光バイト 第三話
第三話 夕焼けのキャッチボール
十月の終わり。
空は高く、
風は少し冷たくなっていた。
フェリーチェの窓際。
ソフィ席。
蒼は企業研究の本を読んでいた。
しかし頭に入らない。
「どうした?」
恒一がコーヒーを置く。
「分からないんです。」
「何が?」
「仕事です。」
蒼は本を閉じた。
「何が向いているのか。」
「どんな仕事がしたいのか。」
「全然分からなくて。」
恒一は少し考えた。
「じゃあ今日も光バイトに行っておいで。」
依頼書を差し出す。
【光バイト】
児童養護施設イベント補助
「児童養護施設?」
「そう。」
「子ども達と遊ぶ仕事だ。」
「俺、子どもに人気ないですよ。」
「そうかな。」
恒一は笑った。
「奈々さんのところの翔太君には人気だったけど。」
蒼は少し照れた。
翌日。
蒼は児童養護施設を訪れた。
施設の名前は
「ひまわりの家」。
今日は秋祭りの日だった。
ヨーヨー釣り。
輪投げ。
射的。
焼きそば。
子ども達は大はしゃぎ。
しかし、
その中で一人だけ離れた場所にいる男の子がいた。
小学五年生くらい。
帽子を深くかぶり、
グラウンドの端に座っている。
蒼は近づいた。
「祭りやらないの?」
「別に。」
そっけない返事。
「名前は?」
「悠真。」
それだけだった。
ふと見ると、
足元にグローブが置いてある。
「野球好きなの?」
悠真は小さく頷く。
「好き。」
「じゃあやればいいじゃん。」
悠真は目を逸らした。
「下手だから。」
蒼は思わず笑った。
どこか昔の自分みたいだった。
就活で失敗していた頃
どうせ自分なんて。そう思っていた。
「じゃあキャッチボールしよう。」
「え?」
「俺も下手だから。」
「嘘だ。」
「本当だって。」
悠真は少しだけ笑った。
その笑顔を見て、
蒼も嬉しくなった。
最初はぎこちなかった。
しかし、
キャッチボールを続けるうちに、
会話が増えていく。
好きなゲーム。
好きな食べ物。
学校の話。
将来の夢。
気づけば、
二人は何時間も話していた。
夕方。
空がオレンジ色に染まる。
帰る時間になった。
蒼が荷物をまとめていると、
悠真が近づいてきた。
「なあ。」
「ん?」
「また来る?」
蒼は少し驚く。
「たぶん。」
悠真は首を振った。
「たぶんじゃなくて。」
「約束。」
その言葉が、
妙に胸に響いた。
「分かった。」
蒼は笑う。
「約束。」
悠真も笑った。
帰り際。
施設の職員が声をかけてきた。
「ありがとうございます。」
「悠真くんがあんなに笑ったの、久しぶりなんです。」
蒼は驚いた。
「そうなんですか?」
「ええ。」
「大人を信じるのが苦手な子なんです。」
「約束なんて、ほとんどしないんですよ。」
蒼は胸が熱くなった。
フェリーチェへ戻る。
店内にはビーフシチューの香り。
ソフィは、
パン屋のおじさんからもらったクロワッサンを見つめている。
完全に仕事モードではない。
「おかえり。」
恒一が言う。
蒼は席に座った。
しばらく黙る。
そして言った。
「店長。」
「ん?」
「必要とされるって。」
「嬉しいですね。」
恒一は微笑んだ。
「そうだね。」
「人は誰かの役に立った時も嬉しい。」
「でも。」
「誰かに必要とされた時は、もっと嬉しい。」
蒼は窓の外を見る。
ステンドグラスの光。
夕焼け。
今日の悠真の笑顔。
その時、
初めて思った。
もしかしたら自分は、
人と関わる仕事が好きなのかもしれない。
人の話を聞くこと。
人を支えること。
人の成長を応援すること。
それが自分らしいのかもしれない。
ソフィがやってくる。
蒼の足元に伏せる。
しかし、
パン屋の扉が開いた瞬間、
立ち上がった。
一直線。
パンへ。
蒼は笑う。
「台無しだな。」
恒一も笑った。
「ソフィらしいだろ?」
店内に笑い声が響く。
その温かい時間の中で、
蒼は少しずつ、
自分の未来の形を見つけ始めていた。
第四話へつづく 🐶🥐☕🌇📖✨
