アレな人たちに散骨が見つかる前に読んでほしい本 川内有緒『晴れたら空に骨まいて』
数年前に読んだ本を再読
先日、『エンジェルフライト国際霊柩送還士』という本を読みました。
海外で客死した人たちの遺体を祖国へ送る「国際霊柩送還士」の仕事に密着したノンフィクションです。
この『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』を読んでいて、思い出したのがこちらの本でした。
チェコで客死した男性を現地で火葬し、遺骨を持ち帰るというエピソードが収められているからです。
川内有緒『晴れたら空に骨まいて』
あらすじ
散骨という弔い方を選んだ家族の物語。
散骨された故人たちの人生と、散骨を選んだ遺族たちの思いに迫ったノンフィクションです。
彼らはなぜ散骨を選び、どのように実行したのか。
徹底的に「人」にこだわる
散骨がテーマの本ではありますが、散骨の現状や文化圏ごとの受け止め方の違いを解説する本ではありません。
本書の主題は、あくまで「人」。
散骨される側の人生や人となり。
そして、散骨を選ぶ遺族との関係や、家族を失った心情です。
チェコで家族を火葬する話
本書には6つの家族が登場します。
例のチェコの話は、3番目の「緑色のノート」という章です。
簡単に紹介すると——
ヨーロッパに長期旅行に出かけた父が、チェコで倒れます。
家族は全員でチェコへ向かい看病しますが、父は意識を取り戻すことなく亡くなります。
家族は現地で父を火葬し、遺骨を日本へ持ち帰る。
日本での葬儀を終えた後、彼らは再びチェコを訪れます。
父の骨を撒くために。
なかなか壮絶な出来事です。
けれど描写は淡々としていて、ときにユーモアすら交じるため、過度な悲惨さはありません。
とはいえ、当然ショックは大きかったようです。
語り手である娘は、緑色のノートに父のことを書き綴ることで、少しずつ心の平穏を取り戻していきます。
娘さんの職業は編集者。
やはりこういう時、人は慣れ親しんだ営みにすがるものなのかもしれません。
他にも登場する個性的な家族
ほかにも、
自ら粉砕した夫の遺骨をフィルムケースに詰め、世界各地の観光地で撒く妻。
「マカルー(ヒマラヤ山脈にある世界第5位の高峰)に眠りたい」という登山家の夫の願いをかなえるため、山嫌いにもかかわらず登山に挑んだ妻。
などが登場します。
一般的とは言えない弔い方を選ぶ家族は個性派ばかり。
けれど、どの物語にも確かなものが流れています。
「愛」と「絆」に代わる言葉を求めて
大雑把にまとめてしまえば、全ての家族に共通しているのは「愛」と「絆」です。
当然といえば当然です。
手間もお金もかけて特別なことをするのですから、そこに何もなければ成り立ちません。
けれど……
愛とか絆とか、言葉にしてしまうと、なぜこんなにも胡散臭くなってしまうのでしょう。
「愛」という単語には、特別感と湿気がつきまとう。
一歩間違えれば執着に変わり、大惨事の匂いさえ漂わせる。
「絆」は、作中の遺族の一人が語るように、どこか押し付けがましい。
既存の語彙で最も近いのは、たしかに「愛」と「絆」。
でも、どうもしっくりこない。
もっと乾いていて、もっと日常的で、ただそこにあるもの。
それを言い表す言葉はないものか。
そう思いながら読み進めていると、最後にぴったりの言葉が出てきました。
著者の父が、生前に娘(著者の妹)と交わした最後の言葉。
「あいしてるよー」
「愛してるよ」ではなく、「あいしてるよー」。
漢字の持つ重みを排した、少し間の抜けた響き。
このくらいが、ちょうどいい。
「あいしてるよー」という文字列は、目にした瞬間、心の奥に落ちてコトリと乾いた音を立てて収まった。
まるで、よく焼かれた骨のように。
嫌な未来予想
蛇足かもしれませんが、最後にひとつ予想を。
散骨は比較的新しい弔い方なので、いまのところ細かな決まりは多くありません。
けれど、そのうちきっと余計なことをする人たちが現れるでしょう。
「骨を撒くときは○○の方向を向くのがマナーです」
「容器の素材は○○でなければなりません」
「服装は女性が○○、男性が○○で……」
「素材と色は……」
「マナーです」「失礼です」「マナーです」「失礼です」……
うるさいなぁ。
せめてあと数十年くらいは、そっとしておいてくれないだろうか。
少子化や多様性の時代、「弔い」の形もこれから変わっていくのでしょう。
どんな方法を選ぶにしても、本質だけは見失わずにいたいものです。
今回紹介した本

Kindle Unlimitedについてはこちらでも説明しています。

いいなと思ったら応援しよう!
よろしければサポートお願いします。
本買います。