「事はまさに実を務むべし」/宮崎市定先生を慕って―連作「科挙 中国の試験地獄」(12)
第十二話 事当務実
いよいよ最終回です。エッセイ風にいこうと思います。
第二話でも触れた通り、科挙の前の官吏登用制度(九品官人法)は、マジで「最強のコネ採用」だった。
受かるのは貴族や権力者の息子ばかり。その結果、「漢字?読めませ〜んwww」みたいな子が官僚になるのは、まだ可愛い方だ。
実際、こんな「お姫様」みたいな男子たちが国を動かしていたのだから、まったく笑えない。
(一)馬を見て「キャー!トラだぁ!怖い〜(泣)」とガチ泣きする軟弱男子。
(二)一人で歩けないし、ちょっとビックリすると即・気絶。……か弱すぎ(笑)。
気絶するなら死ねばいいのに。
こんなメンツ、国民からしたら「マジでやってらんねえよ」という話である。
皇帝が「これやっといて」と頼めば、「え〜、そんな泥臭い実務ムリ〜。パパにチクるよ?え〜ん(泣)」と言って逃げる。
皇帝からすれば、「こっちは統治に責任持ってんだよ!」というブチギレ案件だ。
だから皇帝はコネ組を無視して、身分は低くても仕事ができる「現場主義」の人たちを使い始める。
だが、コネ採用全盛期の貴族たちは、プライドだけは天を突き抜けている。
「ねえ陛下ぁ〜!あの下っ端、私のことシカトしたんだけど!?パパに言いつけるよ?」
「……いや、君こないだ『仕事ムリ』って言ったじゃん。だから彼がやってるんだよ。ことば通じてる?」
「えええ!そんなこと、ボクに言っていいのかな~(笑)一族みんなボイコットさせるよ?謝るなら今のうちだよぉ?(笑)ねえ、今どんな気持ち?格上のボクちゃんに詰められて、今どんな気持ち〜??」
(……コイツ、マジでコロす。絶対隙を見つけて一族ごと社会的に抹殺してやる……!)
歴史の教科書には「皇帝権力の確立を貴族が掣肘(せいちゅう)」なんて難しく書かれるが、中身はただのドロドロな人間関係の地獄だ。
……まあ、現代でもこういう「コネだけの無能」はまだ居る。さらには「試験採用組」にも紛れ込んでいる。
笑えねえ……。
歴代皇帝たちのメンタル崩壊っぷりを見ていると、「あー、病むのもわかるわ……」と同情すら覚える。
当時の「やばい皇帝特選」がこちら。
(一)仏教に課金しすぎた皇帝
四十八年も頑張ったのに、最後は北から来た「宇宙大将軍:実在した官職名です(笑)」に反乱を起こされ餓死。ネーミングセンスよ……。
(二)井戸に隠れたパリピ皇帝
負け確なのに毎日宴会。最後は女二人と井戸に隠れているのを見つかるという、ダサすぎて泣ける幕引き。
(三)芋づる式死刑事件
不都合な事実を書いた大臣の関係者を、友人知人含め芋づる式に消去。
親・子・兄弟でコロし合う、もはやホラー映画。
(四)露出狂のアル中皇帝
ストレスでアル中になり、真冬に全裸で走り回る。
酒飲んで自ら人を解体する。
有能だったはずなのに、環境が人を変えすぎた。
(五)不倫スパイラル皇帝
兄帝の死後、未亡人を脅して子を産ませ、自分の妻も不倫三昧。
登場人物全員ヤバい。
(六)雑魚ども
快楽殺人、荒淫、薬物ジャンキー……わんさかいるが、もうお腹いっぱいだ。
結局、試験で実力を測る「科挙」が始まるまでは、政治の主導権争いが不安定すぎて、登場人物が全員「マクベス」のような狂気の世界。
……これに比べたら、今の就活や仕事の悩みなんて、まだ平和だと思えてくるから不思議だ(笑)。
隋が導入し、唐も本格採用した「科挙」。
最初は貴族もしつこく残ってて、「科挙?下々が必死にやるテストでしょ?俺らは生まれつきエリートだし(笑)」とかほざいてた。
でもね、世論は残酷。国民はもう「血統しか価値のない、頭がパーな貴族坊ちゃん、ダッサ(笑)。これからは実力で科挙突破した『進士』でしょ!マジ尊敬。俺らの希望だわ!」って感じに、心変わりしちゃった。
こうなると焦るのが貴族連中。 「俺、全然バカじゃねえし!やればできるし!金も暇もあるし!お前ら賤しい連中とはスペックが違うし!」とか言い出して、プライド守るために少しずつ科挙に流れ込み始めた。
……で、社会から置いていかれたボンボンが消えて「爽快!」って思ってたのも束の間。科挙に合格して入ってきた「元・貴族」たちが、今度は現場でこんなこと言い始めるわけ。
「あ、僕、試験もパスしたんで実力あるし。ついでに家柄も超一流なんで、実力もコネも両方持ってる『ハイブリッド・エリート』なんですよ。……ねえ、今どんな気持ち?(笑)」
これには、必死に勉強して合格した一般庶民組も「マジで死ね……」ってなったはず。
結局、制度が変わっても、人間が「誰かを下に見たい」って思ってる限り、地獄のアップデートは止まらないんだよね。
結論を先に言うと、唐が滅んだとき、あのウザかった貴族も一緒に滅んじゃった。
なんでかって?
メンタル削られながらも地道に頑張ってきた、あの歴代の「病み皇帝」たちの呪いがここで発動したのよ。
皇帝たちは、何百年もかけて貴族の牙を一本ずつ抜いてたんだよね。
まず軍隊から貴族を切り離し、次に実務から切り離した。
気づけば貴族は、ただそこに座っているだけの「床の間のお飾り」状態。
中身は空っぽなのに、ラベルだけは「超高級ヴィンテージ(血筋)」っていう、ただのプライドの塊(笑)になってたわけ。
そんな時、事件は起きた。
科挙に落ちまくってメンタルが限界突破した浪人生、黄巣(こうそう)がキレて大暴れ(黄巣の乱)。
唐という国がバラバラになったとき、自分で自分を守る術を持たない貴族たちは、格好のターゲットになっちゃった。
略奪され、追い詰められ、最後は文字通り「完全消滅」。
「パパに言いつけてやる〜!」なんて叫んでも、助けてくれるパパも家系図も、略奪者の前ではただの紙切れだったんだよね。
こうして、血筋が全ての「貴族の時代」は幕を閉じ、次からは実力と教養で勝負する「士大夫(したいふ)」の時代にバトンタッチしていく。 ……でも、新しい時代には、また新しい地獄が待ってるんだけどね(笑)。
科挙は隋・唐の約三百三十年間で、皇帝にすべての権力が集中する土台を作った。
でも、その後の「五代十国」っていう超絶ハードな乱世では、試験どころじゃないから一時的にスカウト採用がメインに。
このスカウト組、マジでかっこいいんだ。彼らの名セリフがこれ。
「事はまさに実を務むべしーー事当務実ーー」
――現実を見ろ!何事も実効性がすべて。現実に役立たない絵空事なんて、一片も不要。――
乱世だから、彼らは生き残るために、そして民を守るために、何人も君主を替えて仕えた。
そしたら後世、平和なぬるま湯に浸かってる連中が、安全地帯から彼らにこう吐き捨てたんだ。
「節操無しのクソビッチみたいだな」って。
いつの時代も、どこにでも、こういうヤツは居る。
特に今のテレビや動画サイトにうじゃうじゃ居る、ご意見番気取りの「腐れ評論家」とか「老害学者」。
あんたらのその平和な暮らし、このスカウト組が泥をすすりながら繋いでくれたおかげかもしれないんだよ?
当時の民衆がスカウト組をどう思っていたか、知ってる?
「私たちのことを本当に思ってくれたのは、大臣、あなただけでした」
「さらわれた妻や娘が、大臣のおかげで、私たちのもとに帰ってくることができました」
民衆は彼らを、心から讃えていたんだ。
スカウト組がどんな思いで、主君を替えてまで必死に仕事してたのか、想像できない?
「皇帝が仕事しないなら、微力でも俺たちがやるしかない」
「俺たちがやらなきゃ、民は死に絶える。民が死に絶えて、皇帝一人が安泰でいられるわけねえだろ!」
彼らは「美学」より「生存」を選んだ。自分の名誉が汚れることより、目の前の民が飢えることを恐れた。
これこそが、コネ採用のお坊ちゃんには一生理解できない、本物の「実務家」の魂なんだよね。
そして、バラバラだった中国が再統合され、「北宋」の時代がやってくる。
科挙の最盛期は、間違いなくこの時。進士(試験合格者)出身の名政治家が、スターみたいに次々と現れたんだ。
この国の初代皇帝、太祖・趙匡胤の遺した言葉が、これまたシビれるほどカッコいい。
「言論を理由として、士大夫(知識人)を殺してはならない」
おい、聞いてるか?後の明とか清の皇帝たち!
あんたらの時代が暗いのは、ちょっとした失言で首を飛ばすような、苛烈な言論統制と粛清のせいなんだよ。
北宋の時代には、ただの「一発勝負の試験」から「じっくり育てる学校教育」へのシフトも試みられたんだけど……残念ながら、予算不足でポシャっちゃった。
もしこの時、教育システムが完成してたら、中国の歴史はもっと変わってたかもしれないね。
そんなインテリ黄金時代を、脳みそ筋肉のモンゴル帝国(元)が力技でぶち壊しに来た。
彼らは学者を社会の底辺(下から二番目、物乞いのすぐ上!)に格付けして嘲笑い、政治への切符である「科挙」を奪い取ったんだ。
……でもね、ここからが面白いところ。
政治の道を絶たれ、強制的にニートされた士大夫たちは、その溢れる才能を別の場所へぶつけた。
それが「演劇(元曲)」。
今の中国の古典劇や脚本が神がかっているのは、この時、絶望したインテリたちがプライドをかけて筆を走らせたからなのかもしれない。
踏まれても、蔑まれても、彼らは形を変えて表現し続けた。
士大夫の魂は不滅だぜ!
寄生虫化した「脳みそ筋肉」のモンゴルを追い出して、明が現れた。
その明が勝手に滅んだ隙に、売国奴が清を引き入れた。
でも、明にはマキャベリズムの権化・張居正がいたし、清には国難に毅然と立ち向かった林則徐がいた。
覚悟の決まった「魂のイケメン」たちは、いつの時代もいたんだ。
士大夫のスピリット、死なず!
……でも、そんな彼らの精神を支えたはずの「科挙」は、もう制度疲労でボロボロだった。
西欧列強が「自然科学」というチート武器を手にし、「哲学」でメンタルを武装して世界を支配しにかかっていた、あの時。 「文章のルールをいかに美しく整えるか」なんて試験に命を懸けてて、勝てるわけない。
アヘン戦争、太平天国の乱、日清戦争、義和団戦争……。 なんだよ、この「地獄のムーブ」は。
ちなみに、太平天国の教祖様(笑)洪秀全なんて、科挙に四回落ちてメンタル逝っちゃった典型。
自分は戦わず、宮殿で荒淫に溺れた偽君子のクソ野郎。
今の時代、SNSで意識高いこと言いながら裏で何やってるかわからない「小才子」によくいるタイプだよね。
洪秀全のせいで三千万人も死んだんだけど。
これって結局、科挙というシステムに囚われすぎたせいでしょ?
かつての「事当務実(リアリズム)」のスピリットを失い、ただの形式美に成り下がり、国家が「白昼夢」を見たとき。中国は国難に対応できず、屈辱と悶絶の百年を歩まされることになった。
これは間違いなく、一つの悲劇だ。
……おい!光緒帝と康有為!聞いてるか?
お前らと西太后、どちらの統治期間が長かったっけ?
彼女が亡くなった後、清はどうなったっけ?
一九〇五年、科挙、廃止。
現代、この「事当務実」のスピリットは何処にあるのだろうか?
……それは、教科書の中にも、試験会場にもない。
日々の実務の中にしかない!
完
