「介護」という言葉のイメージは、業界のイメージを超えられない
皆さんは、「介護」という言葉に、どんなイメージを持っていますか。
おそらく、明るくて前向きなイメージを持っている人は、それほど多くないと思います。
介護業界に対しては、低賃金、人手不足、重労働、離職率が高い。
家族での介護に対しては、大変、つらい、自由がなくなる、いつまで続くのか分からない。
「介護」と聞いただけで、どこか重たい空気を感じる人もいるのではないでしょうか。
もちろん、介護には人を支える喜びもあります。
家族との関係が深まったり、利用者の笑顔に救われたりする瞬間もあります。
しかし、世間一般のイメージとしては、やはり苦労や負担の印象が先に立ちます。
介護の魅力を発信しよう。
介護職の素晴らしさを知ってもらおう。
介護業界では、そんな言葉が繰り返し使われています。
しかし私は、介護業界そのもののイメージが悪いままでは、「介護」という言葉のイメージだけを良くすることはできないと思っています。
なぜなら、言葉の価値は、その言葉を使っている人や企業、業界の実績と切り離せないからです。
たとえば、トヨタで使われている言葉があります。
「改善」
「現地現物」
「なぜを5回繰り返す」
こうした言葉は、企業研修や経営者の話の中で、少し誇らしげに使われます。
「これはトヨタ式です」
そう言われるだけで、急に説得力が増したように聞こえます。
ホワイトカラーの職場でも同じです。
「アジェンダを共有する」
「エビデンスを示す」
「結果にコミットする」
「心理的安全性を高める」
日本語でも説明できそうな言葉ですが、横文字にすると、少し仕事ができる人の発言に聞こえます。
もちろん、こうした言葉を使うこと自体が悪いわけではありません。
結果を出している企業や職種の考え方を学び、自分たちの仕事に取り入れることは大切です。
ただ、ここで考えたいのは、私たちは本当に言葉の意味だけを評価しているのか、ということです。
おそらく違います。
その言葉を誰が使っているのか。
どんな企業から生まれたのか。
どんな職種の人が話しているのか。
その人たちが、どんな結果を出しているのか。
そうした背景まで含めて、私たちは言葉の価値を判断しています。
トヨタの言葉が格好よく聞こえるのは、言葉そのものが特別だからではありません。
トヨタが長年、結果を出してきた企業だからです。
では、介護業界で使われている言葉はどうでしょうか。
「利用者本位」
「自立支援」
「個別ケア」
「残存能力を生かす」
「尊厳を守る」
どれも、人間が生きることの本質に関わる、とても大切な言葉です。
本来であれば、一般企業の人材育成や組織づくりにも応用できる考え方だと思います。
しかし、会社の会議で、
「介護施設で行われている個別ケアを、わが社の人材育成にも取り入れましょう」
と、得意そうに話す人はほとんどいません。
なぜでしょうか。
介護業界で使われている言葉の中身が劣っているからではありません。
その言葉を使っている介護業界が、世間から憧れられる存在になっていないからです。
さらに厳しいことを言えば、介護業界自身が、言葉の価値を下げている部分もあります。
利用者本位と言いながら、利用者を施設の時間割に合わせる。
自立支援と言いながら、職員がやったほうが早いからと、身の回りのことをすべて手伝ってしまう。
個別ケアと言いながら、全員で同じ時間に体操をして、同じ塗り絵をする。
尊厳を守ると言いながら、高齢者を子どものような口調で扱う。
立派な言葉を掲げながら、実際に行われていることが正反対なら、その言葉は少しずつ空っぽになっていきます。
介護職を「ケアワーカー」と言い換える。
介護施設を「ケアコミュニティ」と呼ぶ。
利用者を「ゲスト」と呼ぶ。
それも一つの工夫かもしれません。
しかし、中身が変わらなければ、ただの看板の掛け替えです。
介護という言葉が悪いのではありません。
その言葉から、多くの人が思い浮かべる現場の姿に問題があるのです。
介護のイメージを本当に変えたいのなら、言葉をおしゃれにする前に、業界そのものを変えなければなりません。
介護職の給料が上がる。
専門性が正当に評価される。
現場の職員が、自分で考えて動ける。
利用者が、施設の都合ではなく、自分の意思で一日を過ごせる。
家族が安心して頼ることができる。
そこで働く人が、自分の仕事を堂々と人に話せる。
そんな施設や事業者が増えていけば、「介護」という言葉を無理に言い換えなくても、イメージは自然に変わっていくはずです。
介護業界では、長い間、
「大変だけれど、尊い仕事です」
という伝え方がされてきました。
しかし、それだけでは人は集まりません。
尊い仕事だから、低賃金でも我慢してください。
社会に必要な仕事だから、人手不足でも頑張ってください。
そんな話では、やりがい搾取だと思われても仕方がありません。
介護の大切さを理解してもらうだけでは足りないのです。
介護を、憧れられる仕事にしなければならない。
専門性が高い。
待遇もいい。
仕事として面白い。
社会にきちんと結果を出している。
介護職であることを、本人が誇らしく語れる。
そこまで変わって初めて、「介護」という言葉にも力が宿るのだと思います。
トヨタの言葉が評価されるのは、トヨタが結果を出してきたからです。
介護業界も同じです。
介護のイメージを変えたいのなら、まず変えるべきなのは名前ではありません。
言葉を磨く前に、現場を磨く。
結局、それしかないのだと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました☺️
