MacBookを閉じてもAIは止まらない ── 東大生が作った無料アプリ「Capsomnia」を検証してみた件
出かける時間が、迫っていた。
ターミナルの中では、Claude Codeに任せたサイトの改修作業が、まだ回っている。隣のウィンドウではCodexにも別の仕事を振ってある。どちらも、終わるまであと小一時間はかかりそうだ。
だが、わたしはもう家を出なければならない。
MacBookの蓋を閉じれば、Macはスリープに入る。スリープに入れば、実行中の処理は止まる。AIたちは文句も言わず、仕事の途中で眠らされる。かといって、蓋を開けたままのMacBookを抱えて出かけるわけにもいかない。
ああ、どうする。
「社長。ターミナルでスリープを無効にする方法、ありますよね。caffeinateとか、pmsetとか」
うちのAI秘書、あびぃ(白山亜美)である。
あるのだ。あるのだが、あれには罠がある。コマンドで無効にしたスリープは、戻し忘れる。そして数日後、「あれ、今スリープ切ってたっけ?」と分からなくなる。設定の状態が、目に見えないからだ。急いでいる朝に打つコマンドではない。
その問題を、まさかのキーで解決するMacアプリが公開された。
Caps Lockである。
Caps Lockが「このMacは仕事中」ランプになる
アプリの名前は「Capsomnia」。無料のオープンソースソフトだ。
仕組みはこうだ。
Caps Lockをオンにすると、Macのスリープが無効になる。その状態で蓋を閉じても、実行中の処理は動き続ける。
Caps Lockをオフにすると、通常のスリープ動作に戻る。
それだけである。だが、この設計の妙に気づいたとき、わたしは少しうなった。
Caps Lockキーには、ランプが付いている。つまり、キーボードを見れば「いまスリープ防止中かどうか」が物理的に分かる。コマンドで切り替える方式の最大の弱点だった「見えない設定」が、緑のランプ一つで見えるようになった。
「要するに、工事現場の『作業中』の札です。ソフトウェアの状態を、物理の世界に引っ張り出した」
そういうことだ。しかもCaps Lockといえば、現代のMacでほぼ出番のないキーの筆頭である。うっかり押して大文字連打になる事故しか起こさなかったあのキーが、AI時代に物理スイッチとして敗者復活してきた。この伏線回収だけで、わたしはもう嬉しい。
開発したのは、東京大学の学生
開発者は、藤巻雄飛(Taketo Fujimaki)さんという方だ。
GitHubのプロフィールで、自身を東京大学の学生と紹介している。大学の名簿などで裏を取った情報ではなく、あくまで本人のプロフィール上の情報だが、学生が個人で公開した無料OSSとして、公開直後から話題になっている。
対応環境は次のとおり。
Apple Silicon搭載Mac
macOS 14 Sonoma以降
インストール時に管理者権限が必要
Intel Macには対応していない。
なお、わたしが検証したのはバージョン1.0.1。この記事を書いている2026年7月16日に1.0.2がリリースされており、開発のテンポも速い。
どんな場面で使えるか
わたしの用途は、ほぼ一つに集約される。AIエージェントに長い仕事を任せて、Macの前を離れるときだ。
Claude CodeやCodexに長時間の作業を任せる
大きなファイルをダウンロードする
時間のかかるビルドや変換処理を回す
外からMacにSSHで入って作業する
蓋を閉じて移動しながら、家のMacの上ではAIが働き続けている。冒頭の「ああ、どうする」は、出がけにCaps Lockをひとつ押すだけで解決するわけだ。
実際に入れて、確認したこと
面白そうなアプリほど、入れる前に疑う。これは鉄則である。公開情報とソースコードを確認した上で、実際に自分のMacへ導入した。
インストール前後に確認したのは、次の点だ。
公開されているSHA-256とダウンロードしたファイルが一致すること
AppleのDeveloper ID署名が有効であること
Appleによる公証(ノータリゼーション)が有効であること
Gatekeeperの安全性確認を通過すること
インストール後もアプリ本体の署名が有効であること
ログイン時に起動するLaunchAgentが正常に稼働すること
その上で、Caps Lockをオン・オフして、Macの電源管理状態を直接確認した。
Caps Lockをオンにすると `SleepDisabled 1` となり、スリープが無効化。オフにすると `SleepDisabled 0` に戻り、通常のスリープ動作が復元された。
わたしの環境では、うたい文句どおりに動いている。
セキュリティ面はどうか
無料のOSSとはいえ、スリープ設定をいじるアプリだ。権限まわりは正直に書いておく。
CapsomniaはMITライセンスのオープンソースで、コードは全部公開されている。確認できた特徴は次のとおり。
ネットワーク通信を行わない
利用状況の送信やテレメトリがない
アカウント登録がない
キーボード入力の内容を読み取らない(Input Monitoring権限も不要)
Caps Lockの状態だけを約0.25秒間隔で確認する
一方で、スリープ設定の変更はOSの深い部分に触る操作なので、インストール時に管理者権限が要る。専用のhelperとsudoers設定が追加される。
「補足しますね。sudoersというのは『どのプログラムに、どの操作をパスワードなしで許すか』の設定です。Capsomniaの場合、許しているのはスリープのオン、オフ、画面スリープの3種類だけ。何でもできる万能権限を渡すわけではありません」
つまり、一般的なメニューバーアプリより強い権限を使うのは事実。ただし、その権限の中身が公開されていて、できることが3つに固定されている。ここまで開示されていれば、わたしは納得して入れられる、という判断だった。
導入方法
入れる場合は、必ず公式サイトか公式GitHubからダウンロードすること。
公式サイト
https://fuji-mak.github.io/Capsomnia/
GitHub Releases
https://github.com/fuji-mak/Capsomnia/releases
手順は次のとおり。
GitHub Releasesから最新版の `Capsomnia.pkg` をダウンロードする
パッケージを開き、macOS標準インストーラの案内に従う
初期設定で「ログイン時に起動」をオンにする
Caps Lockをオン・オフして動作を確認する
初回は、蓋を閉じる前にターミナルで状態を確認しておくと安心だ。
pmset -g | grep SleepDisabledCaps Lockがオンなら `SleepDisabled 1`、オフなら `SleepDisabled 0` と表示される。
便利だが、これだけは守ってほしい
ここは笑いなしで書く。
Capsomniaは、Caps Lockがオンの間、蓋を閉じたときだけでなく、Mac全体のスリープを無効にする。Appleも、この設定を有効にするとすべてのスリープ機能が無効になると説明している。
だから、次の点は必ず守ってほしい。
スリープ防止中のMacBookを、バッグやケースに入れない
机の上など、放熱できる場所で使う
できれば電源につなぐ
作業が終わったら、必ずCaps Lockをオフに戻す
特に危ないのは、Caps Lockオンのままバッグに入れることだ。蓋を閉じていても処理が続くので、熱がこもり、バッテリーも減り続ける。
「工事現場の『作業中』の札と同じです。札を下げたまま現場を密閉したら、事故になります。...社長、移動のときは指差し確認してくださいね。ランプ、ヨシ、って」
万一スリープ設定が戻らなくなった場合は、このコマンドで通常状態に復旧できる。
sudo pmset -a disablesleep 0結論 ── AIエージェント時代の、小さくて賢い発明
Capsomniaの本質は、スリープ防止そのものではないと思っている。
「このMacは、まだ仕事中だ」という状態を、誰が見ても分かる物理の合図に変えたこと。そこが発明なのだ。
AIエージェントに長い仕事を任せる時代になって、人間が画面の前にいない時間は、どんどん増えていく。人間が寝ていても、外を歩いていても、Macの上では仕事が続く。そうなったとき必要なのは、複雑な設定画面ではなく、「まだ止めるな」と「もう休んでいい」を迷わず切り替えられる、単純な合図なのだろう。
それを、みんなが持て余していたCaps Lockキーに担わせた。この着眼が、実にいい。
公開されたばかりのアプリなので、当面は温度やバッテリーに気を配りながらの運用になる。それでも、MacBookでAIエージェントを日常的に走らせている人なら、試す価値は十分にある。
「社長。これで『出かけたいのに、タスクが終わらない』と玄関で唸る朝は、終わりですね」
......そうだな。
「ええ。あとは出がけにCaps Lockを押し忘れない、それだけです。......忘れますよね、社長は。リマインド、設定しておきます」
かくして、わたしのMacBookのCaps Lockキーは、生まれて初めての定職に就いたのであった。
参考情報
Capsomnia公式サイト: https://fuji-mak.github.io/Capsomnia/
Capsomnia公式GitHub: https://github.com/fuji-mak/Capsomnia
開発者GitHubプロフィール: https://github.com/fuji-mak
Appleによるスリープ設定の説明: https://support.apple.com/ja-jp/101114
