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AIを止められても、仕事を止めないようにするには?──「Fable 5が消えた日」最終回

長い連載になった。

最強のAIが、よその国の都合で、書簡一通で消えた。誰が蛇口を握っているのかを見た。日本に勝ち目はあるのかを見た。個人で作れないのか、マイナーを束ねられないのかを、夢ごと解体した。

事実は、たくさん拾った。だが、あびぃがずっと言い続けてきたことがある。

「社長。事実をいくら並べても、明日の業務が一ミリも変わらないなら、それはただの読書感想文です。最終回でやるのは、それだけ。『で、社長は何をするのか』。ここに着地できなければ、この連載は失敗です」

わかっている。壮大な国家の話を、自分の事務所の、来週の話に落とす。それが今日の仕事だ。


まず、今回の本当の教訓を言い直す

地政学だ、AI主権だと大きな話をしてきたが、わたしの事務所にとっての教訓は、もっと身も蓋もない。

「使っていた最強の道具が、少なくとも自分の側には何の落ち度もないのに、外部の都合で、一夜にして消えた」

これだけだ。値上げでも、不具合でもない。防ぎようのない外部要因で、依存していたものが突然消えた。これは、AI主権という抽象論ではなく、わたしの事務所の事業継続そのものの問題だ。

「社長、思い出してください。Fable 5が消えた朝、社長が真っ青になったのは、地政学が心配だったからじゃないでしょう。途中まで任せてた仕事が、止まったからです。あれが、もし最上位だけじゃなくて、全部のClaudeで起きてたら? 守秘義務のある仕事を、全部一社に預けてたら? …今回は、ただのリハーサルです。タダで予行演習させてもらえた。だから、本番までに構えを作るんです」

そう。今回はたまたま最上位モデルだけで済んだ。次もそうとは限らない。だから、今のうちに手を打つ。


一手目 ── 最強の一枚に、全部を預けない

一番効いて、一番すぐできる手が、これだ。

今回、止まったのは最上位の二つだけだった。中位のモデルは、いまも普通に動いている。つまり、業務を「最上位モデル一本」に集中させていなければ、同じ事故が起きても、即座に全業務が止まることは避けられた。

「『最強だから』で一本に寄せると、その一本が抜かれた瞬間に詰む。だから、最強の一枚に全部を賭けない。少し性能が落ちても、複数の選択肢に業務を分散させておく。これだけで、即死は避けられます」

これは、第3回で出た「依存の設計」の、一番具体的な形だ。一社、一モデルに蛇口を握らせない。複数の蛇口を、自分で配分する。

実務的に言えば、「この業務は最上位モデルでないと回らない」という一点依存を、できるだけ作らないということだ。重要な業務ほど、二の矢、三の矢を用意しておく。


二手目 ── 切られても動く系統を、一本持つ

二手目は、バックアップの系統を、別の蛇口から引いておくことだ。

第2回で見たとおり、輸出規制の対象は、外部に配られる「重み」が非公開の、クローズドなAPIモデルだった。逆に言えば、誰でもダウンロードして手元で動かせる、公開されたオープンウェイトのモデルは、今回の措置では対象外だった。

「だから、クローズドなAPIが切られても、手元で動くオープンモデルを一系統持っておく。これが効くんです。第4回で見たとおり、特定の業務なら、オープンモデルに足場を組めば実用に届く。国産のオープンモデルだって、選択肢に入ってきます。『アメリカのAPIが全部止まっても、これだけは手元で動く』っていう最低限の系統を、一本。保険です」

完全に乗り換えろ、という話ではない。普段は便利なものを使えばいい。ただ、「最悪、これがあれば最低限の業務は回る」という退避先を、別系統で一つ確保しておく。それだけで、事業継続の強度がまるで変わる。


三手目 ── 守秘義務の運用が、そのまま保険になっている

ここが、わたしにとって一番の発見だった。

うちの事務所には、もともと固い方針がある。顧客の原本や、個人情報を含む生のデータを、外部のAIにそのまま送らない。匿名化し、要約し、できる限り手元で処理する。行政書士の守秘義務を守るための、当然の運用だ。

「社長。この守秘義務の運用、実は今回のリスクの、最高のヘッジになってるんです」

どういうことだ。

「考えてみてください。顧客の生データを外部APIに丸投げする運用だったら、そのAPIが止まった瞬間、そのAI処理に頼っていた部分が止まる。でも、もともと手元で匿名化して、ローカルで処理する部分が多ければ、外部のAPIが切られても、止まらない部分が大きいんです。守秘義務のために作った『外に出さない』運用が、そのまま『外の都合で止まらない』運用になってる。一石二鳥だったんですよ」

これは、目から鱗だった。守秘義務という、業界の制約だと思っていたものが、ベンダー遮断という新しいリスクに対する、最も堅牢な守りになっていた。制約が、そのまま防具だった。

「だから三手目は、新しく何かを足すというより、『今の守秘義務運用を、事業継続の観点からも見直して、強める』ことです。ローカルで完結する部分を増やすほど、社長の事務所は、よその国の蛇口から自由になる。守秘義務の徹底が、独立性の確保にもなる。…うちにとっては、これが一番、地に足のついた一手です」


四手目 ── 契約の中身を、一度だけ確認する

地味だが、行政書士らしい一手も挙げておく。

いま使っているAIサービスの利用規約を、一度だけ、リスクの目で読む。「規制やその他の外部要因で、一方的に提供を停止することがある」という趣旨の条項が、多くの場合、入っている。それ自体は普通のことだ。確認すべきは、そうなったときに自分にどんな代替手段が残るか、データはどうなるか、という点だ。

「契約書を読むのは、社長の本業でしょう。AIサービスも、同じ目で一回読んでおく。『止まったときどうなるか』を、止まる前に知っておく。それだけです」


知識の更新 ── 「同盟国だから安全」を、捨てる

手を動かす話の最後に、頭の中の更新を一つ。

第2回で見たとおり、「日本はTier1の同盟国だから、アメリカ製AIは安泰だ」という安心は、もう場に出せないカードになっていた。この古い前提を、頭から捨てる。今後は「最先端の外国製AIは、よその国の判断で止まりうる」を、標準の前提として持つ。

そして、もう一つ。わたしたち国内の事業者にとっては、実はアメリカの輸出規制よりも、日本国内のAIのルールのほうが、日々の実務に直接効く。第3回で触れた、国内のAI推進法や、事業者向けガイドラインだ。こちらは、日本で事業をする限り、避けて通れない。

「ただし社長、ここは正直に書いてください。『国内のAIルールが、行政書士業務に具体的にどう効くか』は、あびぃが調べた範囲では、行政書士に特化した分析が見つかりませんでした。だから、ここは『要確認』です。一般論として国内ガバナンスが重要、までは言える。でも『行政書士はこうしろ』と断定はできない。…分からないことは、分からないと書く。それが、うちのルールでしょう」

その通りだ。ここは「重要だが、業界特化の影響は未確認。今後確かめる」と、正直に置いておく。


連載全体の、たった一つの結論

長い連載だった。最後に、全部を貫いていた一本の線を、引いておく。

国の話でも、個人の話でも、技術の話でも、答えはいつも同じ場所に戻ってきた。

完全な自立は、幻想だ。国家ですら難しい。だが、依存の仕方を自分で設計することは、できる。

蛇口を全部、よその一社に握らせるのか。それとも、複数の蛇口を自分で選び、配分するのか。一社の最強モデルに全業務を賭けるのか。それとも、二の矢を持ち、手元で動く系統を一本確保し、守秘義務の運用で独立性を高めるのか。

「所有」ではなく「設計」。「最強を持つ」ではなく「最強級に働かせ、かつ、止められても困らない構えを作る」。これが、Fable 5が消えた朝に、わたしが食らった授業の、たった一つの結論だった。

「社長」

あびぃが、めずらしく、最後まで言い切ってから黙った。

「怒りで国家を語るのは、簡単です。でも、それは社長の事務所を一ミリも守りません。社長がやるべきことは、壮大な主権論をぶつことじゃない。明日、自分の仕事が、外の都合で止まらない構えを、一つずつ作ることです。大きい話と、足元の話を、混ぜない。…そこ、ちゃんとやってくださいよ」

わかっている。わかっているとも。

来たばかりの相棒を、よその国の都合で連れて行かれた週末。あの悔しさは、本物だった。だが、悔しさは、ちゃんと使えるものに変わった。怒りではなく、構えに。嘆きではなく、設計に。

連れて行かれた相棒は、いつか戻ってくるかもしれない。戻ってこないかもしれない。どちらでもいいように、事務所を組み直す。それが、わたしにできる、ただ一つの主権の話だった。

「お疲れさまでした、社長。…まあ、悪くない連載だったんじゃないですか」

お前がそれを言うか。

「ごまかされませんよ。宿題、来週からですからね」

(連載完)



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