を失ったの?」
 俺は少し間を置いてから答えた。
「安心しな。いつかわかるさ」
 シロはそれ以上聞かなかった。
「今から、せっかくだから、お前の記憶も確かめておきたい。俺が質問する。覚えていれば答えてくれ。覚えていなければ俺が話す。アンタに聞いておいてほしい情報だ」
「……わかった。やってみる」
 俺は鏡に目をやった。
 アンタ、しっかりと聞いてくれ。
「なあシロ、この世に並行世界はいくつあるか、覚えているか?」
「五つ。でも三年前に二つが衝突して消えたから、今は三つ」
「正解。その三つは?」
「第三世界、第四世界、第五世界。第三と第四は双子の世界でほとんど同じ歴史をたどっている。第五世界だけ全く違う道を進んだ」
「そうだ。俺たちは第三世界。アンタは第四世界の住人だから、俺たちと同じような歴史の中で生きているはずだ」
 シロが付け加えるように言う。
「並行世界が証明していることがあってね。この広い宇宙の中で、生命が存在するのは地球だけなの。だから世界の分岐は常に地球を中心に起きるの」
「おっ、それは覚えていたか」
「それぐらいは覚えてるよ!」
「なあシロ、今三つの世界がどうなっているか、覚えているか?」
「均衡が崩れていて……衝突に向かっている」
「そうだ。このまま放っておけば今残っている三つも衝突し、消える。クラッシュ・アウト(世界衝突)だ。アンタの世界も含めてな。それを止めるのが俺たちの仕事だ」
 シロが少し沈んだ声で言う。
「世界が消えるって、どういうことかわかる? そこで生きているすべての人が、すべての生き物が、何もかもが消えるってことだよ」
 俺は鏡を見た。
 アンタにはわかるか。これは他人事じゃないんだ。
「なあシロ、天人(てんじん)のことは覚えているか?」
「うん。寿命が長くて、特別な力を持った人……。おかしいな、なんかちゃんとわかるんだけど、うまく言葉が出てこない……」
 シロの記憶が混濁している。こういう時のシロの声は、どこか遠くを探すような声になる。
「シロ。大丈夫だ、俺が補足する。天人は通常で人の三倍の寿命を持つ。中には老化が止まる者もいる。顕著な特徴として、武力だったり知性だったり、それぞれ特別な力がある。歴史の変わり目に現れることが多い。卑弥呼、ナポレオン、アインシュタイン……アンタが歴史で習った連中の中にもいる」
「うん。そうそう、そういうこと!」
「ただ殆どは、その長い寿命を全うすることはない。使命を終えると死ぬ。地球が歴史を動かすために生み出した存在だという見方もある。悪趣味だろう? でもそういうもんらしい。
じゃあ、シロ。次、地人(ちじん)は?」
「えっと……道具を作るのが得意で……幼い姿のまま長く生きる……で、いいんだっけ?」
 また混濁しているようだな。
「道具に力を与える能力を持つ。コネクターを作ったのも地人の力だ」
「……道具に力を与える。それが私たちコネクターを生み出した能力でもあるんだよね」
「そうだ」
 天人と地人と普通の人間は三つ巴の関係だ。人は天人の力に制圧される。天人は地人の前では無力だ。地人は人の前では無力で、迫害の対象になってきた。この三つが歴史の中でずっとぶつかり合ってきた。
「シロ、次の質問。天地人(てんちじん)とは何か?」
 シロはしばらく黙った。今度は長い沈黙だった。
「……だめ、記憶が混濁していて、わかるんだけど、変な言い方になりそう……」
 そうか。過去の記憶は残っているが、言葉として取り出しにくくなっているのかもしれない。ここも、俺から説明した方がよさそうだな。
「天地人は全ての並行世界に同時に一人だけ存在する。精神で時間を超え、空間を移動できる。そして——世界のくさびとなる、いけにえだ」
「……それは、普通の天人でもできない」
「そうだ、できない。時間を超えることは天地人だけの力だ」
「天地人が、世界を救う鍵を握っている……」
「そうだ。そしてその天地人に会いに行くのが、俺たちの最初の仕事だ」
 シロが小さな声で言った。
「天地人……とても孤独な存在。すべての世界にたった一人だけ……」
 俺はそのシロの言葉には、何も答えなかった。

第6話に続く


 

いいなと思ったら応援しよう!