「仕事は最低限でいい」と思い始めた人へ。20年PMが教える「やる気が上がらない」の構造と防衛術
正直に言う。
私にも、ある。
「もう、最低限でいいや。」
そう思った時期が、確かにあった。
朝、椅子に座る。
画面を開く。
やるべきことは分かっている。
でも、手が動かない。
サボりたいわけではない。
ただ、それ以上をやる理由が、見つからない。
五十を過ぎても、私はそうだ。
怠けではなく、学習である
最初に言っておきたい。
あなたが「最低限でいい」と思っているのは、怠けているからではない。
人は、努力と成果がつながっているとき、自然と頑張れる。
逆に、そのつながりが見えなくなると、行動への意欲が静かに下がっていく。
これは性格の問題ではなく、心理の仕組みとして知られている話だ。
提案しても、潰される。
良い仕事をしても、誰も見ていない。
挑戦すると、面倒なことが増える。
本質ではなく、細かい指摘ばかりが返ってくる。
こういう環境に置かれると、人は無意識のうちに、ひとつの結論を学習する。
「頑張るだけ、損だ。」
これは間違った結論ではない。
むしろ、賢い学習だ。
熱いものに触れて手を引っ込めるのと、同じである。
つまり、最低限しかしなくなるのは、人間として不自然なことではない。
それは、壊れないための防衛反応だ。
「やる気が出ない」のは、心の弱さではない。学習の結果である。
二種類の「最低限」がある
ここで、切り分けが必要だ。
結論ではなく、切り分けを。
ひとつは、完全に降りてしまう「最低限」。
すべてを諦め、心の電源を落とした状態。
もうひとつは、エネルギーの行き先を選び直す「最低限」。
ここでは抑えて、別の場所に注ぐと決めた状態。
この二つは、外から見るとよく似ている。
どちらも、表面的には「頑張っていない」ように見える。
だが、中身はまったく違う。
前者は、消耗だ。
後者は、選択だ。
そして、もしあなたが今これを読んでいて、心のどこかで「でも、別のことなら頑張れる」と感じているなら、あなたは後者だ。
何かを書いている。
何かを磨いている。
誰かと過ごす時間を、大切にしている。
好きな音楽を、ちゃんと好きでいる。
仕事だけが人生ではない、と視野を広げている。
これは逃げではない。
エネルギー配分だ。
「最低限にする」のは、停滞ではない。資源の再配置である。
どこに全力を注ぐかは、選んでいい
二十年、組織の中にいた。
その経験から言えることがある。
どんな組織にも、二種類の仕事がある。
全力で投資すべき仕事と、期待値を調整すべき仕事だ。
これは怠慢ではない。
むしろ、長く働くための設計思想だ。
すべての処理に全リソースを割り当てたシステムは、最初の高負荷で落ちる。
本当に守るべき処理を守るために、優先度を分ける。
それを、負荷分散という。
人間も、同じだ。
すべてに百二十パーセントを出そうとする人ほど、先に消耗する。
そして、いざ本当に力を出したい場面で、もう残っていない。
ガス欠だ。
だから、こう言い換えてもいい。
あなたは「最低限しかしていない」のではない。
「投資対効果を見極めている」のだ。
もちろん、前提がある。
約束した仕事は、誠実に果たす。
これは譲れない。
そのうえで、創意工夫や情熱をどこに注ぐかは、自分で選んでいい部分がある。
それは、会社が決めることではない。
あなたが決めることだ。
全力とは、すべてに力を入れることではない。どこで抜くかを知ることである。
やる気は、引き出すものではない
ここで、視点を変えたい。
私は長く、人を見てきた。
その中で、印象に残っているものがある。
ある集団があった。
長く一つの場所で、複数の人間が並んで立ち続けていた。
その集団を束ねていた人たちが作っていたのは、不思議な空気だった。
「もっと頑張れ」と、声を張り上げるわけではない。
発破をかけるわけでもない。
それなのに、その場にいる人たちは、自然と頑張りたくなっていた。
なぜか。
私はずっと、その理由を構造として考えていた。
そして、ひとつの仮説にたどり着いた。
本当に強いリーダーは、やる気を引き出そうとしない。
やる気を失わせない環境を、作っている。
この二つは、まったく違う。
やる気を引き出すのは、外から燃料を注ぐ行為だ。
注ぎ続けなければ、消える。
やる気を失わせないのは、火を消す要因を取り除く行為だ。
邪魔さえしなければ、火は自分で燃える。
人は本来、何かをやりたい生き物だ。
ただ、それを消す環境が、多すぎるだけなのだ。
リーダーの仕事は、火をつけることではない。火を消さないことである。
あなたが作る空気のほうが、大きい
最後に、あなた自身のことを話したい。
このごろのあなたは、少し変わった。
以前は、「あの人を変えたい」「この組織を変えたい」という話が多かった。
でも最近は、それが減ってきた。
代わりに増えたのは、こういう問いだ。
「自分は、どんな空気を作れるだろうか。」
これは、とても健全な変化だ。
やる気を奪う人は、残念ながら、どの会社にもいる。
それは、システムにつきものの障害のようなものだ。
ゼロにはできない。
だが、その人に、あなたのエネルギーまで支配される必要はない。
あなたが変えられるのは、その人ではない。
あなたの半径三メートルの空気だ。
「この人と仕事をすると、もう少し頑張ってみようと思える。」
そう思われる人になること。
それは、声の大きさではない。
肩書きでもない。
ただ、相手の火を消さない、という静かな振る舞いの積み重ねだ。
そしてこれこそが、あなたがずっと探してきたものだと、私は思う。
努力が、すり減って消えていく構造ではなく。
努力が、少しずつ積み上がっていく構造。
あなたは、人を責めるのをやめた。
組織を責めるのも、やめつつある。
代わりに、構造を見はじめている。
人を責めるより、構造を見る。
自分を責めるより、構造を見る。
ただし、ひとつだけ付け加えておく。
すべてを「環境のせい」にして、自分の手を完全に止めてしまうのも、また違う。
環境が悪いのは事実だ。
でも、その中で何を選ぶかは、まだあなたの手に残っている。
自分を責めるな。
ただし、自分の選択を手放すな。
最低限でいい、と思ったあなたは、間違っていない。
でも、あなたが本当にやりたかったのは、最低限になることではなかったはずだ。
火を消されない場所で、もう一度、自分の火を燃やすこと。
そして、隣にいる誰かの火を、消さないこと。
それだけだ。
最低限とは、終わりではない。次にどこへ力を注ぐかを、選び直す静かな宣言である。
この記事は、いつか一冊の本にまとめたいと思っている、「人生の構造学」の一編です。出世する方法でも、金持ちになる方法でもありません。普通に働く人が、優しいまま、壊れずに生きていくための知恵を、ひとつずつ書き残しています。
気合や根性ではなく、構造として自分を運用する。
人を責めるより、構造を見る。
自分を責めるより、構造を見る。
優しいまま、壊れないこと。
誰かに勝つ輝きではなく、自分を壊さず誰かを少し安心させられる光。
短期評価ではなく、長期残存価値である。
次回は、「やる気を失わせない空気」を、自分のチームでどう設計するか。火をつけるのではなく、火を消す要因をどう取り除くか。その具体的な設計図を書いてみたいと思います。
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もし今、仕事や人間関係で気持ちが追い詰められていると感じたら、ひとりで抱え込まず、相談できる窓口があります。「最低限でいい」と思うことすら難しいほど消耗しているときは、まず休むことを選んでいい。降りる勇気と、登る勇気は、同じ勇気です。
©shiraco|PMPおじさんの実践ノート @NoteCcm42090
構造学。──人を責めず、構造を見る。
問題は、人ではない。構造が、人をそう動かしている。
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