【オランダ移住生活】男前編
オランダに行ったら決めていたことがあった。それは、この国で一番イケている髪型にすることだった。
郷に入っては郷に従え。
虎穴に入らずんば虎子を得ず。
浅はかかもしれないが、私はこの国に溶け込むため、見た目から入ることにした。まずは髪型からだ。
ロバーツに美容室を紹介してもらい、そのまま同行してもらうことになった。
石畳の街を歩き、たどり着いた店は、外観だけでは美容室だと分からなかった。
この店には「赤青白のくるくる」は見当たらなかったが、街では何度か見かけたことがあるので、「赤青白のくるくる」は世界共通らしい。
店には予約なしで入ることができた。
その事実が、私を少しだけ不安にさせる。
流行っていないのか。それとも、この国ではこれが普通のことなのか判断がつかない。
私は幼少期の体験から、散髪に対してトラウマを抱えていた。これまで幾度となく髪を切ってきたが、この歳になっても散髪前にはわずかな緊張と不安が顔を出す。
店内は、日本の美容室とさほど変わらない。
先客のおばさんがひとり、髪を切っていたので、私たちは待つことになった。
待合室には大きなテーブルがあり、ロバーツと向かい合って座る。
そこへ、おばさんが二人が店内に入ってきた。
自然にコーヒーが出され、自然に会話が始まる。ロバーツも、いつの間にか自然とその輪に加わっていた。
初対面とは思えないほど、会話はよく弾んでいた。
日本で、初対面の人とここまでフランクに言葉を交わすことがあっただろうか。
オランダの人々の、穏やかで温かな人柄に触れた気がした。
その光景をぼんやりと眺めながら、待合室にはどこか穏やかで、温もりのある時間が流れていた。
英語を話せて、私もその輪に入れていればの話だが。
やがて順番が来て、散髪椅子へと案内された。
担当してくれたのは、私より少し年上くらいの女性だった。
笑ったときに見える白い歯が印象的で、私は心の中で彼女を「ホワイティー」と呼ぶことにした。
椅子に座った私は、ホワイティーに向かって、用意してきた渾身の英語を放った。
「Give me the coolest hairstyle in the Netherlands.(オランダで1番イケている髪型にしてくれ)」
完璧だ。
ホワイティーは白い歯を見せ、軽くうなずくと、作業に取りかかった。
散髪が始まってすぐ、彼女は私に何かを尋ねてきた。まったく分からない。
私は、用意してきた英語しか話せないのだ。
それが仕上がりに関わる確認だった場合、致命的である。だが、散髪時に首に巻かれるあの布によって両腕の自由を奪われている私は、スマホで翻訳することすらできない。
ロバーツに助けを求めようと待合室に目をやった。
しかし、ロバーツは全くこちらを見ようともしない。おばさんたちとの会話に夢中だった。
その様子を見て、私は確信した。
ロバーツは、この二人のどちらかを女性として意識し始めている。あるいは、両方なのか。
ロバーツを見限った私は、ホワイティーとの会話をすべて
「オランダで一番イケている髪型にしてくれ」
で押し切ることにした。
散髪が進むにつれ、不安は増していく。
そこは短くしすぎではないか。
そこは、もう少し残すべきではないか。
気が気ではなかった。
しかし、オランダで一番イケている髪型を望んだのは、自分自身だ。ここは、ホワイティーのゲームメイクに託すことにした。
散髪は20分ほどで終わり、最後に整髪料で髪を整えられた。
恐る恐る鏡を見る。
するとそこには、普通にかっこいい髪型の自分がいた。
「普通にかっこいい」
普通にかっこよかった。
失敗を想定してリアクションも準備していた。その状況を「おいしい」とさえ思っていた。正直、少しだけ失敗を期待していた自分もいる。
いい意味で、裏切られた。
ホワイティーは、一流の美容師だったのだ。
料金は30ユーロほどで日本円にして約5500円だった。円安とユーロ高で、高額な請求も覚悟していたが、この仕上がりで5500円なら安く感じる。
ホワイティーは食べていけるのだろうか。
もう少し取ってもいいのではないか。
むしろ、もっと取ってほしかった。
会計を終え、普通にかっこいい髪型になって待合室へ戻ると、おばさん二人が身を乗り出すようにして話しかけてきた。
何を言っているのか正確には聞き取れない。
しかし、
「普通にかっこいい!」
そういうことを言っているのだろう、というニュアンスと熱量は、十分すぎるほど伝わってきた。
その瞬間、ロバーツの表情が、わずかに曇ったのを私は見逃さなかった。
日本でもそうだったのだが、おばさんというのは、なぜ散髪後の人間をここまで褒めてくれるのだろうか。
この現象もまた、赤青白のくるくると同じように、世界共通らしい。
★★★★☆ 4.0
kakeru sunayama さん 男性 30代
リピ確です!
初訪問💈このお店のスタッフさんは言葉の通じない私にも気さくに対応してくれてミッキー・ファン・デ・フェンぐらいカッコよくしてくれました🥰(いや、顔は全然ちげーだろ‼️爆)
大変満足したのですが、シャンプーをしてもらえなかったので⭐️4評価とさせていただきました😢オランダではそれが普通なのかも…😅笑
でも、腕は確かで💪お店の雰囲気もとても良かったのでまたお世話になりたいと思います✨

完
この散髪で母を思い出し、手紙を書きました。
ロバーツの出会いはこちら
