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がんばっているのに、なぜ評価されないのか

正直に言う。

私は、努力は積み立てだと思っていた。

毎日少しずつ働けば、それが貯金のように溜まっていく。
いつか誰かが気づいてくれる。
そう信じていた。

だが、現実は違った。

どれだけがんばっても、評価は溜まらなかった。
むしろ、がんばるほど消えていくように感じることさえあった。

なぜか。

長い間、私はそれを「運が悪い」「上司が見ていない」のせいにしてきた。
だが、本当の理由はもっと構造的なところにあった。


努力には、二種類のメモリがある

コンピュータには、二種類の記憶領域がある。

ひとつはキャッシュ。
高速だが、電源を切れば消える。
一時的なものだ。

もうひとつはストレージ。
書き込みは遅いが、消えない。
電源を切っても残る。

人間の努力も、まったく同じ構造を持っている。

キャッシュ型の努力がある。
その場で処理を速くする努力だ。
今日のタスクを片付ける。
目の前の会議を乗り切る。
飛んできた依頼に即応する。

これは確かに有用だ。
処理速度が上がり、その瞬間は感謝される。

だが、電源が切れれば消える。
つまり、その日が終われば消える。

翌朝には、誰も覚えていない。

私が長年やっていたのは、ほとんどこのキャッシュ型の努力だった。
高速で、即応性が高く、その日のうちに賞賛される。
だから気持ちがいい。

だが、何も残らなかった。

がんばりは、評価の積み立てではない。
キャッシュへの書き込みである。


なぜキャッシュは溢れるのか

キャッシュには容量がある。

容量を超えれば、古いものから捨てられる。
これをキャッシュの追い出しという。

人間の記憶も、組織の記憶も、同じだ。

あなたが先月どれだけ徹夜したか。
半年前にどれだけ難局を救ったか。

それらは、新しい誰かの活躍によって、静かに追い出されていく。
悪意ではない。
容量の問題だ。

人の記憶領域は、想像以上に小さい。

だから「あれだけやったのに」という嘆きは、構造的には正しくない。
やったことは事実だ。
だが、それはキャッシュに書かれた。
そして、追い出された。

ここで多くの人が、間違った対処をする。

もっとがんばれば覚えてもらえる、と考える。
つまり、キャッシュへの書き込み速度を上げようとする。

だが、いくら速く書いても、キャッシュはキャッシュだ。
速度を上げれば上げるほど、追い出しも速くなる。

過労とは、キャッシュへの過剰書き込みである。

そして過労の果てに人が壊れるのは、書いても書いても残らないという事実に、ある日気づいてしまうからだ。

努力が足りないのではない。
書き込む先を、間違えているのだ。


ストレージに書ける人と、書けない人

では、評価される人は何をしているのか。

彼らは、ストレージに書いている。

ストレージへの書き込みは遅い。
地味で、その日のうちには賞賛されない。

だが、消えない。

ストレージ型の努力とは何か。

ひとつは、仕組みをつくること。
自分が処理していたタスクを、誰でも処理できる形に変える。
これは即応の反対だ。
今日の感謝は減る。
だが、半年後にも残る。

もうひとつは、判断の記録を残すこと。
なぜその決定をしたのか。
何を捨て、何を選んだのか。
それを言語化して残す人は少ない。

私が二十年の現場で見てきた中で、本当に長く評価された人たちは、例外なくこれをやっていた。
彼らは目立たなかった。
派手な火消しもしなかった。

だが、彼らがいなくなった後、組織は確かに困った。

それが、ストレージに書かれた努力の証明である。

ここで切り分けが要る。

キャッシュ型の努力が悪いわけではない。
組織はキャッシュなしには回らない。
即応する人がいなければ、本番障害は止まらない。

問題は、すべてをキャッシュに書いてしまうことだ。

速い努力は、賞賛される。
遅い努力は、残存する。

あなたが欲しいのは、今日の賞賛か。
それとも、半年後にも消えない何かか。

評価とは、書き込み速度の問題ではない。
書き込み先の選択の問題である。


自分のセンサーも、過信するな

ここで、ひとつ注意がある。

「自分はストレージに書いている」と思い込むことも、また危険だ。

仕組みをつくっているつもりで、ただ凝った資料を量産しているだけのことがある。
判断を記録しているつもりで、ただ言い訳を残しているだけのことがある。

人は自分の努力を、実際より価値あるものだと評価しがちだ。
これは、自分という観測装置のバイアスである。

だから、人を責めるより構造を見る。
そして同時に、自分を責めるより構造を見る。

評価されないとき、まず構造を疑う。
だが、構造を疑う自分の目もまた、構造の中にある。

分からないものは、分からないまま抱える誠実さがいる。

ここで提案したいのは、三つの問いだ。

第一に、その努力は半年後に誰かが参照できる形で残るか。残らないなら、それはキャッシュだ。

第二に、自分が三日休んだとき、その努力は消えるか。消えるなら、それは速度であって資産ではない。

第三に、賞賛を求めているのか、残存を求めているのか。両方は、たいてい同時には手に入らない。


速い努力と、消えない努力

最後に、構造から少し離れた話をしたい。

私は長い間、速く書くことが努力だと思っていた。
今日の感謝が、明日の評価になると信じていた。

だが、評価されなかった夜に学んだのは、努力の量ではなく、書き込み先だった。

そして、ひとつ気づいたことがある。

ストレージに書く生き方は、寂しい。

その日の感謝は減る。
誰も褒めてくれない。
速い人がもてはやされるのを、横で見ていることになる。

それでも残るものを選ぶというのは、孤独な選択だ。

だから、私はこう思っている。

すべてをストレージに書く必要はない。
半径三メートルの誰かを、今日少し安心させるための、速い優しさもいる。

ただ、自分の人生という一番大事なファイルだけは、消えない場所に書いておきたい。

がんばっているのに評価されないのは、あなたの努力が足りないからではない。
書いた先が、消える場所だっただけだ。

書き込み先を変えれば、努力は資産になる。

優しいまま、壊れないこと。
それは、根性ではなく、設計の問題である。


本シリーズ「人間を構造で読む」は、いずれ一冊の書籍として、努力と評価のすれ違いを構造から解きほぐす形にまとめたいと考えている。

気合や根性ではなく構造として自分を運用する。人を責めるより、構造を見る。自分を責めるより、構造を見る。優しいまま、壊れないこと。誰かに勝つ輝きではなく、自分を壊さず誰かを少し安心させられる光。短期評価ではなく長期残存価値である。

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