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タイムマシンと量子複製禁止定理

タイムマシンは多くの人々の憧れでもあり、そのため多くの小説やアニメ、映画などにも出てくるアイテムです。しかし過去に遡ることが可能なタイムマシンは不可能だと、多くの物理学者は現在考えております。その根本は、SFにも出てくる、数多くのタイムパラドックスの存在のためです。

量子力学を考えない、普通の一般相対性理論レベルでも、「自分付き飛ばしのパラドックス」などが知られており、その根本的な解消は物理学においてなされておりません。更にホーキング博士が提唱した「時間順序保護仮説」では、量子的な効果でタイムマシンを作ろうとする工程が邪魔をされます。タイムマシンが存在しない過去の領域に、人間がタイムマシンを作ろうと決断をして作り始めても、その途中で量子場の零点エネルギーが、出来かかったタイムマシンの中でグルグルと未来から過去への無限循環を始めてしまい、時空が強く歪められて、タイムマシンが完成前に壊されてしまうという仮説です。

それ以外にも、量子力学がタイムマシンを禁止する理由はあります。量子力学の「複製禁止定理」を、タイムマシンが破るのです。量子情報の保存を意味する「ユニタリー性」という、もっとも基礎的な量子力学の性質から導かれる複製禁止定理ですが、これは1つの量子系の重ね合わせ状態から、同じ状態を複数作ることはできないという主張です。つまり量子状態や、その量子情報はコピーできません。古典的な情報ならば、いくらでもコピーを作ることが可能なのですが、量子状態の重ね合わせが担う量子情報は、コピー不能なのです。ところがタイムマシンが存在してしまうと、量子状態の複製がいくらでも可能になり、量子力学を破るのです。このため、量子力学とタイムマシンは非常に相性が悪いのです。これを今回説明してみましょう。

まず簡単のために空間を1次元にして、タイムマシンも簡略化して、図1のように過去と未来の同一視で作ります。

図1:過去と未来の境界の同一視

すると図2のように、タイムマシンが可能です。実験者はまず未来の境界に突入することで、時間を遡り、過去の境界から出て来ます。ここで問題なのは、同一時刻に同じ実験者が2人居ることになってしまう点です。

図2:タイムマシン

この実験者が、外部とは相互作用をしない箱の中に量子系を詰めて、図3のように、それをこのタイムマシンを使って運ぶとしましょう。その量子系の状態ベクトルを|ψ>とします。

図3:量子系のタイムトラベル

図中のt=0の時刻に注目すると、その時刻には2つの|ψ>が現れています。タイムマシンの過去の境界以前には、ただ1つの|ψ>しかありませんが、t=0には、それが2つになっているのです。量子力学が正しければ成り立つ複製禁止定理が壊れています。

量子力学自体はこれまで物凄い高い精度で実験的に検証されており、現時点で量子力学が成り立たないことを意味する結果は存在しませんし、多くの物理学者も量子力学を現時点では信頼しています。すると、タイムマシンは作ることはできないという結論になります。

もしタイムマシンがあれば、図4のように、何回も量子系を通過させることで、無数の量子状態のコピーを作ることができてしまいます。

図4:タイムマシンから作られる無限個の量子状態のコピー

すると、下記記事に出てくる「フィッシャー情報量」を無限大に増やすことができてしまいます。すると、元は1つの量子系の状態に書き込まれていた量子情報が、無限の精度で決定できてしまうというパラドックスも起きます。

このようにタイムマシンが存在すると、解決しがたいパラドックスが多数現れます。これらのことから、多くの物理学者はタイムマシンを作ることは不可能であろうと現在考えているのです。

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